第14話 路傍の石と宝石箱
「ねえ、舞台に行きましょう」
練習場所でギターを抱えて数分、なにもしない伊達にそういってきたのはベアトリーチェだった。
「舞台? そんなのありましたっけ。それに他の方は?」
遠回しに断る伊達に、なおベアトリーチェはチケットを差し出す。
そんなことをしている場合ではないのだと伊達は舌打ちしそうになった。
女性に対してあるまじきことである。自分の余裕のなさを自覚して恥じた。
しかし、リロイに貰ったスキットルの中身に口をつけたものの末路が気になって仕方がない。
――四人のうち、誰がうそつきなのか。
――もしリロイが嘘つきなら、理由がわからない。でももし彼が嘘つきだったら大変なことになるかもしれない。
過去、エーリッヒが中毒者であったこと。増えた麻薬中毒者。
バラバラであってしかるべきキーワードが繋がって、嫌な予感が膨らむ。
――エーリッヒが嘘つきならつかれている嘘も理由も想像がつく。
しかしあの演奏を思い出すと、そんなどこにでもある話に収まるだろうかと震える。
――ルシィ? ベアトリーチェ?
ルシィは行き過ぎなほど真っ直ぐなだけという印象が強い。
何かしていてもおかしくないが、まどろっこしい真似を好むだろうかとウダウタ悩む。
すぐに逃げ出さないのは、日々磨きあげられていく音楽の技に既に中毒になっているからだ。
もしできるなら勘違いであってほしい、ここに居たい、ずっと音楽を聴いていたいと思ってしまう。
真実を確かめるために伊達はこっそり探りを入れている最中だった。
話しかければエーリッヒは喜んでくれるが、肝心のリロイはあいまいだ。
酒の感想を聴かれた時の言い訳も品切れ目前である。
変にひかえず、まっすぐに訊ねることも考えた。無理だった。
『嘘つき』の存在を考えるとはばかられる。
真相を恐れているがゆえの言い訳かもしれない。
なんにせよ、ここから離れて舞台が終わるまでは拘束されることになる。
時間が惜しかった。
「いいから」
渋る伊達にベアトリーチェは手をとってチケットを握らせる。
伊達より低い体温、柔らかで長く細い指が親指のあたりをかすめていった。
故郷の勝気なお姉さんが子どもに菓子を押し付けた時の動作にそっくりだった。微笑ましい。
一方で、彼女は故郷のお姉さんではなく、ベアトリーチェだ。
あのベアトリーチェである。
伊達もよほどのものを感じた。口をキュっと真一文字に引き直す。
「おれでいいの?」
「ええ。そういえば、お酒は飲んだ?」
「……いや」
「そう。なら色々話すわ、変に隠してもばればれなのよ」
ぎくりと肩がはねる。
――ああ、こういうところがばればれなんだな。
「わかった」
頷いてチケットを受け取る。
よく見ると丁寧ではあるが、どうみても手作りだった。恐らく学生か駆け出しの劇団といったところだろうか。
――しかし何故、舞台?
話すだけなら場所は他にある。邪魔をしないためには避けた方がいいぐらいだ。
何か思惑があるのだとしたら、警戒するのがまともな思考だろう。
なのに伊達は、敵意もなくついていこうとしている。
頭の鈍い男だと嗤われれば己でも笑うしかない。
――だってベアトリーチェは最初から警告してたんだから。
あまりに伝わらない方法ではあったが、伊達を心配してくれたのだ。
彼女までもが伊達をいかにしてか騙そうとしていたというのなら、もはやその渦中に飛び込んでも構わない。
そう思った。
舞台は明日。明日は、休みだった。
舞台といっても仰々しいものでもない。
チケットの裏に描かれた地図は簡素で、きてみれば汚れた壁と日のささない湿った土に囲まれた陰気な場所だった。
使い捨てられた空き場所を借りたのだと予想がつく。
伊達も駆け出しの頃は親近感を覚えて舞台を見に来たものだ。
「なつかしいなぁ」
理解も浅ければ、技術も未熟。
十分に準備をしてからでは、あっという間において行かれる。
金持ちでもない限り、まだまだ土台が不十分な音楽界で、若人に一番ちからを与えてくれるのは経験だった。
罵られ、馬鹿にされても、ひたすら実践を重ねるしかない。
心の支えは、辛酸をなめ、なお戦う同胞たちの背中だったのだ。
「あの頃はここまで来るとは思ってなかっ――」
浸りかけた思い出を振り払おうと、伊達は激しく首を左右に振る。
――まだ昔のことじゃない。最近が濃すぎてすっかりそんな気分になってしまった。油断はいけない。
道が遠い。ちゃんとわかっている。
腕をあげ自信がついたのはいいことだが、上から目線になるのは嫌だ。
入口の前で暇を持て余し、伊達は自戒に励む。
待ち合わせ時間まで、あと二十分ほどあった。
伊達が到着してから十五分して、ヒールの足音がやってきた。
「随分早いのね」
「懐かしくて足が急ぎました」
あなたと会うのが楽しみでなんてきざすぎる。
別の本音を返すと、時間通りにやってきたベアトリーチェの方を見た。
「いいことね。さ、なかへ」
とった手は雪のように白く冷たい。皮膚のうわべがじんと痺れる。
彼女は舞台にあがるときのドレスでもなく、練習場にいるときの簡素な服でもなく、普通の女性のようにお洒落をしていた。
胸元が逆三角に空いた形のワンピースは、歩く度エレガントなドレープが波打つ。その布のない部分は首から下がフリルのシャツに覆われ、愛らしく秘されていた。
履いているのは黒い編み上げのブーツで現代の女性らしい溌剌はつらつさを主張する。
「綺麗だ」
「……ありがとう」
気づかぬうちにこぼれた言葉はしっかり届く。
赤い色がよく目立つ。
気分がよくなったが、劇場内に入ると薄暗さにわかりづらくなってしまった。
あと数分で開始のはずだ。
客は少ない。両手の指で足りる。無名の劇団ではこんなところだ。
「ミュージカルって知っている?」
席に着くなり、伊達はベアトリーチェに尋ねられた。
目線を合わせるために横を見た。しかし、ベアトリーチェは粗末な舞台だけをまっすぐに見て、みじんも視線をよこさない。
伊達も舞台に目を戻す。
異国の言葉について《ミモザ》の店主なみには詳しくない。
ただ今回に関しては答えられる。異国の楽器に手を出す程度には興味があるのだ。
ましてや音楽関係だ。幸運にも、伊達には調べた覚えがあった。
「音楽の、音楽的、音楽の才能、音楽好きという意味の外国語、だっけ」
「合っているけれど違うわ。音楽、歌、台詞と踊りをあわせた演劇。『地獄のオルフェ』とかオペレッタは知っているかしら」
「『地獄のオルフェ』……ああ、『天国と地獄』か。そっちのタイトルでなら観たことがある。あれはオーケストラが音楽をやるんだよな、ここでは狭いよ」
「ええ。ミュージカルはその点、少人数よ」
「少人数? うまくまわるのかい?」
「オペレッタとショーが結びついたようなもので、なかなか楽しいの。まだまだ発展途上で知る人は少ないから、こんなところでやろうとしている人たちがいて驚いた」
なるほど。耳をすませば控えめな楽器の音色がいくつか聞こえる。
――騒音を気にしているのか? 必要なことなのだから思いっきりやればよいのに。
本番で調子を狂わせるよりよほどましだ。
楽器の音色の数からいってバンドだ。
人の足音もあるが重なり方がまばらだ。五、六人に思われる。
ベアトリーチェに聴いた通り、あまり聞かない形態だ。
「本当だね、面白そうだ」
いつのどこにも、挑んでいくものはいるのだと嬉しくなった。
新しい芽は、存在するだけで魂に熱が灯る。
――あれ、おれ、こんな耳よかったかな。
勿論耳は大事にしているが。また新しいことに気づいて、盛り上がりかけた気分が沈む。沈むと耳鳴りが不快にザザザと気を散らす。
渋面をつくる伊達の手の甲にそっとベアトリーチェが指先をあてた。
つついたままひっこめない。ささやかな面積から奪われる熱に気をとられる。
奇妙なことに、雑音が収まっていく。
平静を取り戻した伊達に、ベアトリーチェは小声で話し始める。
あまりきかない、彼女自身の話だった。
「わたし、歌とワインと弦楽器は好き。ルシィは歌が嫌いだけれど」
「ルシィが? どうして。あんなに音楽が好きなのに、意外だ」
「歌詞があるから。言葉のない歌は好きだけれど、伝える形を定めてしまったものは嫌いだって」
「らしいといえばらしいなぁ」
普通であれば当たり前の、趣味嗜好の話だ。
だが、ベアトリーチェから好みをきくのは初めてだった。
彼女はいつだって無言か、忠告か、問いかけに分からない形で答えるかだった。
「鳥の歌は好きだというの。命で奏でる音色、魂の歌だから」
以前も聞いた話をベアトリーチェも繰り返す。
ルシィにとっては、鳥の歌はイデアであるようだ。
ルシィの求める魂の鳴き声を表すために、言葉という元々伝えるためにあるツールを使う。それは逃げだと感じているのだ、と容易く想像できた。
伊達もたいがい《オーリム》に染まってきている。
「だから俺を誘ったの?」
「それもあるわね。ルシィはあまり誘えないの。趣味の趣味が合わないのね」
音楽の趣味は合うのに。
「でもベアトリーチェは好きなんだよね」
「ええ。音色に言葉を乗せてはっきりと自分の想いを込める。音階を並べ旋律を紡ぎ、ことを伝え継ぐも、言葉を編むも人のわざ、歌は人類の叡智がひとつだわ」
《オーリム》にありながら彼女はルシィと異なることを唱える。
ベアトリーチェもルシィと仲良く話に花を咲かせたり、髪をいじりあったり仲が良い。
このようにベアトリーチェはルシィに好意をもって接しながら、その行いには時折顔をしかめることがあった。
彼女たちの間にあったことは伊達にはとてもわからない。
「けれど、ルシィの求める音に言葉はいらない。彼女の求める音は明晰であるがゆえに、とても、とても難しくて……だから、リロイは」
食いついてくるのを誘うように区切る。
先を促して上目遣いに見やるも、彼女は舞台の方に目をやっていた。
「もうすぐ始まるから終わったらにしましょう。気を散らしてみては、失礼よ」
「そんな殺生な」
わかっていてやられている。
わざと茶化して責めると、彼女はニヤリと唇の片側を吊り上げた。
玲瓏な美貌が相まって、嫌な気持ちより妙な喜び――面白さだとか、愉快さだとか――が上回る。
いかにも資金を節約して購入した安い椅子に腰をかけなおす。
気になることは気になる。
――が、音に向かい合うなら話はあとだ。
自分たちと同じく感覚と娯楽に飛び込もうという者たちに、理由のない好意を抱く。
なので、ひとまず忘れることにした。
呼びかけとともに部屋の照明が落とされ、舞台にスポットライトが当てられる。シャーっとひかれる幕の後ろに混ざって押し殺した足音が潜んでいた。
本当に金がないようだ。声も若かった。
独学で色々やっているのかも。想像してにやつく。
どんな出来でも懸命に闘うさまは美しい。
やがて、ほんの少し流行を過ぎた服を着た男がスキップのように躍り出てきた。
「ああ、もう一度君に会えたなら――」
始まったばかりの台詞はいたって単調な響きであった。
彼がその一言を終えたところで、見えない位置でバンドが演奏を始める。
軽快で、悪く言えば安っぽい。
飛ぶたび、ドタッとすっとんきょうな鈍い足音が響く。
音楽も騒がしく慌てていて、子どもの運動会じみていた。
人の目を引き付ける大げさな手振り身振りに、耳に残りやすいメロディと台詞づけだ。
どこか聞き覚えのあるものが多く、あちこちを参考にしているのだと知れる。
楽器の音色もホールの音響は悪い。
陶酔はできない。
しかし、懐かしく暖かな気持ちがこみあげる。失いかけたものを見せつけられている気がした。
――なるほど、これは娯楽の歌なんだ。
楽しみ、楽しませるためのショーなのだ。
シンプルに、王道に。舞台が質素になることを考慮したのか、人心を躍らせることを目標にした演出と比べ、ストーリーは物悲しい。
舞台は現代だ。恋人が死して嘆く男は哀しみのあまり、恋人の墓穴を掘り返す。
穴の向こうはあの世と繋がっていて、死者の王と話して恋人と帰ろうとする、というものだ。
神話をベースにした物語は、アレンジ以外にも変わった点があった。
男がころころと表情を変え、よく笑うことだ。
仮面を取り返えるように明瞭すぎる表情の変わり様は、素人らしさが濃い。
ただ、その激しさと、愛しい人を取り戻せるのだと盲信する恋心からもたらされる笑顔は、彼を滑稽な道化に見せる。
王道を一歩踏み外した愚かさが、悲劇を喜劇の如く彩っていた。
「面白かった」
素晴らしい舞台、とはいわない。だがいつか大きく羽ばたいて欲しい、余計な感情や知識を抜きにしてそう思えた。
彼らはこれから切磋琢磨してくのだろう。
グループは厄介なところもあるが、そういったところは素晴らしい。
不思議と清々しい心もちだ。
「よかった。ああいう若い人たちが頑張っているのを見ると、背筋が伸びるわ」
「君だって若いのに」
「きっとあなたが思っているほどじゃあないわよ」
舞台が終わる頃には、並んだ若者たちは息も絶え絶えだった。
ミュージカルは動きが激しく、そのうえ無駄な動きがまだ多いので当然だ。
客のなかには難しい顔をしているものがいた。
伊達はできるだけの笑顔を浮かべ、できる限りはっきりと拍手した。
隣のベアトリーチェは仏頂面で足を組み、乾いてよく響く音を鳴らしていた。
視線は彼らをしっかりとみていた。
青い瞳には深い敬意と賛美が込められていたのだろう。
若者は泣きそうな顔で、しかし笑っていた。
「よく今回みたいなのには行くのかい」
「機会があれば。今回は、演じるメンバーも内容も、是非あなたに見せたかった」
「そ、そうかい? なんだか照れるね……」
「へえ」
ベアトリーチェはあくまで淡々としていた。
口角はかすかに緩んでいたのだが。会話が続かない。
伊達は焦って、とりあえず舌を回す。
「そうだ、えっと、さっきのとか、それは一体どういう意味なんだ」
前に進み続けようとする彼女の細腕を掴み、ひきとめる。
ベアトリーチェは横顔だけが見えるように後ろを見やった。
考えるように、顎に指を当てる。ベアトリーチェがもったいぶった態度をとると、悪い予感がするのは人柄のなせるわざか。
これがルシィであれば、嫌な予感に逃げ帰っていた。
やがてベアトリーチェは、自由な片手で道をさした。
「来なさい」
いつかを思い出して首を振る。
――そんな都合のいいことはありゃしないさ。
何より伊達がベアトリーチェについていくことは、既に決定事項であるようだった。
今の伊達には彼女の強硬さが心地よい。
自分から伊達に触れることはなく、ずんずん彼女は歩いていく。
軽く反った姿勢と背中は凛として美しい。
戦乙女に導かれる幻を抱いだいてついていくと、長屋に辿りついた。
「わたし、ここに住んでいるの。楽器は弾けないのが困りものなんだけれど、ここの人は外国人もおいてくれる程度には心が広くて助かるわ」
玄関で靴を脱ぎ、当たり前のようにあがる。
突っ立ってしまう伊達を容赦なく手招く。
「お、お邪魔します」
外国では靴を脱がないと聞いていたので少し驚く。
長屋の一室は障子と木、畳に囲まれた部屋。ありふれた、材料とつくり自体は平凡な部屋だ。だが、ベアトリーチェの私物であろう楽譜や西洋の鏡などが配置されていた。
和洋が遠慮せず自らの色合いを主張する奇異な空間と化している。
「まず、何から話したものかしらね……」
滅多にお目にかからない空間を、物珍しい目で見ていた伊達を置いて、ベアトリーチェは室内を探る。
ワインの瓶を引っ張り出して、二つのグラスに赤いワインを注ぐ。
とくとくと液体が落ちていく音色に心臓の鼓動に似たリズムを感じて、無意識に安らぐ。
腰を掛けるように促され、素直に座る。
思案顔のベアトリーチェに、伊達は口火をきった。
「《オーリム》には一人、嘘つきがいるといわれた。リロイはおれに嘘をついているのか?」
「単刀直入ね」
ベアトリーチェはたまらずと吹き出す。
空虚な笑いだった。
「誰に言われたの?」
「麻薬中毒の浮浪者で、クラリネット演奏者の男性。多分、元は《オーリム》のメンバー候補だったんじゃないかな、と思って。それで、エーリッヒも元麻薬患者だと聞いて」
忌々しげにため息をついて、机に乗せたグラスをすっと前に運ばれた。
赤い湖面が光と視線を取り込んで艶めかしく照る。
「そう、そこまで。いいわ、じゃあそこから入りましょうか。まずはあなたはどう思っているのか聞いていいかしら」
ベアトーチェはキャビネットにむかう。つまり、また伊達に背を向けた。
落ち着けない時間の訪れに、無性に動き回りたくなるのをこらえる。
真剣な時間だ。子どものように騒ぎ立てるのはふさわしくない。
「正直、誰がそうだっていう確証や証拠はないんだ。だから一番そうだったら嫌な人を考えたらリロイだった」
「嫌な理由?」
「彼がくれたスキットルの中身が麻薬だったら、って。これでメンバー候補を中毒者にしているのだとしたら……ただもしそうなら理由がわからない。麻薬では音を奏でる指が鈍りかねない」
楽器を潰すことは彼の本意ではないはずだ。それともあの信念すら嘘だったのか。
「あら、そう? 案外シンプルよ」
キャビネットの中身を探っていたベアトリーチェがいったん戻ってきてワインで口を湿らせる。
熟れた林檎色の唇にルビーが溶けた液体がつるりと流れていく。
話題が話題、場所が場所なら、二人は瀟洒な恋人同士のようであっただろう。
「ルシィが求める理想は高くて遠いから、お気に入りが逃げて行かないようにしたいの。だから時が来て離れられなくなるまで、縛り付ける。もう逃げられないはずのエーリッヒにくれてやった理由はよくわからないけれど」
目的のものを見つけたのか、こちらに戻ってくる。
座らずに二本の足をのばしたままでいるから、伊達も立つ。
彼女はそこまで言って気まずそうに視線を逸らす。
確かに言いやすい話ではかろうと理解を示せたのもつかの間だった。
「彼曰く、人の魂は不滅であれど神聖ではないのですって」
「えっと、はい?」
突然の話題についていけず、簡素に疑問符を浮かべる。
「俺の気持ちを和らげたいなら、別に」
「違うわ。なんといったらいいのか。今知ってもらわないと困るのだけれど……そうね、手っ取り早くいきましょう。ねえ、」
ベアトリーチェが一歩伊達に近づく。食卓ほど空いていた距離がなくなって、整った相貌が近づき退のきそうになる。
――男性に対して警戒がなさすぎるのではないか?
そんな場違いなことを思う。期待してしまいそうだ。
ベアトリーチェは優美な白い指を伊達の胸元に添える。
「あなた、ルシィと、その……彼女の誘いに乗ったのよね」
恥ずかしいのか、彼女は眉を八の字にして途中で言い直す。
火照りかけた肌が一瞬で冷え切った。
下腹部に硬い感触がある。
彼女がキャビネットから取り出して、今伊達の腹部に押し付けているものを目線を下げてみた。
彼女の髪によく似た色合いが金属特有のやり方で灯りを反射する。
それは銀色に輝く拳銃であった。
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