第5話(後編)

 楽しみがあると、少ない人生の上でも時間の経過が長く感じられる。

 2限目の化学が終わって一息つきながら、まだ半分も授業が残っていることに美恵は少なからずがっかりしたし、がっかりする自分に少しだけ驚いた。そんなものは、萌子の立場の者だけが感じるものだと思っていた。

「どしたの。珍しいね、美恵が溜息吐くなんて」

 とんとん、と肩を叩かれ、吐息を拾われる。そんなに草臥れていただろうか。内心とは違う結果に安心して、驚いた心にそっと冷たいベールを被せる。

「……そうかしら」

 意識的に目を合わさぬように教科書とノートを整えて、美恵はなんでもないわと口にした。

「いや、あるでしょ。今日もお昼はあの子と食べんの?」

「そうだけど」

「私も一緒に食べていい?」

 前の席の男子が席を立ったのをいいことに、どっかと腰を下ろして鼓実(つづみ)が頬杖をつく。すらりと伸びた手足は程よく日に焼け、清涼剤の匂いがつんと美恵の鼻先を掠めた。

 五月も半ばとなると、日の出も随分早くなる。それに合わせて、陸上部の朝練習も始まるのだ。

 彼女のように部活に入っていれば、弁当を二つ持つことの言い訳も簡単だったのかもしれない。

 答えることになれすぎた頭が萌子のことにばかり集中して、鼓実への返答を疎かにする。

「……やめといたほうがいいと思うけど」

「なにそれ。脅されてんの?」

「違うわ」

 にこやかに笑うだけの鼓実を見て、吐息で思考を切り替える。

 誰かと話しているときすら考えてしまうほどに、弁当のことを気にしていると知られたくなかった。隠そうとする分むきになって、美恵はつい、口を滑らせる。

「弁当を作ることになって、持ってきたの。だから今日は二人で食べるつもり」

「へーえ? 美恵が作ったんだ」

「全部は作ってない。流石に、怪しまれる」

「……いっぺん聞いておきたかったんだけどさ」

 手持ち無沙汰に筆箱の中からペンを取り出す美恵の視界に、鼓実の手の甲が割り込む。美恵の白い手を隠すようにそっと、肌が触れる。

「なんで、そこまですんの?」

 顔を上げると、笑顔の中で唯一笑わない瞳がまっすぐに美恵を写していて、ぞわと美恵の背筋に悪寒を走らせた。

「……鼓実、」

 小学生の頃から、鼓実のことは知っている。

 あの頃はまだ普通の友達同士だったのに、中学に入ってから違う雰囲気を纏わせ接することが増えてきて、高校に入ってからは押して引いて美恵の心を揺さぶることが増えた。

 そのきっかけも、理由も、美恵は知っている。理解しているから、見えないふりをし続けている。

 逸らせない視線に、体温に、きりきりと嫌なところを引っかかれて、その先の言葉が出ない。

 ぽこん、と呑気な音を立てて割り込んできた声があった。

「おーい、なにしてんだー」

 しわをつけるほどに丸めた教科書とノートには、お世辞にも綺麗とは言い難い字でたちばな波音はのんと書かれていた。

「次、移動教室」

 彼女は、美恵とは中学の時に知り合い、鼓実とも顔馴染みの友人である。

 セミロングの美恵やショートヘアーの鼓実と違い、ロングヘアーの波音は毎日髪型が変わる。教師の身だしなみチェックがうるさいからだと彼女は言うが、単純にお洒落がしたいだけなことは、友人全員が知っていた。

「ほれほれ、行くぞ。遅れるぞ」

 今日はポニーテールの黒髪を動きに合わせて揺らしながら、いつもの男勝りな口調と勢いで美恵と鼓実の空気を悉く壊しにかかる。鼓実が黙ったまま睨み上げても、気にしない。

 終いには鼓実と美恵の手首を掴んで、無理矢理に引き離した。

「橘、空気読んでくれない?」

 口端を引きつらせ、鼓実が圧をかける。三人の中でも身長の高い鼓実と、一番低い波音と、傍から見れば圧倒的に鼓実の方に分があるのに、美恵は波音の登場で呼吸を思い出せた。

 ほっとしたことを悟られぬように、うつむきがちに二人を見上げる。

「空気読んでもいいことなさそうだったから」

 すっきりさっぱりと、その名にふさわしい爽快感を伴わせて、波音は言い切った。

 彼女は、美恵も呆れるほどに面の皮が厚い。鼓実が二の句も告げなくなって、あっそう、と肩から力が抜けるように言い、渋々教科書類を取りに行く。鼓実が十分に離れ、教室の喧騒にこちらの声が紛れると確信できる距離になってやっと、美恵は用意していた一式を手に立ち上がった。

「……ありがとう」

「別に、どうってことない」

「そう」

 茶化すような笑みを浮かべていたのも束の間、波音は急に真顔になって、美恵の前に立つ。並んだ目線から届くものは多く、視線を逸らす振りをして隣をすり抜ける。

誤魔化そうとしたことを叱るように、手首を掴まれた。

「贅沢者もいい加減にしときな」

「……知らないわよ」

「もっとそれらしく反省しろー」

 冗談のような言い方で、辛辣に、的確に痛いところをついてくる。

 だから、美恵は波音と友人なのだ。

 出会った頃と同じように一定の距離を取ったまま、傍観者にも共犯者にもならずに隣り合う。それが彼女なりの贖罪なのだと、美恵は知っている。

「美恵をいじめなーい」

 後ろから割り込んできた鼓実と三人で、美恵は笑顔を取り繕うのも忘れて、教室を後にした。何もかもが始まる前だったら、きっともう少し、違ったのだろうと思いながら。




 萌子にとって、今日ほど四つもある授業が長く感じた日はない。

 中休みも含め、一分一秒が遅すぎて、チャイムが鳴り響いても終わらない授業をする先生には怒りすら覚えた。そのくらい昼休みが楽しみで楽しみで仕方ないという自分を、単純だと怒りたいような、素直に嬉しいと喜びたいような気持ちが交互に襲って、余計に時間に対するゆとりがなかった。

 四限目の終了を知らせるチャイムに、両手が万歳の形をとる。

「やったー! 終わった!」

「……やっぱ、朝からおかしいよ。お前」

 弁当包みを取り出しながら、偀が声を投げてくる。暇人だなあと大人しく両腕を下ろして、萌子はノートや教科書を閉じていく。

 朝から萌子を見ている人間など、この教室では彼くらいしかいまい。

「うるっさいなあ。偀くんは大人しく課題やってなよ」

 ちらりちらりと美恵の後ろ姿を見ながら、平然を装う。期待はしていない。これは、もしかしたら昼食代が浮くかもしれないところからくる、喜びだ。

「昼休みは遊んでこそだろ」

「ぼっち飯キメてるくせに」

「男子は女子みたいに屯しないんだよ」

 言いながらもぱかりと弁当の蓋を開け、美味しそうな匂いを漂わせる。

 朝食を摂るのを忘れていた腹が、思い出したようにぐるると音を鳴らす。完全に釣られた自分の腹が、恨めしい。

「柏木さん」

「なに!」

 空腹で感覚が鈍ったらしい。名前を呼ばれただけなのに、勢いよく立ち上がってしまう。

 どきどきと騒ぐ胸を押さえて振り返り、そのまま、萌子は固まった。

「一緒にご飯食べよ?」

 美恵ではなかった。

 彼女を押しのけるように、否、彼女を背に隠すようにして立っているのは、萌子よりも背の高い眼鏡をかけたクラスメイトだ。名前すら覚えていない。

 ただ、そう、美恵と仲が良かったような記憶があって、その事実がかろうじて萌子の顔に笑みを残した。

「い、いいよー!田原さんも一緒よね!」

 必死に表を取り繕って、言葉だけが動揺した心を声にする。

「もっちろん。あ、私のこと知ってる? 岸田鼓実、よろしく」

 ぽんと気安く肩を叩いて、鼓実が先を行く。その後ろに続く美恵と目が合ったが、彼女は視線を左右へ迷わせただけで結局、何も言わずに前を通り過ぎる。

(は、え、何?)

 これも美恵の作戦なのかと思って、悔しさからその手を掴む。

 鼓実の影で強くその手を握って、萌子は普段よりは大人しく、二人の後について行った。

「どこで食べてんの」

「前は食堂」

「えっ、弁当組だけじゃ入れないじゃん。どこで食べる気だったの」

「食堂って、弁当持ち込みはダメなの?」

「ダメに決まってんじゃん……」

 萌子の前だと冷たいフォークのように鋭い美恵も、鼓実の前ではスプーンのようだ。二人の慣れた空気がじわじわと萌子の居た堪れなさを刺激して、掴んだ手がじっとりと汗をかいてくる。

「そ、外で食べればいいんじゃない? かなー……なんて」

 なんとか話に割り込もうと、愛想よく提案する。

「外?」

「そんな場所、あるかしら」

 振り返った二人の素直な顔に驚いて、萌子は自分がからかわれたような気分になった。

「あるわよ! ここ学校よ!どこで食べたって汚さなきゃ別にいーのよ!」

「なーるほど。柏木さんいい性格してるねえ」

 聞き返したげな、呆れたような顔をする美恵に対し、鼓実はニッと口端を引き上げて笑う。身長が高いこともあってか、とてもよく似合っている笑い方だった。

 ━━そうして、萌子が二人に教えたのは、保健室の裏手にある中庭だ。高校は二つの校舎が並列していて、中庭が多くある。保健室の向かいは音楽室や美術室が多い関係で窓が少なく、二階から見下ろそうとしても木が生い茂り、そう簡単には休んでいることがわからない。保健室の隣は事務室と職員用トイレで、こちらは侵入防止のために磨りガラス窓になっており、騒がしくしない限りその窓が開くことはないという。

「よく知ってるね」

「彼氏と二人になりたいときとか、よく使ってたから」

「さっすが。今は彼氏いないの?」

「いないわよ」

「早いね、別れるの」

 いつの間にか美恵よりも鼓実との会話が増えていて、萌子の緊張も解けていた。手は相変わらず繋いだままだったが、コンクリートの塀に座ろうとスカートの裾を整えるところで離れてしまう。

「次からはシートがいるわね……」

「コンビニ袋使う?」

「ありがとう」

 流れるような二人のやりとりにも、もう慣れた。汚れも気にせず大きな岩の上に座り、萌子は美恵の方へ手を伸ばす。

「ちょーだい」

「……はい」

 可愛らしいうさぎ柄の巾着袋だった。彼女が持っていた花柄バッグの中には、こんな可愛いものが二つも入っていたのかとまじまじと美恵の顔を見つめてしまう。嫌そうな顔をされた。

「言っておくけど、母親の趣味と、姉のお古だから」

「へー……姉!? あんたこれでも妹なの?! まじで」

「失礼ね。弁当あげないわよ」

「嘘、ごめん。ごめんってば」

「昼休みなくなるよ」

 初めての弁当で照れたり嬉しかったりと忙しい萌子だが、それは美恵の方も同じなのかもしれない。いつもより表情が顔に出ているし、頬も赤い。反応が早いのも萌子がどう思うか気になっているからだとしたら、とても、いい気分だ。

 鼓実は平然と食事を開始している。美恵も黙々と箸を取り出し、弁当を開ける。

 萌子も、いつもはしないほどに丁寧に手を合わせて、いただきますと笑った。

 弁当箱は大人しい和柄のもので、箸は漆塗りのような見た目のシンプルなものだった。二段の弁当箱で下の段にはおむすびが並び、上の段には萌子が雑誌でしか見たことのないようなおかずが並んでいる。卵焼き、ウインナー、きゅうりにトマト、ポテトサラダに煮物がいくつか。豚の生姜焼きがもやしと一緒に詰め込まれて、その周辺だけラップが敷いてある。

 コンビニの弁当でも、パンでも、これほど美味しい香りを漂わせるものはなかった。

「へへ」

 食べると知らない味がした。これが田原家の味なのだと思うと、少し寂しくて、嬉しい。

「弁当、誰か作ってくれないの?」

 パンをちぎりながら、鼓実が尋ねる。彼女の膝の上にはパン屋で買ってきたお洒落なパンが幾つも並んでいて、見た目の割に食べるのだなあと感心する。

「作ってくれない。っていうか食べたことすらないし。どうしても必要な時は冷凍食品買ってきてくれたから、自分で詰めてた」

 小学生にも中学生にも遠足という行事が何故かある。どこかにいけることは楽しくても、お昼ご飯の時間がどうしても嫌いで、よく仮病を使って休んでいたことを思い出す。

 あの頃は弁当すら嫌いだったが、この美味しさを思うと納得ができないわけでもなく、萌子は唇だけをとがらせる。

「偉っ。え、なに、そういう家なの?」

「知らないわよ。離婚してないのが不思議なくらい」

「へえー……柏木さんて、家が裕福で甘やかされてて、それで反発してるのかと思ってた」

「なにそのイメージ。違うし」

 卵焼きに箸を突き刺して拾い上げる。ずっしりと重みのあるその卵焼きは、他のおかずと違って所々に焦げがあり、白身と黄身のバランスが悪い。さして気にせずぱくりとかじり、以前食べたものと変わらない味付けにふっと微笑みがこぼれた。

「やっぱ卵焼き美味しい」

「……そう」

 黙々と食べていた美恵がやっと会話に参加する。それだけで少し気分が良くなって、萌子の箸はよく進んだ。

 そうやって、三人がそれぞれ思いながらも食事をして、十数分が経った。弁当箱はすっきり空になり、鼓実はパンの袋をコンビニ袋にまとめていく。

「こういうのって、洗って返せばいいわけ?」

「誤魔化せないから、そのままでいいわ」

「はいはいっと。ワンコインでいい?」

「……来週でいいわよ」

 ばつの悪い顔をされて、萌子の方が首を傾げる。言い出したのは確かに美恵の方だが、萌子とて彼女を利用してここまできた。材料代を出すだけでここまでしてもらえるなら、それも悪くない。もとい、それが普通のことだと思った。

「ああ、なるほど。そういう」

 教室へ戻ろうと立ち上がった美恵を見上げて、鼓実が訳のわからないことを言う。ジロリと美恵が鼓実を睨む意味がわからなくて、萌子は首を傾げた。

「なに? なんなの」

「こっちの話」

「はあ? それならわからないように言いなさいよ」

 今迄自然に会話ができていただけに、唐突に手のひらを返されたようで、苛立つ。詰め寄るように一歩踏み出せば、彼女は萌子を無視して美恵と手を繋ぎ、立ち上がる。

 得意げな微笑みが、萌子を見下ろす。

「それもそうだ。気をつけるよ、柏木さん」

 瞬間的に昂った感情が、なんなのかはわからない。だが、鼓実のその言い方が、声が、表情が萌子の癇に障る。

 なによ、と叫ぼうと開いた口に、窓を開く音が重なった。

「あ」

 煙草の香りが漂う。

 三人の視線が、真っ直ぐに保健室の方へ向かう。

 窓際に頬杖をついていたのは、派手な化粧に白衣を着た女性教師だった。保健師の、先生だ。

「……貴方達、何してんの」

 そう言いながら煙草を消す姿は様になっていて、あまりに決まった見た目に三人の目が点になる。

「先生ここ禁え、」

「静かにしなさい」

 人差し指を立てる鼓実の額にペッと何かを投げつけ、口を封じる。如月のその動きの早さといったら、教師に叱られぬよう逃げる萌子よりも素早い。

「いったー」

「それあげるから、今見たことは忘れなさい。言ったらあんた達がここで食事してたことも言うわよ」

「……」

「隠しても無駄だからね、田原さん」

 的確にぽいぽいと飴を投げ、如月は窓枠にもたれて三人を見つめる。萌子の方に投げられた飴をキャッチすると、コロンと見覚えのあるロゴが目に入る。梅味で有名な市販の飴だ。

「私、梅味嫌い」

「贅沢言わないの」

「こんな飴一個で買収とか、先生性格悪い」

 ぶつくさと文句を言いながらもポケットに仕舞う。時計を見ると昼休みが終わるまであと十五分もなく、思ったよりも長くここにいたのだと知る。さっさと帰らなければ。

(……待てよ。これはある意味でチャンスじゃない?)

 人目のある場所で堂々と金を渡したり、弁当を渡したりなどしていたらカツアゲを疑われかねない。弁当である以上は食堂は使えず、他の教室もいつ人が来るかわかったものではなく、かといって弁当を諦める気にはなれない。

生徒三人の訴えがあれば、保健師一人の解雇ないし謹慎はどうにでもできるだろう。ならば、今ここで彼女の弱みを握っておいた方が、後々萌子にとって便利になりそうだ。

 美恵と鼓実はこの状況をどう対処したものか考えあぐねているようで、視線を交わしてはいるがどちらも口火を切らない。今が好機だ。むしろ今しかない。

「……先生、じゃあさ、これからたまに、保健室でご飯食べさせてよ」

「はあ?」

 スカートの汚れを叩きながら、萌子は閃いた考えをそのまま提案する。大人っぽく決めていた表情が崩れて、萌子の母親みたいな粗雑な反応が如月の全身に溢れる。

 こういうタイプは、意味深に置いておけば、数回は騙せる。

「そしたら黙っててあげる。いいよね、ね?」

「そう……ね?」

 美恵の腕に擦り寄って、鼓実を見上げる。引きつる表情にいい気味だと嗤って、萌子はそのまま、美恵を引きずって歩き出した。幸いにして、美恵は今の状況をどうするかに気を取られ、体への意識が乏しい。毛布みたいに軽い体をぐいぐいと引っ張る。

「じゃ、授業に遅れちゃまずいんで」

 ついでに鼓実の手を掴み、駆け出す。

 なんだか友達になったみたいだと嬉しくなって、軽くなった足で教室に向かった。





 去っていく三人の女子生徒の背中を見送って、花葉はがくりと窓枠に項垂れた。

(これは……チャンスじゃないの?)

 どくどくと驚いて早足になった心臓が、痛いくらいに胸を叩く。ネイルオイルで綺麗に整えた指先が汚れるのも構わず、掃除のされていない窓枠をぎゅ、と掴む。

 あの場では何も言われなかったが、花葉は一度、美恵のいるときに失敗をしている。気分が悪いと言って保健室に休みに来た彼女の寝顔を写真に撮って、それだけではたまらず、隣のベッドであれこれと妄想して満足しようとしたことがあった。

 あのときは途中で美恵が目覚めてしまって、居た堪れなさと緊張と恐怖とで追いかけられず、口止めもできないままにいた。もし教師が学校のベッドを好きに使っているとばれたら、謹慎処分どころではない。解雇を通り過ぎて花葉は県外に転勤しないと仕事がもらえなくなるかもしれない。

 それを防ぐためにも、否、あのとき美恵がそれに気づいていたのかを探るためにも、この機会は積極的に利用しなくてはならない。

「いよっしゃ……!」

 結局吸うことを忘れた煙草を嘆くこともなく、喜び勇んだ声をあげたところで、呑気なチャイムの音が空に響き渡った。

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