第18話 出番、姐さんの存在意義

「さっすが倉科さん! そこに痺れる憧れるぅぅぅ!!!」

「酔っぱらいすぎだろ長谷川さん」

 ここは姐さんが働くガールズ♂バー、神宿二丁目。もちろん大人の時間、夜です。

「祝勝会ですよ祝勝会! さらに勝ったのですよ核に! さらにさらに二回目です! 快挙です! 呑まずにはいられません!」

「お、おう。それはすごいことだな、うん」

 長谷川さんは珍しく既にできあがっており、おやっさんはいつもの如く呑んでおり、姐さんは店で働きながらこっちのパーリーに参加している。オレも同じように酔えたらよかったのだが……今日はなんだか目が冴えていて酔えそうにない。

 戦いの結果はというと――まあ、ここで宴会を催していることから察せられると思うが、あのもやしとの一騎打ち、勝者はオレ。敗者はもやし。世も末だな……。

「あ~ら、他人事みたいに言ってるけど、坊やの功績じゃない?」

「姐さんか。……なんだその恰好は?」

「戦闘服よ、あ・た・し・の♡」

 今日の姐さんのファッションは、ぱっと見フリルのお化け。

 白の下地に黒の緻密なフリルが映え見事なコントラストを描き出すゴスロリファッション、ヘッドドレス付き。相応ふさわしいな女性が着れば見目麗しい姿を披露できただろうのに、どうしてこうなった? 悪夢を見てるようだ。

「で、何の用だ?」

「素っ気ない態度ね~。お酌してあげるわよ♡」

「こりゃどうも」

 グラスに赤ワインを注ぐという不調和。文句をいっても意味無さそうなので、そのまま呑ませてもらいますが、

「で、何の用?」

「んん~もうっ、本当に素っ気ないんだからっ。もうちょっと世間話とか挟むものでしょ?」

「社交辞令としてはそうだが、無礼講のときにはいらん。ナニを聞きに来た?」

 会話するくらいなら呑む、というとおやっさんみたいだが、要は会話するのはあまり好きではないのだ。

「あの戦いのことよ」

「ああ、それね」

 予測できてなかったわけじゃないが、2人が聞いてこなかったので暗黙のルールとして定めていたのかと思った。

「すまんな。姐さんの活躍はあまりなかった」

「気にしないでいいわ。あたしの出番はまたこ・ん・ど、ってことで♡」

 姐さん登場の回で、結局オレが倒しちゃうという独りよがりの勝利。いろいろ助けてもらったけど、長谷川さんやおやっさんと大差ないと思う。

 オレはいろんな意味で悪党だと再認識した。

「そ・れ・で、あの時なんであんな倒し方したの? 感情のままに戦うことを止めたの? もしかして坊や、攻略法かなんか知ってたの?」

「質問は1つずつにしてほしいが、まあいいか。今戦いのお詫びと酔いの席ということもかねて語るとしましょうか」

「888」

 そんな端折はしょり方をせずちゃんと手で叩いてほしかったが、今宵も無礼講という魔法の言葉で全てを許し、語るとしよう。

「まず、なんであんな戦い方をしたのか、まあ選んだっていうべきだな。オレたちが悪でもやしたちが善だという大前提で話を進めさせてもらいます。オレたちが不良に見えたということは、リンチなんかにしたら当然のように仲間か警察が来る。そうなったあとの不良の顛末てんまつは皆等しく敗北だ。あのまま感情のままに戦った場合、敗北の路線に乗りもう切り替えし効かない結末を迎えただろう。核戦との正しい攻略法は知らんが、戦いが面白くなりそうな方法は知ってる。そして実行したのがあのタイマン。勝っても負けてもオレたちの物語が続く方法があれだった。勝因はおそらく、あの戦いが笑いあり涙ありのラブコメディではなく、油ギッシュなキモデブが女の子を襲う薄い本だったから、というわけだ。世の中クソだな!」

 また長々と語り、そして最後は悪態。気分がすっきりしなかったので適当に酒を注いで一気に呑み干す。勢いで口に入れたのはシャンパンだった。オレシャンパン嫌いなのに。

 酒に酔ったのか変なことを考え出す――オレも高校生になれば青春が送れると思っていたが、実際は違った。とくに何も起こらず何も無いまま卒業……面白くもなく印象にも残らない高校生活だった。

 でも実際、と呼べるべき高校生活を送る者もいる。俗にいうだ。爆発しろ! 

 リア充とオレたちDTにはどのような違いがあるのか? コミュ力か? イケメンか? スポーツできるからか? 運命か? やっぱり顔か? 顔なのか?

 ……たぶん全部違うだろう。答えはなのだろう。わかったら全員モテモテライフを送っていて、考えたやつはノーベル賞を獲ってる。

 まあ正解は知らないが原因はわかる。たぶん――己の不甲斐なさ、だろうな。

 青春を送れなかったものは皆等しく何もしてこなかった者。努力しなかった者。中には努力も何もせず青春を送れる者がいる。だからこそ、答えがわからないのだ。

 全く……世の中クソだな!

「なかなか面白い話が聞けたわ♡ 次の戦いに活かせるよう、ちゃ~んと覚えておこうかしら♡」

「次も戦ってくれるのか?」

 こちらその気ではいたが、姐さんがどういう選択をするかはよくわからなかった。この戦いで愛想尽かした可能性もあったため、最悪は想定していたが、

「もちろん♡ 坊やたちと一緒にいれば楽しそうだから」

「何度もいったような気がするが、姐さんはブレないな」

「あたしはあたしのやりたいようにする。だから戦うのよ♡」

 姐さんのいう戦いとは、魔法使いとしての戦い、そして現実での戦いのことなんだろう。

 オレたちはいつだって不利な戦いを強いられる。それはオレたちが弱い立場であり、現実の風は冷たく、そしてその地位にへりくだってしまったから。

 だけど全てを受け入れてしまったオレたちでも、ちっぽけなプライドがある。だからオレたちは戦うのだろう世間と、現実と――。

「あんちゃん、呑んでるか?」

「おやっさんほどじゃないけど呑んでるよ」

「そうかそうか。そんじゃおいらも呑み直すとしますか」

「おやっさんは絶え間なく呑んでるだろ」

 これから続く宴会、今度は終電で帰らず朝まで呑み明かそうじゃないか! ……たぶん明日は悲劇に見舞われるだろうが。


 オレはいつまで経っても独りかもしれないだが、今のオレは1人じゃない。独りと独りと独りと独りが寄り集まった冴えないおっさんたちだ。

 そんなおっさんだからこそできることがあり、それが魔法使いとして戦うこと。これからも困難は続くだろうが、オレたちなら乗り越えられる! ……乗り越えられなかったら記憶が消えるだけだ。

 失うものなんて髪の毛くらいなもんだ。……おやっさんと長谷川さんは手遅れだけども。


 ……そう――オレたちの戦いはここからだ!

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30の魔法使いにできること。 @nikumasimasi

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