シリアスなもの以外は摂取できません!!

ちびまるフォイ

死因:シリアスな展開

「シリアスアレルギーですね。これ以上のシリアスは致死量に達します」


「そんな! 警察24時とか好きなのに!!」


「実は私も同じ病気なんですよ。辛さはよ~~くわかります。

 ですが、シリアスだけはこれ以上摂取しないようにしてくださいね」


「はい……」


医者に死刑宣告を受けたような気分だった。

シリアスなものが好きだったが治るまではそれもできない。


「この先どうしていけばいいんだろう……」


娯楽はすべてシリアスで統一されていた。

ゲームもテレビも人と話すことすらシリアスな話題を好んだ。


でもそれはもうできない。



シリアスを摂取できないまま2週間が過ぎた。


鏡にうつる自分はやつれて目はうつろになっていた。


「人間って娯楽がなくなると、こんなになるのかぁ……」


ぼーっとしていると急激に胸が苦しくなった。

シリアスアレルギーの発作だ。


「ま、まずいっ……なんでっ……どうしてっ……!!」


発作を止める薬で難を逃れたが死神がすぐそこまで来ていた。危ない。

いったいどうしてアレルギーの発作が起きたのか。


「はっ! まさか、自分の状況をシリアスに感じたのか!?」


鏡に映る自分を見て重く受け止めてしまった。

「やせてラッキー」くらいならまだしも「こんなになるのか」などと

自殺一歩手前の人のように重く悩んでしまった。シリアスだ。


「なんてことだ……俺はもう自分自身の状況すら受け止めたら死ぬのか……」


もともとネガティブなのに。

この先、自分の状況を意識せずに生きていくなんてできるだろうか。

できたとしてもそんな人生が楽しいとは思えない。


ああ、ほら。またシリアスに考えていしまっている……。

もうだめだ……。


「もういいや……どうでもいい……。

 せめて最後くらい自分の手でシリアスをとって死んでやるさ……」


禁止していたテレビをつけた。

きっと世界各国で起きているシリアスな出来事を報道しているだろう。


『パンダ動物園に可愛いパンダの赤ちゃんが生まれました!』

『今、若い人の間で流行っているスイーツを徹底検証します!』

『最新映画の吹き替えを担当した方に独占インタビュー!』



「あ、あれ……? ぜんぜんシリアスじゃないぞ……?」


死ぬ気まんまんだったのにいくらチャンネルを変えてもシリアスはない。

きっと、食料飢饉とか世界情勢とかシリアスな話題はいくらでもあるのに。


これでは死ぬに死ねないじゃないか。


「そうだ!! 映画だ! 映画を見に行こう!」


よく調べもせずに映画へ特攻した。シリアスな展開でひっそりと死ねるだろう。

けれど、いくら映画を見てもシリアスにはたどり着かない。


『君を愛している……!』

『これで世界は平和になったな』

『やっとあの呪いの家から脱出できた!』


「だめだだめだ……なんかどれもハッピーじゃないか!」


映画館に入り浸ってもハッピーなものばかりでシリアスがない。

いつまでたっても死にぞこなってばかりだ。


それからゲームをしても小説を読んでもなにをしてもシリアスは摂取できない。

世界はいつからこんなにハッピーで口当たりのいいものばかりになったんだ。


諦めたころ、定期検診にまた医者のもとに訪れた。


「す、すばらしい!! 治ってますよ!」


「……は?」


「シリアスアレルギーが治ってるんですよ! うらやましい!

 あなたはハッピーなものをたくさん体に入れたから、

 シリアスでけがれていた心がきれいになって病気が治ったんです!」


「本当ですか!? やったぁ!

 これからはシリアスもハッピーもバランスよくとりますね!!」


かくして俺は普通の日常へと戻ることができた。





「ぐっ! ぐはっ……! ほ、発作が……!!」


「せ、先生!?」


安心したのもつかの間、医者は急に苦しみだした。

ひたいには脂汗がにじんで息ができなくなっている。


「これは……シリアスアレルギーの発作!?

 先生、いまのやりとりのどこがシリアスだったんですか!

 完全なハッピーエンドだったじゃないですか!!」


医者は息もたえだえに答えた。




「か……患者かねづるがいなくなると思ったら急に苦しく……!」

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