(3)
「あった……」
押入れの奥深く、みかん箱に押し込まれたそのパッケージの中で、ヤツははじけるような笑顔を覗かせていた。
記憶の彼方に置き去りにされていた、一本のソフト。
パッケージを開ければ、真っ赤なロムカセットが顔を出す。
「クリムゾンゲート」。世の中がFFだドラクエだと騒いでいる時に、俺がのめり込んでいたRPG。
冒険者達は不思議なゲートを越えて、あちこちの世界へと旅をする。散り散りになった秘宝を集め、失われた神話を繋いで、伝説の都市へと至るために――。
そう。まだ放課後がとてつもなく長く感じたあの頃。たくさんの世界を、仲間達と共に旅した。おっちょこちょいな魔法使いミリアム、偏屈者だが腕の立つモンクのヒラギ。そして――。
「カイ――そうだったな」
無口な主人公――勇者を代弁するかのように、笑い、怒り、涙した戦士、カイ。
なぜ、今まで忘れていたのか。あれほどに熱中し、やり込んだゲームだったのに――。
いや、違う。
俺は投げ出したんだ。最後のダンジョンの一歩手前で。
レベルが足りず、情報が足りず、時間が足りず――。
周囲が続々とクリアしていく中で一人置いていかれ、面倒になって投げ出した。
続々と発売される新タイトルに夢中になり、いつしかゲーム熱自体が醒めて、ハードごと押入れの奥にしまい込んだ。
「まだ……動くか?」
僅かな期待を胸に、懐かしの8ビットゲームマシンをテレビに繋ぐ。ロムカセットを一吹きして本体に差し込み、電源を入れて――。
画面は、真っ暗なまま。
本体の故障か、それともカセットの電池が尽きたか。
「何が、またな、だ」
もう、二度と会えない。二度と、冒険に出ることは出来ない。
あの頃の俺に戻ることが出来ないように。
あの頃のお前に、お前達には、もう会えないじゃないか。
段ボール箱を元通りにしまい込み、子供のように不貞寝して。
翌朝、はれぼったい目で起き出し、半ば無意識につけたテレビの中で、ヤツは満面の笑みを浮かべていた。
『不朽の名作RPG、満を持しての復活――。クリムゾンゲートを越えて、新たな冒険の幕が開く』
いまいち捻りのない、懐かしいキャッチコピー。
かつてはドット絵だったキャラクターも、今では立体的に滑らかな動きを見せる。
パッケージイラストも一新されて、随分と男前になったじゃないか。
『行こうぜユート! 冒険の始まりだ』
そんな声が聞こえた気がして、思わず苦笑する。
「ああ、そうだな」
行こう。あの時越えられなかったゲートを越えて。今度こそ最後まで。用意された結末の、その彼方まで。
クリムゾンゲートを越えて。
クリムゾンゲート 小田島静流 @seeds_starlite
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