第二十二話 命の代償

 あの飛行艇の爆発から生きていたとは驚いたが、死人じゃねぇよな? だけど、相手が突然のジュストの登場に驚いているから、死人じゃねぇな。今のところ、死人はこの姉妹が復活させているだけだからな。


「ジュスト……生きてたならもっと早くに……」


「いやぁ……実は昨日にはあの村に着いていたのですがね、何やら問題が発生していたようで、丁度良いから2人の処理能力を見ていたのです」


「てめぇ……」


 本当に性格悪いな……ジュストの奴は。そんで、ジルはなんで震えているんだ? その姿で震えていたらカッコ悪ぃぞ。


「あなたは、まぁ……まだまだ軍に入りたてなので良いでしょう。しかし……ジルく~ん。あなたはいったい何をしているのですかぁ?」


「あっ……は、はい。す、すいません……」


 あっ……そうか見ていたのか……しかも昨日からいたということは、ご愁傷様だな……ジル。


「年齢は関係なく、あなたは一応マリナさんの先輩でしょう? 何ですか? あの体たらくは……仲良くご夫婦と会話して、家に連れて行かれてはそこでも好待遇」


「は、はい……」


 正座するなジル……ドラゴンが正座って、本当にカッコ悪いからな。まぁ、あとで慰めてやるか。それよりもさ……そろそろ相手してやろうぜ。怒ってるだろうな、あれは……。


「ちょっと!! 私達を無視なんて、良い度胸してるじゃない!」


「お姉ちゃん、殺って良いよね?」


 ジュスト、なにか対策を……と思った瞬間、セレストさんが手にした鞭を、姉妹に向けて放った。


「テネーブル・ミストラル!」


 すると、ゼリーがまた魔法を放ち、今度は黒い風が辺りに吹き荒れて、セレストさんの鞭をその風で防いだ。風は相性悪そうだな。なんなら俺が……。


「あなたは行かなくても良いですよ。もう、勝負はついていますからね」


「はっ?」


 俺がセレストさんの助太刀に行こうとしたら、ジュストの奴に止められてしまった。どういう事だ? 勝負はもうついてるだと?


「私は死者の研究をしていたので、あの古代神器の事も知っています。あの姉妹よりも詳しくね……」


 すると、ジュストは顔を曇らせながらそう言ってくる。おいおい、その顔はなにかマズい事にでもなるって感じの顔じゃねぇか。何が起きるんだよ。


「あの古代神器には、意思が宿ってます。自らが生命体として成り上がろうとして、使用者の命を奪っているのです。ですが……それをやると一気に年老いていくので、バレないように誤魔化す為の効果を付けたのですよ」


「それがあの若返りの効果……ですか」


「その通りです」


 ジュストの言葉にジルがそう答てるが、お前いつまで正座してんだよ……んっ? ちょっと待てよ……使用者のゼリーは婆さんだよな……で、命を奪ってるって事は……。


「ゼリー? どうしたの?!」


「先程の魔法で終了ですね。全く、バカな物に手を出しましたね」


 俺達の見ている前で、ゼリーが倒れた。しかも、息も絶え絶えな状態になっている。命が尽きたってわけか……嘘だろう。


「ジュスト……一応聞くけど、あれはもう……」


「どうにもなりません。あなたは、あの人の手から落ちたあの宝玉を砕くだけですよ」


 あぁ、ゼリーの手から転げ落ちて、こっちに来たな。それなら遠慮なく破壊させて貰おうか。

 そして俺は、地面に落ちた黒い宝玉の所まで行き、かかと落としで爆発を起こし、その宝玉を割った。


「ゼリー! ちょっと、ゼリー! あなたが死んだら私まで!」


「はぁ……はぁ……お姉ちゃん……ごめんなさい……」


「……馬鹿、ごめんは私よ……良く能力を調べずにあなたを」


 その後、ジュリーが倒れたゼリーの下に行き、その手を握りながら話している。自業自得とは言え、なんとか出来なかったのかねぇ……。


「あぁ……だけどお姉ちゃん……きっとあの世でまた直ぐに会えるよ」


「……あぁ、そっか。そうよね……うふふ。なんだ、あの約束……どちらかを蘇らせるんじゃなくて、どちらかが死んだらその後を追えば……」


「おい、ふざけんじゃねぇぞ」


 流石にその言葉は俺は許せねぇな。あとを追う? そんなの現実から逃げてる奴の定番の台詞じゃねぇか!

 だから、あとは見ているだけで良いものを、つい口出ししてしまった。


「後を追えば良い? てめぇ、そんな言葉簡単に使ってんじゃねぇよ。お前なら、死がどれだけ辛いか分かるだろう? それを大切な人にさせたいか?!」


「……あっ」


 俺だって死んだからな。あの痛みと苦しみは尋常じゃない。2度としたくなければ、大切な人にもさせたくはない。それなのに、簡単に後を追ってくれたらなんて言うなよ。


「お姉ちゃん……今なら分かるわ。死ぬ苦しさ……これは嫌ね」


「あぁ……ごめんなさい。ごめんなさい……ゼリー。私、あなたと離れたくなくて……」


「知ってるよ……私も、離れたくなかった……だから……」


 そう言うと、手を握り返していたゼリーの手が緩み、そのまま力が抜けたようになった。どうやらもう……。


 そしてその後直ぐに、ジュリーの体もボロボロに崩れていく。


「あなたもごめんなさい……色々、迷惑かけて……」


「いや、迷惑かけたのはあの村の人達だろう」


「あはっ、そうね……それじゃあ、伝えてくれるかしら……怖がらせてごめん……って」


「分かったよ」


 そして俺がそう言った後、ジュリーは俺に笑顔を向けた。その後、そのまま体が崩れ去っていき、土の塊のような物だけがそこに残った。


「さて……終わりましたね。それでは色々と説明をしたいので、先程の村に行きましょうか」


「あっ、あの……ジュスト中佐、せめて服を!」


「あなたは少しお仕置きが要りますからね~まぁ、歳が歳ですので仕方ない部分もあるとして、この程度にしておきますよ」


 この程度がえらくハードル高いな……こりゃジュストの前でミスは出来ねぇな。ジルが竜化から戻った瞬間、セレストが鞭でジルを縛り上げてしまい、裸のまま引きずられていく事になってしまっている。こぇぇ……。


「マリナさん……一応彼も男ですので、あまりそう見ないように」


「だったら服くらい着させてやれよ」


「そうですねぇ、先ずは私達が無事だった理由から」


 お~い、無視か~い。折角ジルを少しでも助けてやろうと思ったのに、厳しいじゃねぇか。まぁ、ジルの方は見ないでやろうか。


「……マリナさん、しっかりと見てますよ」


「気~のせいじゃねぇかな~」


 ヤバいな、最近の俺はどうかしてる。本当に、俺はおかしくなっちまったのか?!


「まぁ、私とセレストさんが無事だったのは、単純に部下達のお陰です。あの時隕石が見えた瞬間、直感で瞬間移動用の魔法を私達にかけましたからね。お陰で私達は助かりましたが……部下達は……」


「あ~まぁ……一応確認したよ。生存者がいるかもと思ってな」


「無理でしょうね」


 その通りだな。村に向かいながら話すジュストの背中は、どこか悲しさに満ちている。こいつも、悲しんだりしたりするんだな。冷酷な奴だと思っていたよ。


「さて……嘆いていてもしょうがないのです。今後の事を相談して、どう動くかを決めますよ」


「あっ……それなら……」


「私が合流した時点で、ここからの行動は私に決定権が移りました。今までに決めた事は、全て無しです」


 うわっ、俺がジルと決めたこれからの行動の事を言おうとしたら、思い切り止められたよ。確かに、この瞬間上司はジュストになったから、そっちに従わねぇと駄目なのか……。


 とにかく、俺はジュストに着いていきながら、これからの事を考えていた。更正プログラムの事もな……ちゃんと説明すると言っていたんだ、つまり俺に説明したのは全部嘘だったのか?


 先ずはそこをハッキリとさせて貰おうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る