繋げた未来を離さないで 3
名を呼ばれた。そっと頬に添えられた手のひらに、顔を上げさせられる。間近にあった、真也の顔。唇に、口づけられる。チュッと小さな音がしたその柔らかさに、直前に告げられた言葉に、ワシの中の砦のようなものが音を立てて崩れていく。
「分からぬのじゃ……ドロドロして、もやもやしておって、ズキズキ痛いのじゃ……」
繕う事もせず口をついた言葉に、ワシ自身困惑する。頬に触れる真也の手を掴んでそっと、胸元に触れさせた。
「……もしかして、俺が実菜に会いに連れてったのが、まずかったか?それとも……過去の話をしたから……」
真也は、表情を歪ませても、優しくワシの胸元をさすってくれた。
「ごめん、俺に出来る事があれば何でもするし、言葉で壱の胸のズキズキが和らぐなら言うけど……今愛してるって言葉は違う気がするから……良い方法が思いつかない……結局俺、自分の事しか考えてなかったな……」
「真也は、悪くないのじゃ……遠くに行き過ぎて、ワシの中の均衡が保てておらぬだけじゃろう」
湯船に入り、肩まで入るよう膝を抱える。真也も実菜も、悪くないのじゃ。均衡が保てぬ……確かに言葉ではズキズキも、何もかも、和らぐ気がせぬ。もしや、と、思い当たる節を、思い出したのじゃが……
「そう、か……?でも……」
真也はまだ不安げに首を傾げ、何かを言いかけて止めて、湯船に浸かる。
「上手く言葉が纏まらぬのぅ……ちゃんと纏まった時に言うのじゃ。暫し時間をくれぬかぇ?」
「それは構わないよ、気にする必要なんてないから。少なくとも、俺から壱を手放したりはしないしな?」
湯船に入ってきた真也に、そっと寄りかかる。冷たくなっていたものが、少しだけ暖かくなってきた気がした。最初から、素直に縋っておれば良かったのじゃ、と……
「……こうしておると、落ちつくのじゃ」
「そうか。壱が落ち着くなら、いくらでもどうぞ。俺もこうしてるの、好きだし」
身体を引き寄せられる。すぐに聴こえてきた、囁く声。
「ふぅ……真也にくっついておったら、ズキズキ痛いのがなぁ、少し和らいできたのじゃ」
「本当か……?良かった……」
触れようとすれば、触れられる距離。ゴチャゴチャ考え込む間があるならば、触れてしまえば良いのじゃ。伝えたい事があるならば、伝えてしまえれば良いのじゃが……ワシにかけられておる、あの呪詛にまつわる話は、残念ながら解けるまで話せぬようになっておる。それも、真也から態度で示されなければ、解く事が出来ぬ……均衡が保てぬ事がきっかけであったとしても、ドロドロや、もやもやの原因は、恐らくそれじゃろう。
少しだけ、落ちついてから真也の顔を見上げた。
「……後でなぁ、一つお願いがあるのじゃ。聞いてはくれぬか?」
縋れば良いと気付いた時に、願いなど決まっておった。実際に口に出そうとすると、滑稽で恥ずかしいものじゃ。声が徐々に小さくなり、柔らかい笑みを向けてくる真也の顔が直視出来なくなる。
「お願い?出来る事なら聞くし、してやるぞ?」
一瞬、真也が首を傾げたのが見えた。真也の手のひらが、ワシの背中を撫でる。
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