ある夏の日のわたしのぬけがら

鯣 肴

ある夏の日のわたしのぬけがら

01.大切にしているもの

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私には、大切にしているものがある。


それは、特に珍しいものでは無い。

    値段がつくものでも無い。

    綺麗でも無い。


私にとっても、それは宝物と云えるものでは無い。

しかし大切に保管してある。


その中には、あの日の私が居るのだから。


02.一日目

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7年前、私が8歳だったときのこと。

それは、夏休み最後の週の夕方のことだった。


夕方の神社。斜めに振り下ろす茜色の光。

明るいような暗いような。


迫る夏の終わり、私は物足りなさを感じていた。


私はたまたまそこで見つけた。

地面を動く殻を見つけた。

そう、蝉の幼虫だ。


私はそれを自分のものにしたくなった。

両の手で覆い、自分のものにした。


私は家に向かって駆け出した。

茜色の光は沈み、暗くなっていった。


私は、動く殻をコンクリートの地面に置き、籠で覆った。


03.二日目

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次の日、籠の中を見た。


私は自身の目を疑った。

そこに居たのは背を向けた白い蜻蛉。飛び立つ気配はなかった。


びっくりして、籠で覆った。


04.最終日

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その次の日、籠の中を見た。


中に居たのは蝉だった。それは飛び立った。

抜け殻を残して。


それは夏休み最後の日だった。


05.わたしのぬけがら

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私は物足りなさを感じると、抜け殻を手にとって眺める。


物足りなかった夏の終わりに味わったわくわく。

それがこの抜け殻には籠っているのだ。


-------------------------------------------------------------------終---

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