第29話


「ねえ、これからあたしたち、どうなるの」


 ぷらぷらと足を前後に揺らしながら、横に座っている玉井柚季に少しだけ重たい疑問を振ってみる。


 いつの間にか窓ガラス越しに見える空は濃紺から淡い水色に変わり始めていた。1日の始まりを告げる陽の光が、徹夜明けの目に暴力的なほど眩しい。後二時間もすれば、一時限目の合図を知らせる鐘が校内に鳴り響くのだろう。終わらないでほしいと思うほど、時間の流れは速さを増していく気がする。


 繋いだ左手をそのままにしたまま、玉井柚季は「さあな」と呟いた。


「まあ、どうにかなるだろ。お前は、図太くて、生命力あって、何処でも生きていけそうだし」

「何それ。あたしのこと、いつか、捨てるの?」

「あー、お前って、…ほんっとうに、めんどくせえ!」


 玉井柚季がうんざりしたような顔をした途端、あたしの口からはしゃぐような笑い声が漏れる。幸せだった。幸せすぎて怖いくらいだった。

 くだらない軽口のやりとり、手のひらの熱、玉井柚季があたしを拒否しないこと、始めてふたりで迎えた埃っぽい学生ホールの朝。その全てが、きっとこれから、あたしたちの忘れられない記憶に変わっていくのだという予感がした。


 舞台を降りて、あたしたちはふたりでホールの出口に向かう。扉の向こうに何が待っているのかは分からなかったけれど、彼女が居るなら、もう何も怖くない。そう思えた。


 あたしたちを包み込んだのは真っ白な閃光だった。目を瞬かせながら、一歩一歩を踏みしめるように進む。あるのか無いのかさえ分からない道を、手探りで探しながら。玉井柚季はあたしの方を振り返って、「まずはさ、朝ごはん、食べに行こう」と言った。















【了】

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犬と猫の恋人ごっこ ふわり @fuwari

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