第14話 引き寄せられる力
ナムナク村・シルエット間、ブラッドリヴァル沿い、モハテ平原中央帯。魔王軍の幹部の一人・「【摩天楼】サディス」がシルエット攻略の拠点を置いている地点である。
武器とする、宝玉「プラズマ・アメジスト」を植え込んだ大古樹の幹で作られたロッドを支えに、黒煙立ち上るシルエット城門前を退屈そうに眺めていた。
「サディス様!ナムナク村方向で、凄まじい爆発を確認しました!どうやら人間側の勢力が魔法を放った模様です!」
配下とするリザードマン、サディス自らが腹心として名を与えた「ガブル」が跪いて報告する。忠義心が強く実力も確か、他幹部たちと連携して行っているこの城門攻めも、こちら側の指揮は全てこのガブルに任せてある。
そんな優秀なガブルが血相を変えて飛んできたので、サディスは退屈な空を見上げるのをやめ、眉を僅かにあげてガブルを見つめる。
「人間が自ら村を?…興味深いわね。手勢は?」
「先方帯を派遣して探らせておりますが、発見できたのは盗賊が5人、すぐに始末できる程度の実力でしたので、恐らくそれではないかと思われます。」
「…あの付近には森があったかしら?」
「「足もぎの森」の異名を取る森でございます。ダイヤウルフ、アメジストウルフを筆頭に、機動力に優れた野生種が生息、中でも森の異名の元凶、エッジスワローが多数生息しており、迷い込んだものの多くはこのエッジスワローに足を取られて死ぬものであります。」
「ふむ…それで、危険度は?」
サディスに問われたガブルは、口を開いたり閉じたりと発言を躊躇っている。
「いいわ。正直に言いなさい。」
「はっ!…恐らく、我ら一個大隊が束になったとて、傷一つつけられるものではないかと。」
「…ほう、あなたにそこまで言わせるのね。」
サディスの口元が、僅かに膨らみをもたす。
「魔力の残留を調べましたところ、どうやら爆発前に黒い霧を発生させていた模様です。その霧をばら撒き、充満したところで発動させた高等術式、とてもではありませんが敵うものでは無いと存じ上げます…。」
ガブルは力のない声で、しかしその両手は強く握り締められていた。戦う前に負けを認めるは戦士の恥、しかしそれでも万に一つも勝てる可能性はない。それだけの未知の力を持つ相手に死力を尽くせば勝てるものなどと、司令官の立場として口が裂けても言えない。ガブルは自身の慢心に怯えていた。
「相変わらず仕事が早いわね。しかし、黒い霧ね…私もそんな魔法は見たことが無いわ。」
「なっ!?サディス様でも未知なる相手と存じ上げますか!?」
サディスはそのたぐいまれなる豊乳を揺らし、杖を構えると平原一帯を魔方陣で包み込んだ。そしてサディスの軍勢は紫の光を全身に浴び、その祝福に声を上げる。
「ガブル、ここは任せるわ。…私は森へ向かう。」
「はっ!命に代えても成し遂げます!」
サディスは自らの戦闘装束であるウィッチ・スタイルに換装し、体一つを包み込む大きさのマントを翻す。それを見たガブルはその魔力に体中を震え上がらせ、しかし気負いされることなく胸に手を当てて敬礼した。
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