第10話 狼の肉は固い
前略、俺は女を助けた。
そして腹も空いていたので狼の肉を食べることにしたのだが、そもそも背中がめちゃくちゃ宝石っぽくて全然肉が無い。腹回りのやつが辛うじて柔らかいぐらいで、後は石みたいに固くて食えそうにない。
言わずもがな、残された肉の部分も大して旨味が無い。弾力はあるがそれだけだ。塩コショウが欲しい。
「あ、待って。その狼の毛皮と背中はちょうだい。魔術の良い材料になるの。」
そう言って、助けた女は狼の背中を魔法で作った刃で切り取り、細かい石にして持参していた革袋の中にしまった。
「あなたはいらないの?アメシストだから、雷属性の魔法を強化できるわ。」
「そういうのはよくわからないからいい。」
女が手に差し出してきたので、丁重にお断りさせていただいた。
「へぇー、それじゃあ戦士なんだ。ヒールぐらいは使えた方が良いと思うよ?」
「生憎生傷は間に合ってるからな。」
すでに体中が痣だらけなのにヒールもクソもない。
「そう…あ、私「ヘラ」って言うの。よろしくね。」
「そうか。俺はカルマだ。」
「カルマ…運命、か。なんだかいわくつきっぽいね。」
「…。」
自分でも思っている事だから何も言わないが、他人に言われると存外腹立たしい。
「それで、何かお礼がしたいのだけど…もしかして一人なの?」
「そうだが。」
「そうなんだ…あの、もしよかったら、私とパーティ組まない?こう見えて魔法は一通り習得してるから、結構頼りになると思うよ?」
ヘラは僅かにあるふくらみを凛々しく主張しながら、頼りなさそうな頼りになりますアピールをしてくる。
「そうか。他を当たってくれ。」
「え…いやちょっと待って!この辺りの魔物は結構強いの!一人じゃ危険よ!」
「忠告ありがとう。その時はその時でなんとかする。」
俺はヘラに背を向けて手を振る。
それで、次はどこを目指せばいいのか…。とりあえず適当に歩いて街を探すか?
「ちょ…ちょっと待って!あなた、どこに行くかは決めてるの?」
「とりあえず、シルエットを目指してはいる。」
「シルエット!?遠すぎるわ!そんな装備じゃ道中飢えて死ぬわよ!」
ヘラは俺の前まで回り込み、頭一つ分ぐらい小さな背で腕を大きく広げ主張する。もちろん慎ましい胸ではなく道のりが険しい事を。
何をさっきから胸ばかり気にするかって、今にもめくれてしまいそうなバニーガールの着ているトップに、前が大きく開いたと布一枚を無理やり引っ張って前で止めたようなスカートという、とんでもない変態衣装を着ているのだ。わざと胸に意識を向けないと見たくないものまで見えてしまいそうになる。
「お前、着替えた方が良いぞ?」
「私だって着替えたいわよ!でも夜逃げしてきてお金ないの!だからモンスター倒して報酬貰おうと必死なの!」
夜逃げって…どんな波乱万丈人生なんだこいつは。
いや、この世界じゃ割と普通かもな。
しかしどうしようか、あんな雑魚そうな奴らに囲まれて死にそうになってる奴を連れていくべきか…だがこのまま放置してこんな格好をさせ続ける訳には…第一この格好でこれからも付きまとわられたら…。
「…仕方がないか。金なら少し持っている。服ぐらいなら買ってやる。」
「本当!?あ…でもこれ以上お世話になるわけには…。」
「ならここでお別れだ。少なくともそんな恰好のやつを連れまわすことはできない。」
「行く!行きます!お世話になります!それとここからなら「ナムナク村」が一番近いわ!道案内は任せて!」
正直はた迷惑ではあるが、ヘラははしゃぐ子供のように俺の手を取って前へと引っ張っていく。その足取りは力強く、さっきまで死にそうだった奴とは思えないぐらいだった。
そうして、俺とヘラは近隣の村、「ナムナク」へと向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます