平日ののどかなカフェ
紙本臨夢
ある高校生の三角関係
僕はクラスメイトの女の子と共にカフェに来た。こんなの初めての体験なので何を話せばわからない。
目を合わせているとかなり気まずいし、見回してみようかな? といっても見回しても、本しかないんだけどね。まぁ、古い本も新しい本も置いてあるから珍しいと思う。このカフェしか知らないので、どうかはわからないけど。あっ。この話題はいいかも。
女の子に目を合わせる。でも、度胸がないせいですぐに逸らしてしまう。
怖い怖い! どうしてあんなに不機嫌なのだろう? そりゃあそうか。無理矢理連れて来たような物だし。お願い! 田中早く来てくれ!
「ねぇ」
「なっ! なにかな?」
恥ずい! 声が裏返ってしまった!
「このカフェいい雰囲気ね。特にこの目に優しい適度な明るさ」
「そうだね。僕もそう思うよ。明るさもだけど、色もだと僕は思うよ」
「確かこの色のことを白昼色と言うのだっけ?」
「うん。まぁ、色は使用目的によるんだけどね。ここは読書に適している白昼色にしているみたい」
「詳しいね」
「全て田中に教えてもらったんだけどね」
「田中……」
ホントに田中のことが好きなんだね。名字だけで、紅く染まるなんて。僕はあのチャラそうな田中とお堅い佐藤さんの行く末を見守らないといけないのか。はぁ……。これはかなり難しいよ。引き受けたからには最後までやるつもりだけど。
「ねぇ」
「何かな?」
よし。今度は平常心を保てた。ようやく慣れることができたかな? 自分ではわからないや。
「わたしのこの髪と目をどう思う?」
「銀色の長い髪で赤色の瞳のこと? 正直言って怖い」
「やっぱり」
「でも、いいと思うよ。ちゃんと個性が出てる。僕の日本人特有の髪と瞳と違いね。それに地毛なんだし、仕方ないよ」
「田中くんはそう思ってくれるかな?」
「大丈夫だよ。あいつはそういうことにこだわらない」
僕がそう言った瞬間にカランカラン! と来店を知らせる音が聞こえてきた。そちらを見ると茶髪で水色のカラコンといういかにも、チャラい男が来た。そいつは僕たちの方を見て、安心したような顔をしていた。僕たちの方へやってくると、そいつはすぐに頭を下げた。
「悪い! 待たせた!」
「仕方ないよ。委員会の仕事なんだし」
「ありがとう。それで話ってなんだ?」
僕は佐藤さんの方へと視線を向けると、緊張した表情で田中を見る。
「田中くん。突然でごめんなさい」
「ん? 用があるのは佐藤さんの方?」
「そうだよ」
さて、僕は少し離れよう。邪魔したら悪いし。
「じゃあ、僕はトイレに行ってくる」
「おう。ゆっくり出してこい」
僕は作り笑いをして、その場を離れる。でも、トイレなんて行かない。行ったと見せかけて近くで隠れる。
「それで何かな? 佐藤さん」
「あ……あの……その」
「落ち着いて落ち着いて」
「ありがとう」
お礼を言うと佐藤さんは深呼吸をする。それから少ししてから、佐藤さんは真剣な表情で田中を見ると、手を差し出す。
「ずっと前から好きでした! 付き合ってください!」
「ごめん。俺は好きな人がいるんだ」
「えっ?」
即答かよ。さすがに可哀想だな。
「そこに隠れているのはわかってるんだぞ。山本っ!」
「……バレてたか。さすがバスケ部。文芸部の僕だと敵わないな」
「そうかよ。突然だけど、どうしてバスケをやめたんだ?」
「僕には向いていないと思っただけだよ。何度もそう答えたよね?」
「嘘つき。お前は俺らの中で誰よりもうまかった。そして、情熱もあった。なのにどうして?」
「今はそんなことよりも、お前の好きな人だよ」
「お、おう。そうやって面を見て言われると恥ずかしいな」
「で、誰なの? 佐藤さんときっとそのことの方が気になっていると思うよ」
「えっ? まぁ、うん」
仕方ないよね。振られたばかりなのに放心状態になるさ。逆にその方がちゃんと好きだったということなんだし。
「わかった。素直に答えるよ。お前だよ。山本。俺の好きな人は」
「残念。僕は男だ。要するにその嘘は使えない」
「嘘じゃない! 俺はお前が好きなんだよ! しかも、ずっと前からなっ! それに愛さえあれば性別なんて関係ないだろ!」
当たり前だが、佐藤さんは驚きのあまり目を見開いている。僕は田中に仕返しで、即答してあげた。
そりゃあ、好きな人が実は同性が好きでしたなんて言われたら、ショックを受けるさ。僕だって。でも、僕の恋は絶対に叶わない。その人は僕以外の人が好きなのだから。しかも、とてもだ。入り込む余地なんてどこにもない。
「なぁ、山本。返事は?」
「残念だね。僕にも好きな人がいるんでね。どうにもならない」
「その人は……男か?」
「女」
「そうか……。なら、別のことをもう一度聞く。お前はどうしてバスケをやめたんだ?」
「仕方ない。答えるよ。せめてものお詫びとしてね」
「いいから、早く言え」
「単純だよ。姉さんが死んだ。交通事故で。ただそれだけだよ」
「えっ?」
「お前の姉さんが死んだのは知っている。でも、どうしてそれとバスケが関係ある?」
佐藤さんは当たり前だが、先ほどとは別の意味で驚いた表情をしている。
「田中は知ってるだろ? 姉さんがとてもバスケが好きなことくらい」
「あぁ。何度も見に来てくれたりしていたからな。病弱だというのに」
「うん。だから、僕は姉さんを元気付けるためにバスケを始めた」
「そうか。なるほどな。その姉さんが死んだからバスケをやめたということか」
「惜しい」
「どういうことだ?」
「バスケをやめた理由に姉さんが関わっているけどな」
「なら、どうして?」
「まず一つ聞くけど、病弱なのに交通事故で死んだっておかしいと思うよね」
「あぁ。普通は病気で死んだとかだろ?」
「そう。そこが肝心なんだよ」
「……一体どういうことだよ?」
「姉さんはあの時に僕の試合を観戦するために外を歩いていた。いつも通りにウキウキしていたらしい。それで試合会場前の信号が青だった。だから、左右を確認せずに渡った。それがダメだった。信号無視をしていた車が突っ込んできたらしい。吹き飛ばされて、地面に直撃した。即死だった。その車の運転手は薬を使っていたらしい。だから、正常な判断なんてできなかった。幸い近くにいた警察に捕まり、運転手は今も牢屋の中。あの時に僕が試合さえなければ姉さんはあぁ、ならなかった」
「「…………」」
二人はチャチャを入れることもなく静かに聞いていた。
「これがバスケをやめた理由だよ」
「その……悪かったな。お前のことなんて何も知らずにあんな気軽に聞いて、そして、お前のことを好きになって」
「いいよ。気にしないで。これからも友達でいようよ」
「……ヒク。……ヒク」
「えっ? えっ!? どどど、どうして佐藤さんが泣いているの!?」
「ごめん。わたしなんかが、聞いていい話じゃなかった」
「ちょっ!? 佐藤さん!」
佐藤さんがカフェを泣きながら飛び出していった。迷ったが、机に二人分のお金を置いて彼女を追いかけることにした。
♦︎
黒髪の少年が銀髪の少女を追いかけて、外に出ていった。茶髪の少年は取り残されていた。
「やっぱり、お前は佐藤さんのことが好きなんだな」
一人取り残された少年はポツリと呟いてから、机にお金を置いて、出ていった。そのあとは時を一つ一つ刻んでいる秒針の音とクラッシックが静かに流れていた。
長身で細身の黒髪黒目の若い、このカフェのマスターがコップを拭きながら、苦笑を浮かべていた。
「スゴい関係の高校生だったね」
少年のような声でボソリと呟きながら、マスターは机に置かれた三人分のお代を取った。
平日ののどかなカフェ 紙本臨夢 @kurosaya
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