第3話
濃い緑が日差しを和らげる。僕は木陰になっているベンチに腰を下ろす。
少し不快に思える暑さを感じた僕は、約束の場所をフィンランディアにしておけばよかったと後悔し始めていた。そして、約束の相手は時間を守ってくれる確証がない人物だった。
約束の時刻から三十分ほど経過した頃、腐ったトマトのような色のズボンを履いた彼が現れた。僕は手を振る彼のサインを無視して腕を組んでみせ、軽蔑の眼差しも送ろうかと考えていた。
「ごめんごめん、ちょっと寝坊しちゃって」
軽率な口と態度に帰ろうかと思ったが、いつもの通りだと自分を落ち着かせる。
「言い訳は後で聞くから。とりあえず、あっちにいこう」
僕は公園の横にある自動販売機を指差すと、彼の横を歩きだす。
喉が渇いたと彼に伝えると、小銭入れを取り出し百二十円を掴んだ。少し錆びたような自動販売機を目の前にし、僕は他のこれも錆びたような風体で佇んでいるのだろうかと考えた。風雨に晒されるのはこれの使命のようなものかもしれないが、どのくらいの時間、ここにいたらこうなるのだろうか。
「ねえ、なに飲むの」
彼がそう尋ねてくるので、僕はいつも飲んでいる炭酸飲料のボタンを押すと、真新しいアルミ缶が清々しい中身を伴って排出された。プルタブを引きおこすと五月には相応しくないような音がした。
僕と彼は二人で自動販売機横のベンチに腰を下ろすと、約束のことを話し始めた。彼は少し言い淀みながらも、バイト先での出来事を話す。正確にはバイト先で彼が見た出来事の話だ。
「三日前かな。たぶん、そう。お前の彼女が知らない男と店に来てたんだよ」
そう話す彼の表情は僕以上に真剣そのものだった。五月には似つかわしくないほど、冷え切ったアルミ缶を持つ手が汗をかいていた。
星の砂 崗本琢也 @koorin
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