第12話 救済
「村というには、あまりに貧相な物ばかりだったな。」
「仕方ないわよ。あんな事が毎日じゃ…。」
一通り店を回った二人だったが、大した成果は得られなかった。武器も銅製や木を削ったものなどの間に合わせの物が殆どで、カルマが所持している物よりも良い物は得られなかった。唯一得られた成果はヘラの服をある程度マシな物に新調できたことと、新しくローブと簡素なロッドを入手できたこと。とは言ってもロッドも量産されているごくわずかな魔力しかない魔石を頂部に定着させただけの代物であり、あまり戦闘には向いていない。
「換金もできなかったしな。」
カルマとしては、少しでもここで価値のある宝石や持ち運びが楽な貨幣に換金して、未だ10キロ近くある金インゴットを軽くしておきたかった。
「貨幣に替えると価値が落ちた時大変よ?そっちの方がまだ安心だわ。」
「だが重すぎる。これでは動くのに不便だ。」
「それでも、下手な魔石や宝石に変えるよりはマシよ。大事に使う事ね。」
「…ふん。まるで自分の物のような言い草だな。」
「そう扱っていいならそうさせて欲しいわ。装備を新調してもらっておいてだけど。」
「無益に持っているよりはマシだ。気にしなくていい。」
「そう…それじゃあ、ありがたく使わせてもらうわ。」
ヘラがそう言うと、カルマ肩に提げている金インゴットを革袋から一つ取り出し、それをヘラに向かって放り投げる。
「取り分だ。持っておけ。」
「…意外に重いのね。」
慌ただしく投げ渡された金インゴットを受け止めると、ヘラはそれをまじまじと見つめてカルマの提げている革袋に視線を移した。これだけでもそれなりにあるのだが、肩にずっしりと下げられているそれを涼しい顔で担ぎつつけるカルマに思わず苦笑いが浮かんできてしまう。
「…それにしても、この不気味な黒い霧は何?」
村中に漂う黒い霧。いつの間にか現れていたそれは、気づけば村全体に覆いかぶさるほどにまで広がっていた。嫌な予感がしていたヘラは警戒感を強める様にカルマに尋ねたが、カルマはそれに耳も貸さず真っ直ぐ村の外へと歩いていく。
そして、二人は無言の空気のまま村はずれの森の入り口までやって来た。
「ここを抜ければすぐにカルテットよ。」
「そうか…なら、ここでいいだろう。」
するとカルマは天高く腕を掲げ、中指と親指を合わせ力を込めた。
ヘラの背筋を、悪寒がぬるりとなぞる。
「【ブラック・ミスト・インフェルノ】。」
技名発声と共に、力を込めた指を鳴らすカルマ。刹那、背後から耳を
「なっ!?…。」
ヘラは突然の出来事に、油断していた体を強張らせ咄嗟に爆風の下を振り返る。しかし背後に敵の姿はなく、かわりに瞳を焼き尽くすような感覚に、瞼に涙を滲ませる。
ヘラの見た光景は、跡型も無く焦土と化したナムナク村の廃墟だった。
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