第1話 本日、晴天なり。
一昨日めでたく成人した俺、奥山 龍は涙が出そうなくらい悲しい。
何故ならばかつて思い描いた成人の自分と、今現在成人した自分があまりにも違いすぎるからだ。
恥ずかしながら中学二年生くらいまでは「自分は他人とは違う」、という確信めいた自信があった。
もっとアニメに出てくるようなスペック、それこそ長身でイケメン。
さらにいえば可愛い彼女なんかいちゃったりして、バイトはBERで酒をやたらめったらにカシャカシャしてるお仕事、それか...
まぁこれらはなかった。なんとも悲しい。
その夢のような世界線にたどり着くことが出来なかった結果はというと、真夜中の12時コンビニのレジの売り上げ誤差と格闘しているという現実だ。
「ったく...なんで俺がこんなこと...絶対に前の時間帯の奴らのミスだろうが...」
誰もいないコンビニ店内の中、俺は愚痴をこぼしながら−1万円の原因を探す。
不愉快な入店音がするかと思えば客が来たらしい。
「48番 1カートン」
「はいはいちょっとまってくだせーな」
指定した番号のタバコはヘビースモーカーが吸う事で有名な重いものであった。それを1カートン買うとは...どんな客が来たのかと興味を持ち、ちらりと顔を見た瞬間、硬直。
......こいつ大元咲子じゃねぇか。
大元咲子はうちの学部のアイドルであり、とにかく美形で有名な女だった。
腰まであろう長さの金髪に人を魅了する目。
外国人のように整った高い鼻に長い手足。
これで純日本人だっていうんだから話題性があるのは納得だ。
それだけじゃない。大学から始めた空手道は男子部員を圧倒し、開始半年で国民体育大会上位入賞。
礼儀も正しく、マスコミに取り上げられる程だ。
つまるところ日本指折りの強さ。
文武両道、才色兼備。マンガの登場人物がお前は。
あまり友人のいない俺ですらそれらの事実を知っている。
そしてその彼女が、今俺の前にいる。
正直いい匂いだ。タバコ買わんでくれよ、イメージ崩れる。
「あの...何が...?」
大元は若干イラついた口調で言う。当然だ、男にガン見されて接客の対応すらしない。慌ててレジを打つ。
「すんません、4600円す」
彼女は舌打ちをしながら5000円札と100円を差し出す。
...存外嫌な女なのかもしれない。あまりの反応だ。
あ、でも100円を出すあたり少しいい奴なのかもしれないと思いつつ、渋々レジを打ちながらお釣りの500円玉を出す
「なぁ」
驚いた。大元咲子が話しかけて来た。
所謂『陰キャ』である自分は上手く他人とコミュニケーションが取れない。
勿論コンビニの仕事程度の会話は辛うじて出来るが、逆に言うとマニュアル以外の会話はできない。
それも対する人間はあの、大元咲子だ。
キョドりにキョドる。目線は泳ぐ。
「な...なんすかね」
「お前さ、もっとちゃんと喋れ。4600円す、じゃねえ。です、だろうが。なんすかね?ふざけるな。なんでしょう、だろう。てめぇとはお友達じゃねぇ、客と店員の関係だ。言葉遣いはしっかりしやがれ」
至極真っ当なご意見ありがとう御座います。
でも夜勤って気が緩むんすよ、それも俺のせいじゃないのにレジに誤差出てるんすよ。このままだと店長に怒られんの俺なんすよ。
というかそれをいうなら大元さんもそうじゃないっすかね。
当然僕らは店員とお客様の関係っすけどお客様は神様じゃないんすよ。なんでそんな上から目線なんすか。
あともっと女の子らしい言葉遣いのほうがいいとおもうっす。めっちゃいい匂い。
という本音を押し殺して謝る
「も...申し訳ございません...」
完全に彼女の言い分の方が正しい。
その謝罪にフンっと鼻をならし、彼女は1カートン入った袋を受け取る
彼女は松葉杖をつきながら店を後にした。
拝啓、夢を見る君へ 伊勢 @umiumi800
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