繋げた未来を離さないで 4

「ふ、風呂から出たら言うのじゃ!今日はのぼせぬうちに上がるかのぅ……」

我ながら歯切れの悪い物言いじゃ。耳が垂れていそうなのは隠しようも無いがの、せめて赤くなっていそうな顔だけは真也に見られぬよう、湯船から出るのじゃ。湯船から出て、濡れた尻尾をフルリと振って水気を飛ばしてから、風呂場を出る。

「……?分かった。そうだな、ぬるま湯とはいえ浸かり過ぎてものぼせそうだしな」

幸い、ワシのお願いについて真也はまだ気付いておらぬ様子。

「真也は聞いてくれそうじゃが……あれをワシが言うのは微妙じゃぞ?じゃが……引っ込みもつかぬしのぅ」

フカフカした手ぬぐいの大きいやつを二枚引っ張り出して、一枚を使い身体を拭いていく。

「……なんだろ、気になる…………」

後ろから聞こえた真也の声に、心臓が飛び出そうになった。フカフカした手ぬぐいの大きいやつの一枚を真也に手渡して、サッと白衣を羽織る。

素直に縋ると云うか、ずっと抱いたまま口に出さず、押し込めたままだった欲求を伝える事は、こんなにも大変な事だったとは。胸がズキズキするやらドキドキするやらで、壊れてしまいそうじゃ。ワシの個人的な欲求ですら、この有り様じゃ。最近、積極的になってきてはおるものの、真也はもうひと押しが足りぬ所がもどかしいのじゃが……そこはワシが何とか挑発してみるとしてのぅ、もし、かけられておる呪詛を解いて貰えたとして、その時はどうなる?ワシ、爆発するのではないか?

真也は手ぬぐいの大きいやつで身体を拭き終えると、まとめてそれを洗濯機の中に放り込む。いよいよ逃げ場が無い。いや、逃げるつもりなど無いのじゃが……上手く言えぬ。

覚悟を決めて、真也の手を引っ張り寝台の側まで来てから、深呼吸。



「真也よ、お願い……なのじゃが…………その、ね、寝る時にのぅ……えと、その……抱っこ、して……傍に居て、欲しいのじゃ……」

壱に手を引かれベッドの側に着く。耳をペタンと垂らして真っ赤な顔をして、途切れ途切れになりながらも震える声で告げられた、お願いらしき壱の言葉に一瞬だけキョトンとしてしまう。ふり絞られた声色は、辛いとか悲しいとかではなくて、純粋に恥ずかしさから来ている様子。

「抱っこ……?って、こうか……?」

ゆっくり壱の身体を抱き上げ、ベッドに優しく降ろして寝かせ隣に横になり、そっと抱きしめて壱を見つめる。

「おっ、おかしな事を言っておる事だけは……分かるのじゃ、明日になれば平気じゃ……今夜、だけなのじゃ!」

すぐに俺の身体にギュッとしがみついてきた壱は、軽く混乱したような慌てた口調で告げてきた。見つめていたら、恥ずかしさと気まずさの入り混じった微妙な表情で目を逸らす。

「別におかしくないけど?それに、俺は壱がして欲しいなら喜んで毎日でもしたいな」

目を逸らした壱に、無理に顔を向かせる事はせず、背中を優しく撫でてやる。壱はすぐに安心した様子でウトウトし始めた。

「して、欲しいのじゃが、もう口には出さぬ……」

「くすっ、そんなのいくらでもしてやる。ゆっくり休みな……」

小さな呟きに少し笑い囁く。寝付く寸前の壱の背中を撫でたまま、距離を縮めて身体をより密着させた。

「ぅー……おやすみ、じゃ……」

寝息を立て始め、俺の身体に頬ずりをしてくる壱の様子は微笑ましく、暫く見つめていた。

帰ってきてからの違和感……風呂場での様子のおかしさや寂しげな雰囲気は、遠出で壱の中のバランスが崩れていた事が原因で、ささやかな願いを告げられずに悶々としていただけだったならば、こういう事は全くおかしくないのだと、少しずつ教えてやらないとな……なんて、壱の新たな一面を見て考える。その身体を離さぬように抱きしめたまま、俺も目を閉じた。



【繋げた未来を離さないで/完】


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

松戸さん家の黄昏時 振悶亭 めこ @full_mon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ