終章

終話 前向きに生きていく

 その日の夜、村の人達からタップリとお礼を言われ、食事も振るわれた俺は、体もサッパリさせて寝室へと向かい、ベッドに座った後に目の前で浮いている妖精を睨みつけた。


「さて……話して貰おうか」


『はいはい~まぁ、あなたはもう大丈夫だと思うから話すけど、あんまり早すぎたら皆目の色変えるからね、だから最初は違う情報を話して、時期を見て本当の事をはなしてるの』


「ほぉ……それは、よっぽど良い事なんだろうな?」


『そうよ~』


 すると、妖精は意気揚々と俺の周りを飛び回り、俺の様子を眺め始めた。あんまみんじゃねぇよ。


『ここからどうなるかは分からないけれど、それでもあなたにはその素質が備わり始めたわね~英雄になれる素質がね~』


「英雄?」


 更正プログラムをしっかりとやれば、英雄になれるのか? おいおい、地獄に落ちるとか消滅はどこに……。


『更正出来なれけば消滅はあるけれど、更正出来ても地獄行きには、1つ隠している事があったの』


「ほぉ、それは?」


『この世界の人達に感謝される行動を積み重ね、善行を続けていって、人々があなたの力を、あなたの存在を認めて求めたら、英雄としてこの世界で生き続ける事を認める、というものがあるの』


「……なるほどな。ただ、更正しても人々に認められず、求められなければ……」


『地獄へGo!』


 腕を上げて高らかに宣言するな。つまり更正プログラムってのは、不良達にとって最大の人生修正のチャンスってやつだったのか。

 ただ、それを最初に知っていれば……どんな手を使ってでも英雄扱いされてやると……そう思っていただろうな。それを防ぐ為に、英雄扱いされたらこの世界で生き続けても良いという事を隠したのか。


「なるほど、だいたい分かった」


『まぁ、この世界には英雄が殆どいないからね。だから、この更正プログラムはこの世界を良い世界にするためのものでもあるの』


 そう言いながら妖精は俺の周りをご機嫌に飛んでいるが、何故俺なのかも聞いておかないとだよな。


「そうなるとよ、その更正プログラムを当てる人物は誰でもってわけにはいかないだろう。条件とか……」


『願いがあったのよ。冥界の番人、閻魔大王様に向けてね。あなたに、この更正プログラムを行って欲しいという願いがね。それであなたの事を調べて、これなら更正させればってなったのよ。だって、あなたの中のものはそれだけの力を持ってるからね』


 そういう事だったのか。因みに、その願いを言った人物には心当たりがあるわ。向こうの世界では、俺の近くをうろちょろしていたあいつ。こっちの世界ではグランクラス国の王様……マクシミリアン。あのやろう……本当に好き勝手しやがって。


 そして俺は、そのままベッドに仰向けに寝ると、天井を見上げてこれまでの事を思い浮かべる。正直この世界で英雄扱いされるには、相当努力しないといけないだろうな。


「なぁ……その英雄扱いされるまでの期間って、やっぱ1年か?」


『それは更正までの期間よ。1年の間に規程の点数いってれば、消滅はないわ。ただし、英雄になれる見込みがあるとさらたら、そこから更に1年この世界で試されるの。その先はないけどね』


 つまり最長2年か……キツいだろうそれは。英雄扱いなんて、世界を救う程の事をしないといけない。だけど、俺はまだモンスターもろくに倒せていない。


 そんな中、あんな強力な奴等が俺の邪魔をしてくる。


「……ふふっ、面白ぇじゃねぇか」


 だけど、俺は不思議と笑みを浮かべていた。正直、少し興奮している。まだまだ強くならないといけないと思うと、あっちの世界では満たされなかった闘争心とか、色々な事が満たされそうだ。


『なによ、ちょっとはビビると思ったのに』


「ビビる? 誰がビビるってんだ? どんな強敵だろうと困難な事が起ころうと、こっちがそれに怖じ気づいたらそれを超える事なんて出来ねぇ。だから俺はいつでもビビらず立ち向かってきた」


 そうしねぇと、あのクソみたいな両親からは逃げられなかったからな。


『それなら……あんたの中のもちゃんと飼い慣らしなさいよ』


「んっ? あぁ……分かってるさ、やってやるよ。この『全世界の王』は、俺が飼ってやる」


 平行世界、その全宇宙。存在する全てのものの頂点に立っていた者。今は魂と精神が一体となって俺の魂に引っ付いているみたいだが、その原因も探れるなら探った方が良いだろうな。


 こんな危ない奴……好き勝手させるわけにはいかねぇ。全宇宙全世界を支配し、全てを無に帰そうとしたこんな危ない奴はな。


『まっ、そんな奴がな~んであんたの中にいるのやらだけど……だいぶ弱ってるようだし、更に上の存在にやられたのかしら? それであなたの中で大人しくしているのかもね』


「もしくは、何かの封印術とかか? だとしたら、その封印術は知っておいた方が……」


『まぁ、暴走自体も自分で押さえられるでしょうね』


 どうやら、こっちの世界ではやることが盛りだくさんだな。


 するとその時、俺の部屋の扉がノックされた後、ジルの声が聞こえてくる。


「マリナさん。明日の事で、ジュスト中佐が確認したい事があるらしいです」


「ん~? いったいなんだ? 分かった直ぐ行く!」


『どうせ大した用事じゃないんだから、あの子を部屋に連れ込んで襲っちゃえば?』


 妖精がなんか言ってるが、無視だ無視。


『ちょっと!! 一切動揺しないなんて、あなたジルの事が好きなんじゃないの?!』


 何を口走ってるのやら。異性としてとか、そういうのはまだ見る気はない。あいつはあいつで大変そうだからな。だから、俺は見守ってやって助けてやる。パートナーって感じだな。


「残念、お前の言葉ではもう動揺しねぇよ」


『……むむむ……はぁ、人を好きになれば更正も早いのに……まぁ良いわ、ゆっくりと……』


「おい、1つお前は勘違いしてるな」


『何よ?』


「誰が好きじゃないと言ったよ?」


『…………はっは~ん、紛らわしい事するわね~』


「うるせぇな。俺は俺のやり方でいかせてもらうわ、口出しするな!」


『はいは~い』


 その返事が本当かどうかは知らないが、少なくともしばらく大人しくしてくれるだろう。この俺の華麗な嘘でな。


『それじゃあ減点を~』


「てめぇ、待てや!!」


 バレてやがった! ちくしょう!!

 目の前にパソコンの画面みたいなスクリーンを映し出して、そこになにか打ちこんでやがる。


『良いから早く好きになりなさいよ~』


「なってたまるか!!」


「…………」


 あっ、やべ……そう言えばジルが呼びに来て……扉開けてんじゃねぇ馬鹿。同情の目を向けてんじゃねぇ!


「大変ですね、マリナさん」


「いや、あのなジル、これは違ってだな……」


「いや、誰の事を好きとかは分からないですが、恋愛は良いと思いますよ。だけど、自分の立場を考えて下さいね」


 そうか、ジルには妖精の声が聞こえてねぇから、自分の事だって分かってねぇのか! セーフだセーフ!


「あ~そうだよな、悪ぃ悪ぃ、よっしゃ行こうぜ~」


 そう言いながら、俺はジルの背中を押して部屋を後にする。


 そうだな、なにがあっても前のあの世界よりはマシだよな。前向きにこの世界で生きていく事にするとしようか。

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TSエルフの異世界奮闘記 yukke @yukke412

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