第9話 少女の異世界転生

 異世界転生って、もっと素敵で輝いたものだと思っていた。


【転生者よ、その運命を持ってこの「シエンダ」を救うのです。】


 女神という存在は私にそう告げ、生前無残な死を遂げた私をこの世界に転生させた。私はこれから大きく育って、様々な経験をしながら世界を救う術を身に着けていくのだと思っていた。


 しかし、この朽ち果てた世界はそれを許さなかった。


 生まれてすぐ、私は強制労働に明け暮れた。どこかの富豪に街を買い取られ、それを丸ごと奴隷都市にされ、権力が暴威を古い、幼い私にまでその牙をむいた。10歳になるころには慰み物になり、夜な夜な顔も声も知らない男たちに囲まれ、その体を余すことなく蹂躙された。


 そんな生活が2年、先日、その富豪が死んだ。家を丸ごと焼かれたらしい。


 絶望的な環境の中、必死で喰らいついて磨いてきた魔法を武器に、私はようやく自由に向かって羽ばたいた。これから世界を救うのだと使命感に燃えて駆け出した。


 それなのに…それなのに…ッ!


「くそっ…こいつら…ッ!」


 武器を整える時間はなかったとはいえ、道で拾った木の棒を選んだのは失敗だった。せめてナイフぐらいは用意しておくべきだった。3体のアメジストウルフに囲まれたのではあまりに分が悪い。詠唱を妨害して来る役と攻撃を与える役、それに私の動きをかく乱する役と人間顔負けの連携を見せてくる。せめて1体でも崩れれば望みはあるが、とにかく隙が無い。


「こんな所で…死んでたまるもんですかっ!」


 私は木の棒に魔力を込め、術式を展開するため魔方陣を正面に形成する。


 祈るのは火、捧げるのは水、…アメジストウルフは雷耐性があるから、少量の炎で連携を崩し、中威力魔法で一気に片づける!


「フレア・シャワー!!」


 魔方陣の向こうから放たれたのは無数の火の粉。これで狼たちの動きを鈍らせて…。


「へ…嘘…そんな…。」


 狼たちが…怯まない!?これ以上距離を詰められたら魔方陣が…!!


「きゃあっ!?」


 しまった!木の棒が!


 私はそのまま後ろに飛ばされ、木の幹に背中を強打する。でも目の前には私を取り囲むように三匹の狼が…。


 いや…こんなところで死にたくない…こんなところで!!


「伏せろ!!」


 どこからか声が聞こえた。私は咄嗟に反応して、頭を両手で押さえうずくまる。


 直後に、背中を預けた木の幹に大きな衝撃。そのすぐ後に、手の甲に何かがぽたぽた落ちる感覚。腰を抜かしたまま寝そべると、頭上には三匹の狼が、木の幹に食い込んだまま一本の片手剣の腹にまとめて薙ぎ払われていた。


「ほう。見た目固そうだったが、案外いけるものだな。」


 目の前に現れたのは、上等な警備服のような装束を身に纏った男、狼たちをこんな惨状にできるとは到底思えない姿だった。


「一つ聞く。これ、食えるのか?」


 男は呑気に木の幹から剣を引き抜き、狼の首をぶら下げて私に見せつけた。そしてその後、だらしなく腹の虫を鳴かせ、まるで冷めきった水のような瞳で私を見つめていた。


 彼が私をどう思ったかは知らないが、私はこの男が勇者なのだと目を輝かせていた。

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