第21話 駆け抜ける一行

 ようやく視界から瓦礫が消え、サディスの案内もあってようやく本格的に森を抜けようとしていた一行、そんな時に現れたのは一匹のカエル型のモンスター。どうやら平原を全速力で駆け抜けてきたらしく、サディスに手紙を渡すとその場で力尽き霧散してしまった。


「心配ないわ、召喚獣の類よ。魔力を与えればまた復活するわ。」


 どうやらサディスが、部下に万が一があった時に預けておいたモンスターらしい。流石に人間側の拠点を攻めるだけあって、対策はいくらあっても足りない。自分が持ち場を離れても万が一に対応できるようにということらしい。


「……これは…。」


 サディスの表情が険しくなる。


「平原で、私の軍を壊滅させている人間が現れたらしいわ。」


「サディスの軍を?……それってもしかして…。」


 私の期待を込めた憶測を、サディスは首を振って払いのけた。


「残念ながら勇者ではないみたいね。でも……ガブルが自ら切り込んでいったなら、相当の力の持ち主のはずよ。」


「ガブル?」


「ええ、私の腹心のリザードマンよ。あなたぐらいなら瞬殺できるほどの実力者だわ。」


「……自分で言うのも悔しいけど、殴り合いで勝てる自信はないわ。」


「それでも避ける逃げるぐらいはできた方が良いわ。見た所、あなた攻撃魔法しかろくに鍛えてないみたいだし。」


「……治す相手がいなかっただけよ。」


 サディスの容赦ない指摘にむくれることしかできない。実際、私はアメジストウルフすら一人じゃ危ないし、格闘や武器を使っての白兵戦は足手まといにしかならない。


「それなら、これから嫌というほどそこの不死身君で実験できるわね。」


 サディスが少し皮肉気味にカルマを指したが、カルマはなんでそこで俺が出てくるんだ?という顔をしている。


「……ねぇ、サディス、」


「魔法なら教えないわよ。あなたはその前に基礎体力をどうにかしなさい。そんな痩せこけた体では何もできないわよ?」


 恥を忍んで頼みごとをしようとしているのに、大きく熟れたメロンのような乳を誇らしげに持ち上げるんじゃないわよ!!


 ……とも言えないあたりが、私とサディスの実力の差なのである。とほほ。


「……それに、あなたに魔法なんて教えたら、それこそ魔王軍では手がつけられなくなるわ。」


「ん?何か言ったサディス?」


 サディスが何か、細々と呟いた気がする。


「なんでもないわ。……それより少し先を急ぎたいわ。いいかしら?」


「下らん。お前に合わせていたんだ。お前が急ぐならその必要もない。」


 サディスがそう言うと、意外にもカルマがこれに即答して吐き捨てた。そしてまるで体力を持て余していた子供が解き放たれたように、ロードランナーが向かってきた方向に向かって一目散に走りだした。


「あっ、ちょっとカルマ!!」


 私が急いで制止しようとすると、それをサディスが腕をかざして引き留める。


「心配ないわ。あのまま真っ直ぐ走れば森は抜けられる。カルマに続きましょう。」


「……わかったわ。でもそれなら私を止める必要はなくない?」


「あなたの愚鈍な足では追いつく前に迷うでしょう?」


「……絶対見返してやるんだから。」


 今に見てろこの妖怪おっぱいおばけ。


 そんな胸の内はさておき、私達は先行したカルマを追いかけて森の中を駆け抜ける。時々空中を漂うエッジスワローが気になるが、敵意を見せた物は容赦なくサディスの雷撃に撃ち落される。


 本当に……私とは段違いの実力だ。


「でも意外ね。魔王軍って兵士を使い捨てにするイメージだったんだけど、そうじゃないのね。」


 艶やかな背中を露わにしながら前を行くサディスに声をかける。すると、サディスが少しだけスピードを緩めて私の隣に並んだ。


「部下を思う気持ちは、人間も魔族も同じよ。特に魔王様はね。」


 なびいた横髪で隠れた顔に、一軍を率いる将にふさわしいい気品と堂々さが垣間見える。


 これが魔王軍の幹部、そして魔王の側近としての姿なら納得がいく。


 今の私には、到底敵いそうにはない。


「……私、あなたのこと、凄く見くびっていたみたい。」


「それはお互い様ね。……森を抜けるわ、視界に気を付けて。」


 ついさっきまで敵同士だった彼女と違和感だらけの肩を並べながら、この薄暗い森を抜けて太陽が照らす平原へと抜ける。

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