第2話 死後の世界

 瞼を開ける感覚はさして変わらなかった。もしかしたら失敗したんじゃないかと思うぐらいには変化がない。

 しかし目の前に映った光景は一変して、神秘的だった。真っ暗な世界に点々と散らばる光の粒、それが自分を中心に集まっている。


 どんな絶景にも勝るとも劣らない、その光景に心を奪われながら、この世界を共有できない存在に遥かな愉悦を感じていた。


【…命よ、目を覚ましなさい。】


 しかしだった。どこからともなく声が聞こえた。私しか存在しない、私だけの死後の世界のはずなのに、私の愉悦を踏みにじる雑音が頭の中に響く。


 そしてどこからともなく現れた真っ白な光が、徐々に徐々に集まって人の形を成していく。やがてそれが完全に人型のシルエットとなった時、光の粒が弾け、その姿が露わになった。


「…私の名はサムス。この世界において「生」を司り、「地」を支配する祝福です。」


 修道女の服に、左から真緑、紫、水色、ダイヤ、深緑、真珠、紅、黄緑、蒼、青に緑が混じった物、橙、青の順に、金の装飾であしらった首飾りが輝いている。

 しかし顔面が子供っぽいため、母親のそれを憧れで身に着けてみたそれにしか見えない。スタイルもくびれが魅力的なぐらいで後は幼い。


「…今、とても失礼な事を考えましたね?」


 私はそれを鼻で笑い、蔑むような視線を向けた。


「…まぁいいでしょう。それよりも、今は事を急がねばなりません。」


 サムスは何やら急いでいるようだった。どことなく顔色も悪い。私に向かって険しい視線を向けると、腕を大きく振りかぶって私に眉間に向かって指を指す。


「転生者よ!あなたは勇者となり、人間を滅びの危機から救うのです!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る