過去切手を使って手放したいソレ

ちびまるフォイ

※未来法律で生物(なまもの)の配送は禁止されています。

「やれやれ、なんでこのご時世に書類なんだよ……」


履歴書を封筒に入れて郵便局へと出した。

インターネット主流のこの時代に手書きで、それも書類だなんて前時代的だ。

もっと未来的なやりとりがあるはずだ。


「すみません、切手280円ぶんください」


「現在切手ですか? 過去切手ですか?」


「……は? 過去切手?」


「過去に手紙を出す場合は過去切手を。

 現在に出す場合は現在切手をお求めください」


「そんなことが……できるんですか!?」


もう履歴書なんてどうでもいい。

俺は80円分の過去切手を買って自分に手紙を出すことにした。


『過去の俺へ。


 急に手紙が来て驚いているだろうが、これは未来の手紙だ。

 明日の卒業式に、かならず好きだった里美ちゃんに告白しろ。


 5年後の同窓会で人妻になって会うと、死にたくなるほど後悔するから』


「……これでよし! さぁ俺の未来はこれから切り開かれる!」


わずかに脈ありと感じていた子を取りこぼした俺の後悔も、

過去に手紙を出せるのであればすべてリセット。やり直せる。


しかし待てど暮らせど俺の下に彼女は現れない。


「な、なぜだ!? どうして過去が変わらないんだ!?

 いまごろ俺はかわいい彼女もしくは妻とそいとげているはずだろ!?」


SF小説を読み漁ってみるも原因はわからない。

「過去が改変されたのでパラレルワールドになりました」なんてオチじゃなかろうか。


俺はすぐさま郵便局に詰め寄った。


「あの!? 過去切手って本当にこの世界軸に届いてるんですよね!?

 過去を変えても今の世界につながるんですよね!?」


「せ、世界軸……? お客様、落ち着いてください。

 過去に手紙を出せばこの世界の過去に届きますし、

 過去を変えればこの世界のあなたにも影響はおよびますよ」


「じゃあなんで……」


理由はわからないまま家に帰ってポストを開ける。

見境なく放り込まれるチラシをゴミ箱に入れて……。


「あ!! まさか!!」


カミナリに撃たれたように原因がわかった。


「そりゃそうだよ……未来の自分から手紙だなんて……。

 変な宗教の勧誘かなにかかと思って本気にしないよな……」


まして自分の個人情報を特定できればできるほどストーカー色は強まる。

過去に手紙を出したとしても、それを信じられる自分でなければ意味がない。


「ちくしょーー! もう少しバカであれば!! 信じたのに!!」


うたぐり深さがわざわいしてこんな結果になった。

後悔しつつもチラシを整理していると、間から手紙が1枚落ちた。



『過去の俺へ。


 急に手紙を出して驚いているし、信じられないと思うが未来の俺だ。

 近々、お前のもとに嫁が来るからその準備をしておいてくれ。


 いつでも受け取れるように部屋を片付けて待っているんだ』



「これは……未来の俺からの手紙……!?」


いつもならすぐにイタズラと思っているが今はそうじゃない。

この手紙と筆跡から自分自身だというのがわかる。


「やった!!! 俺の家に女の子が!! やったぁ!!」


すぐに部屋を片付けて来訪を待つ。

部屋着なのにタキシードまで着込んだ気合の入れよう。


しかし、いつまでたっても来ないので心配になって来た。


「ぜ、ぜんぜん来ないじゃないか……。

 もしかして何かまちがったことをして未来が変わったとか……?」


いくら考えても疑心暗鬼になるばかりで答えは出ない。

2通目の未来手紙が届いて指示を出してくれればいいのに。


「あれ? この手紙……。切手のスタンプがずれてるじゃん」


なんとなしに未来手紙を見ていると、

消印と呼ばれるスタンプが切手にかかっていなかった。


切手も接着が甘かったのか指で丁寧にこするときれいにはがすことができた。


切手は未来のものらしく現代では見たことのないデザイン。

これで無傷の未来切手を手に入れた。


「やった! 未来の切手を手に入れたぞ! プレミアだ!」


などとはしゃいでいたが、無傷の切手の使い道を考えた。


「待てよ……この切手で未来に手紙を書けるとしたらどうしよう。

 今、この未来切手を現代で売り飛ばしても価値がわからないから

 プレミア価格が就くとは思えないし……むむむ」


悩みに悩んだ結果、未来切手の使い道は未来に手紙を書くことだった。



『未来の俺へ。


 未来切手を使いまわすことができたので手紙を書きました。

 今の俺は新しい嫁を向かい入れるために男磨き真っ最中です。


 つきましては、未来で不要になったりいらないものは

 過去切手を貼って過去の宛先の年代に送ってください。  敬具』



「ふははは!! やっぱりこの使い方がベストだ!

 どんなものでも未来から来たものなら現代で先進技術!

 どんなものが送られてくるか楽しみだ!!」


新聞や雑誌だったら未来の情報を手に入れて大儲けできる。

家電やおもちゃだとしても先進技術を手に入れて大儲けできる。

服やカバンだろうが、未来のトレンドを先読みできて大儲け。


未来で不要だとしても、現代ではこれ以上ないくらい価値がある。


「ああ! 楽しみだ! 早く来い!!」


いつでも荷物が受け取れるように玄関で待っていた。

数日後、バカでかい段ボールが届いたことで俺の胸が高鳴った。


「宛先は……未来の俺! やった! こんなに送ってくれたのか!!」


未来からの荷物は無事届いた。

どれだけ未来からの贈り物が詰まっているのだろう。



ふたを開くと、中にはおばさんが入っていた。


「ちょっと、なによここ。まあぃいわ。あんた、おせんべい持ってきて」


可愛げゼロのおばさんに目が点になった。

段ボールの底には手紙が添えてあった。




『一番いらないものを送っておいた。俺の嫁を大事にしてくれ。

 きっと俺の時代には死んでくれているように、末永く幸せに』

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