第17話 青春、二次元の創作物

 傲慢な剣のやつを倒した後、世界は様相を一変させた。

 地面は木の床に。空はコンクリートの天井に。窓やドア、カーテンといった装飾が施されたのを見、ここが屋内であることがわかる。

 そしてここがどこなのか決定づけたのは、複数の均等に並べられた机とイス、そして正面の黒板。

「学校、かよ」

 たとえ通っていた校舎じゃなくとも、そこには確かな懐かしさを感じた。十年前くらい話だからとっくの昔のはずなのに、それでもあの学生だった日々を苦労せず思い出すことができる。

 だが、

「……必ずしも、学生生活が楽しいとは限りませんよね」

「だな」

 皆そのことに関しては大きく頷いた。なぜなら、青春を謳歌しなかったからこそ、今魔法使いになって戦っている、といっても過言じゃないから。

 ボッチ、弱小グループ、いじめられっ子、勉強ができない、運動音痴、不思議ちゃん、一匹狼、異端児、ヲタク、中二病、ブサイク、ピザ……様々な理由で人は青春に花すら開くことなく終わることがある。誰しもが学生生活を楽しかったと、戻りたかったと思うわけではない。

 オレたちはそんな『黒歴史組』なのだろう。直接聞いたわけではないが、聞かなくてもわかることだってある。

「昔のことは置いといてだな、どんなやつが来るんだ? たぶんムカつくやつだと思うが」

 偏見、ではないだろう。戦いの場を校舎にするような輩は必ず青春を謳歌しているあるいはしていたやつに違いない。つまり憎みべきリア充だ。

「さて、どんなやつが来――」

 出現は突然で、そしてそれは襲撃だった。

 気づいた時には既に床が崩れ、2階だか3階から最下階まで急転直下。魔法使いじゃなきゃこの時点で死んでるところだ。

「っつつ。なんだよいきな、り」

 周りの状況を見ようとし、ここが玄関ホールみたいな感じになってるんじゃないかなと予測したところで。正面に一瞬岩かと思った岩のような色の堅そうな皮膚で覆われ、ホール一帯を占めるほど巨大な陸ガメがオレを見ていた。さながらアダマンタイマイといったところか? そして咆哮ほうこうをかます。

「グオオオオオオオオオオオオ!!!」

「うわあああああああああああ!!!」

 襲われると思い体裁構わず四つん這いで後退。そのすぐあと、巨大陸ガメは長く首を伸ばしオレが元いた位置に噛みついていた。危機一髪だった。

 陸ガメの射程外に入ったところで、皆の生存を確認する。

「おいみんな、生きてるか! ……死んだか」

「もう少し生存確認しなさいよ! あたしまだ生きてるから」

「な、なんとか大丈夫でした」

 2人は瓦礫がれきの中に埋もれており、砂まみれになりながらも出てきた。

「でもおやじさんが……」

「おやっさん? そういえばいないな……はっ! まさか」

 もう1つ瓦礫の山がある。だがしかしその山はとても大きく、その中に埋まっているとしたら自力では到底出てこれない。

 オレは事の重大さに気づき、次第に焦りを覚える。

「おやっさん。おやっさ」

「埋まってねーから、ここにいるから!」

 おやっさんはオレの死角に立っていた。

「あ、無事で何よりです」

「素気ねーなおい。まあいいけど」

 全員の生存を確認したところで、やはり見逃せない巨大陸ガメの話をする。

「まさか、幹部・核が人間じゃないなんて思っても見なかったんだが」

「重要なのは姿じゃなく強さだからな」

 そうなのか、と納得しかけ違和感を覚える。

「強さ……」

「どうかしましたか倉科さん?」

「ん、ああ」

 長谷川さんに尋ねられたことで、オレの違和感が形づけられた気がした。

「あいつってホントに強いと思うか?」

「それはそうなのではないですか? 倉科さん逃げてましたし」

「あれは、その、いきなり目の前にいたのと大きさにビビッてだな」

「見た目のインパクトにヒヨったのね。でもあれは強い♂と思うわよ♡」

「なんか棘を感じたけど、オレも強いって感じるのは認める。認めはするんだが……」

「歯切れが悪いなー。あんちゃんは何が言いたいんだ?」

 会話を伸ばし伸ばししているうちに、形がまとまった。

「あの陸ガメはたぶん強い。でも……核としての強さを感じるか?」

 オレの言葉に二人は思案顔で黙り込む。

「どうしたの? 何か思い当たる節でも?」

「姐さんは前いなかったから感じられなくても仕方ないが、オレたちは以前に幹部・核と戦った。そしてこの肌でやつのヤバさを感じ取った」

 姐さんは『感じられなくて』というワードに妙な反応したが、オレが言いたいことはちゃんと理解していた。

「つまり、あのカメちゃんには幹部・核のとき感じたってのを感じないわけね♡」

「ああ。正確には、はっきりと感じ取れない、だな」

「ややこしいわねそれ」

 姐さんの頭がよくて助かる。余計な説明が省ける。

 陸ガメが幹部・核じゃないのは確かだが一概に否定できないといった感じ。おそらく2人も何も言ってこないので同意見なのだろう。

 この複雑な感じは一体何なんだろう? その疑問はまた後回しとなることになる。――床がなんの前触れもなく崩れたのだ。

「またかよっ」

 悪態吐いている間もなく今度は床下にあった水の中に落下。沈みきる前に浮上して大きく息を吸った。

「カナヅチじゃなくてよかった!」

 泳げることに心から安堵した。

「そういえば他のみんなは」

 おやっさんなんかは腹の浮き輪で勝手に浮いてそうだが、姐さんは体脂肪率一桁っぽい筋肉ムキムキ。沈んだら二度と浮き上がってこれないような気がしたが、

「大丈夫。全員無事よ~♡」

「なんだ無事なのか」

「なによその残念そうな顔は? 何か期待でも裏切ったっての!」

「……別に」

 とくに返事はないもののみんなの顔が確認できた。ひとまずは安心だが、

「なんで学校の下に水たまりがあるんだよ」

「貯水槽、というには広すぎますね」

 見渡す限り水・水・水・水といった感じ。広さとしては校舎と校庭を足したくらいはあるんじゃないかな。

「学校の見た目に反してここはやつの作り出した幻術。だが広さは無限大となった、いわば亜空間のようなもんだ」

「広さのことを考えても無駄ってことか」

 幹部・核の力はおそるべきものだというのを再確認したところで、

「……なんだ、おい、なんか来るぞ!」

「ビックウェーブ⁉」

「なんで屋内で津波が起きるんだよ!」

 津波とは大規模な波の伝播でんぱ現象、つまり屋内で起ったということは誰かかしらが何かしらの強い衝撃を放ったと思われるが――そんな考察をしている暇じゃなかった。

「ぐぼぼっがぼぼほっ⁉」

 十メートルは優に超える津波なんていきなり避けられるはずがない。一瞬で飲み込まれ、もみくちゃにされ、瓦礫に激突! 死ななかったのは魔法使いだったからだろう。なんという免罪符。

「はぁはぁはぁ……もう第2波くんのかよ! ちょっとは休ませろ!」

 このままではまたもみくちゃからの激突は免れない。どうにかならないかと周りを見渡し、そして今自分が浮きに使っているものを見つけた。

「これだ!」

 浮きに使っていた瓦礫に活路を見出した。

「何がこれなんだ?」

「こいつを、この瓦礫の塊を足場にして跳ぼう!」

「あら名案じゃない♡ よく思いついたわね」

「自分でもビックリ。やっぱもみくちゃは嫌だし」

 思いつく時はいつも土壇場。人間追いつめられないと真価は発揮しないのかもしれない。

「津波、来ます!」

「みんな準備はいいか? 自分の足場はそれぞれ用意しとけ。ここでのブッキングはフラグ以外のなにものでもないからな」

「倉科さんは時々よくわからない言い方をしますね」

「言いたいことが伝わればそれでいいんだよ。……いくぞ!」

 各々自分に合った足場に跳び乗り、そして大きく跳躍する!

「おおおおおおおっ!!」

 人類では決して超えられない壁を易々越えるこの跳躍、快感! 思わず歓喜の声が漏れてしまった。

「ジャンプはいいけど、これからどうするの? たぶんこの津波何度も来るわよ」

「ああ、わかってる。とりあえずここは魔法使いの恩恵を最大限に生かそう」

「ちゃんと翻訳してから言えっ」

 意思疎通というのは面倒だなと思いつつ、

「簡単にいうと、二段ジャンプしてさっきいたところまで戻ろう」

「2段ジャンプって何ですか? 業界用語は僕わからないのですけど」

 そうか。普通の人はそれで通用しないのか。

「2段ジャンプっつうのは、何もない所を蹴って跳ぶことだ」

「そんなことできるんですか⁉」

「できるかじゃねぇ、やるんだよっ」

 失速する寸前、実演と言わんばかり宙を蹴り再び跳びあがる。

「おっしゃ! 見たかご都合主義!」

「そのセリフはよくないですよっ」

 オレが成功させたのを見て、皆もマネして2段ジャンプ。誰一人欠けることなく元の階に戻れたのだが……オレは跳んでいる最中、あるものを見てしまった。

「あれは……リヴァイアサン? シーサーペント?」

 おそらく津波をおこしていたものの正体、それは水中に棲む巨大なヒレのついた蛇。大きさは陸ガメと同じくらいあったんじゃなかろうか。

 二体は別物ではあるが何か共通点がある気がする。この幻術の中にいたのだから、そう思うのが当たり前なのだが。

 では、これの意味するところはいったい……。

「……倉科さん。これからどうしますか?」

「お、おう」

 少し思考を巡らせすぎたようで長谷川さんの声で我に返る。

「これからのこと、だよな。うーん」

 次の行動を迷いあぐねている。前方には陸ガメ。下方には水ヘビ。そうなってくると行く当ては限られるのだが、どうにもまだ何かいるような気がする。

「とりあえず、登ってみるか?」

「ロッククライミングかしら? それともボルダリングかしら?」

「登るってことに関しちゃどっちもおんなじだな」

「上るといことは、階段を使うんですね」

「そうだな、って言いたいところだが」

 階段があった場所は現在瓦礫の山が出来上がり通行止め。おのれ、あのクソガメめ。

「外から回り込んで、上へ行くというのはどうでしょう?」

「名案じゃないこだっちゃん! さすがあたしのダーリン♡」

「は、はは。く、倉科さんはどう思いますか?」

「そうだな……」

 悩むような素振りをするが、危険だと思っている。十中八九何かいる。だけど他に方法がないのも事実。指を銜えて待っている先は、陸ガメの地震と水ヘビの津波のコンボ。普通に死ねる。

 答えは既に決まっていたのだ。

「虎穴に入らずんば虎子を得ず……気を抜かずに外から回り込もう。でももしヤバいと思ったら、即刻窓を蹴破って中に避難するから。優先順位は間違えるなよ」

 3人とも力強く頷いてくれた。核を倒すよりまずは自分の命が大事なのだ。

「うおりゃあっ!」

 手近にあった壁を殴って壊す。硬い物をいろいろ殴ってきたせいか、感触はクッキーみたいだった。

「そんじゃあ、行きましょうか」

 まるで近くを散歩でもするかのように外にとび出す。

 もしかしたら教室の隣には教室がみたいな隣続きの空間が続いてるという最悪の展開を予想していたが、普通に青空広がる外だった。まあ、時間的には夜なんで青空も異常なのだが。

「壁伝いで上るか、へりを蹴り上げて上るか、お好みの方法で――」

 説明の途中ですが臨時ニュースです。校舎の外、公式野球ができるほどの広さの校庭を占拠するほど巨大な炎のトサカを生やすトカゲが発見されました。

 サラマンダーっぽいのがこちらを見つけると、大きな口を開き、奥底からメラメラとした炎が湧き上がるのが見える。

 その炎が、ただ見せびらかすためじゃないとすると――、

「全力で、一気に、上るぞぉ!」

 炎を吐き出される前に一気に上る! 上れるとこまで上る!

 オレたちは炎が吐き出されるわずかなモーションの間に駆け上がる。

「何階まで続いてるんだ? もう十階以上は上ったぞ。高層マンションか!」

「マンションではないでしょ、住み心地悪いですし」

「マジレスしなくていいから」

 空の彼方を覗く感覚で目を凝らしても頂点が全く見えない。下手すら成層圏超えてるんじゃないか?

 見えない頂きを望むのをやめたところで時間が来たみたいなので、窓ガラスを割り教室に舞い戻る。

「ふぅ。間一髪――」

 ところがどっこい。吐き出された炎の温度は思ったよりも高かったらしく、炎が当たり続けた部分が熱せられ見る間に赤くなりそして、溶ける。

「あっつ! あつあつっ、全然安心できてねぇじゃん!」

 辛くも窓から遠ざかりようやく回避できて安堵。これ以上の攻撃がないことを祈るばかりである。

「おやっさん! おやっさんが対抗して炎を吐いてくれなきゃ」

「無理だよ! あんな炎、相殺どころか一瞬で押し負けるわ!」

「弱気なセリフですね。やればできる子でしょおやっさんは」

「やればできるなら魔法使いになんかなっとらんわ!」

 なんたる悲しい正論。それはまるでブーメランのようにオレの方が傷ついた。

 仕切り直して、同じ教室に全員の揃っているのを確認。

「さて、ここからのことだが――」

 さあ作戦会議を開こうとした矢先、床が揺れた。

「みんな地震だ! 今すぐ机の下に隠れろや!」

「おう! ってオレたちが気にするのは落っこって来るもんだけじゃないから」

 地震ということはあの陸ガメだろう。チクショウ! 校舎の造りからして崩壊することはないだろうが……、

「おい、床が崩れるぞ! あんちゃんたち、何とか避けるぞ!」

「避けるって、どこによぉ!」

「崩れそうではないところにではないでしょうか」

「それがわかったら苦労しないっつぅの!」

 悪態吐いても何も始まらない。ここは主人公補正ならぬ魔法使い補正と気合と運でなんとかする! ……でも実際はヒビが入ったところからなるべく遠ざかる、という誰でもできる対処法。

 ――そして、揺れが止まり崩壊が治まったところで、

「なんか、ばかでっけぇ穴空いたな」

「穴♂だなんて、いやらしぃ♡」

「お前がいやらしいだけだそれ」

 穴というより大空洞と呼べるべき大きさ。直径50メートルくらいはある大穴が校舎の中心とした場所に空いていた。

 オレの感がささやいている――この空洞は使えると!

「あのあn、空洞を通って上に行ってみよう。何かある気がする」

 気がするなんて曖昧あいまいな理由で行動するのは危険かもしれない。賛同が無ければ自分だけでもと思っていたのだが、

「いいぜ。どこまでもあんちゃんに付き合ってやんよ」

「そうですね。どうせ下にはいいことなさそうですし」

「まだ見ぬ新天地って素敵よね♡ 乙女のロマンって感じ♡」

 姐さんは意味不明だが、どうやら皆行ってくれるらしい。

 ふぅ……、何があるかもわからないのに二つ返事で了承するなんて、どうしようもないやつらだよ、全く。

「一応の準備をして上昇しようじゃないか!」

 変なテンションで上へ向かうのだが、もちろん階段はこの世界の空気を読んで塞がっているので、オレたちはまた跳躍を強いられるわけだ。

 オレたちは空洞を跳んでいき、途中途中教室のへりに着地しながら上を目指す。

「これ、終わりあるのか?」

「無限ループって怖くね?」

 たぶん100階超えたあたりから大体も数えるのをやめてるが、本当に景色が変わり映えしない。新羅ビ〇の階段上りよりきつい。

「このまま上っても体力と精神を無駄に消耗するだけか。……戻った方がいいのかもしれん」

「えぇ! 折角ここまで上ったのにー」

「すまん。オレの判断ミスだ」

「ですが、下りるのも大変じゃないですか?」

「もしかしたらなんだが……一瞬かもしれん」

「それりゃあ、上るより下りるっつか落ちる方が速いだろうが」

「いや、そういう意味じゃない」

 オレの嫌な予想だが、空間が歪んでいる可能性があり、その予想が当てっていたのならこの空洞は無限ループとなっており戻る時は一瞬、ということがある。

 そうなると完全に無駄骨となるのだが――その予想は目に見える形で外れた。

「……んん? なんか広い空間に出そうだぞ」

「え⁉」

「そ、そんなに驚くことですか?」

「い、いや。オーバーリアクションが今オレの中でブームなんだ」

「どんな言い訳ですか」

 まさか本当に高いだけだったなんて。間違ってはいなかったが間違っていたのでとても複雑な気分。

「よし。あの空いた場所に目指してもうひとっ跳び。……まあ、どうせなんかいるんだろうけど」

「いるってわかってるならあつーくもてなしてあげようじゃなぁい♡ エレクト・マシンガン!」

 姐さんは敵の姿がお目見えする前にナニを、じゃなくてマシンガンを出す。

「どんなのが来ようとこれでイカせてあげる♡」

 ものすごいフラグだとは思うが、姐さんならやってくれそうな気がする。

 そして開けた空間にたどり着く――、

「……って、いきなり出てきたぞ!」

 開けた空間に到着した瞬間の出会い、ばさばさと美しい四枚の羽を羽ばたかせた緑色の蝶、ヘリポートよりも大きな蝶がいました。

「その羽毟むしり取って、あたしの背中に着けて夜の蝶として煌めいてみせるわ♡」

 無理だろと心中で吐露する間に姐さんのマシンガンによるばら撒き! オレもあれには苦労した。

 距離も弾も十分、ただ羽にかするだけでも飛行機能を損ない落ちるはず――それは当たればの話だった。

 バタフ〇ーのかぜおこし、巨大な蝶の勢いをつけた羽ばたきが姐さんのばら撒いた弾を羽へ当たる前に全て止める。

「うっそ! ならもう1回!」

 二度目は男らしい野太い声でのばら撒き! ……だがそれも強い羽ばたきによって止められる。

「この調子だと投擲武器は利かなそう――って、やっべ!」

 自分たちが置かれている状態、実は跳んでいる途中だということを忘れていた。

 強い羽ばたきがこちらにまで届き、オレたちは押し戻される形で落下する。

「みんな! なんかに掴まれ」

「捕まれっていったって、届かないんだけど⁉」

「武器でもなんでも使えや!」

 長谷川さんは剣を、おやっさんは酒瓶の紐を、姐さんはスナイパーライフルを使って無理くりに縁にしがみつく。

 そしてオレは拳を使って……、

「届かねぇし! うああああああああああ!!!」

 腕を目一杯伸ばし武器を使ってなんとか悪足掻ける距離なので、無手のオレは当然届かずそのまま急転直下で落下する。

「倉科さ―――ん!」

 みんなと離れる前、長谷川さんらしき声がオレの名前を呼んでいた気がする。遠くなりみんなの顔が判別できなくなった今となっちゃ気のせいかもしれないが。

「つか、オレだけ逆戻り? このまま進んで核と決戦っていう筋書きじゃねーのか⁉」

 物語の在り方について物議を醸し出してる間に最奥地・水の間に到着いや着水、落下した。

 一見水の中に入ればどんな高さからでも大丈夫、だと思っている輩がいるようだが、実際それは上手く落ちた時、正確に言えば上手い角度で正しい姿勢で着水した場合のみで、現実はコンクリートに叩きつけられるのと同じくらいらしい。

 ……まあ、こちとら魔法使いなんてやってるもんだからそういった不都合は魔法使い補正でノーダメージにはできよう。でも問題はそこじゃない。水の中に敵だ。

 ドッポ-ンと大きな水しぶきを上げて落ちる。すぐさま体勢を立て直し水中から顔を出す。津波が来る前に早くこの場所から離れなければならないが、攻略法は既に知っているので難なく抜け出せる――と高を括ったのがいけなかった。

 さっきと同じように大きな瓦礫に乗り跳ぼうとした時、乗った瞬間には既に影が差していたのを知っていたのだが、まさかそれが津波じゃなく、敵自身だとは思わなんだ。

「直接、かよっ!」

 目の前に水ヘビの頭があり、鋭い牙群がオレを噛み砕こうと迫っていた。一応、間一髪避けたわけだが、再び水中に潜ることとなった。

「くそ、逆戻りか!」

 泳ぎながら悪態を吐き水ヘビから遠ざかろうとする。だが水の中では相手に分があり、すぐに追いつかれ再び牙群が迫る!

「くっ」

 水中に潜りなんとかやり過ごすが、このままでは時間の問題。オレの拳は水中戦に向かない。そもそも水属性の敵に水の中で勝とうというのに無理がある。人間は、魔法使いになろうと水の中では生きていけないのだから。

 それでも何度か防戦を繰り返しながらいろいろ考えるも、やはり優位性があちらに傾きすぎてる現状では、どれもあまり役に立たず。

 万策も尽きそうな最中、焦る気持ちがミスを招き追いつかれてしまう。

「しまっ――」

 迫ってきた牙群を避けようとし失敗、拳がとらわれてしまう。

「くっ、離っ、せっ」

 なぜか奇跡的に砕かれない拳。だがそうとわかったからか拳を銜えられたまま持ち上げられてしまう。このままではいずれぱっくんちょされてしまう。まさに絶体絶命の大ピンチ。

「ここで終わりかよっ」

 ……人生どうんなことが起こるかわからないものだ。魔法使いになって戦うなんて想像していただろうか?

 前に長谷川さんに訊いたことがある。オレたち魔法使いが死ぬとどうなるのか、と。その答えは……、


「人としては死にません。ただ、魔法使いとしての力を全て失い、魔法使いだった頃の記憶を失うそうです」

「魔法どころか記憶まで失うのか。あとになって辻褄つじつまが合わなくなるのは大変そうだな」

「大丈夫ですよ。僕たちの人生は日々同じような記憶。思い出と呼べるほど充実していませんし刺激的でないです。一カ月や二カ月失うとしても支障はないものですよ」


 ……大変悲しいセリフだったが否定する要素が一つも思い浮かばなかったので苦笑いするしかなかった。

 まあ、今ここで死んだとしても現実の自分は死ぬわけではないし、この戦いの記憶が無くなってもとくに惜しくもなかったりする。未練があったとしても、未練ごと消えるんだから気にする必要もない。

 だからオレは全てを諦め、せめて死ぬシーンを見ないよう目を閉じ――、

「坊や~、お姉ちゃんに任せなさーい♡」

 上から気持ち悪い声もとい姐さんが落ちてくる。しかも一人ではなかった。

「倉科さん! 今助けます!」

「おいあんちゃん! まだおっちんでないよなー!」

 2人も一緒に落ちてきた。オレは慌てて閉じかけた目を開き、そして叫んでいた。

「な、何しに来たの⁉」

 第一声がそれってどうなの? みんなもそう思ったようで、

「なんでそんな水くせいこというんだ?」

「同士じゃないですか僕たち」

「そーよそーよ、ホモダチじゃない♡」

「ホモダチじゃねーし!」

 全くこいつらときたら……本当に気持ちの悪いおっさんたちだ。くくっ。

「今助けてやっからな」

「いや、おやっさんの火じゃどうしようもないから。オレ一緒に燃えちゃうからっ」

「では僕が」

「長谷川さんの雷はもっとダメ。オレも一緒に骨まで透けちゃうからっ」

 落ちてきたみんなは不思議空間の中にとらわれているのか中々落ちてこない。そこはツッコむなと言わんばかりに状況が動く。

「そんじゃ、あたしのモノで助けちゃうわね♡」

「言い方はあれだけど、よろしくお願いします」

 姐さんはニッと笑うと、ナニを大きくして大砲に変える。そして、

「チュドーン!」

 もうお馴染みとなったセルフ効果音で砲弾を打ち出し水ヘビの頭蓋にぶちかます! 悲鳴を上げオレは解放されたのだが、

「近っ! 砲撃めっちゃ近っ! 当たったらどうするつもりだよ!」

 文句を言いながら落水。一気に浮上し近くの瓦礫の上に立つ。

「あーら、当たんなかったからいいじゃなぁい? それに助けてもらったのにその態度ってないんじゃなぁい?」

「あ、それはどうも。だけど文句の件は撤回しないけどな!」

 オレが吠えている間に水ヘビは状態を戻しオレに噛みついて来ようとする! が、

「うぜぇ! ちょっとお前はすっこんでろ!」

「ギャフッ!」

 今は水ヘビよりも姐さんのアバウトさに腹を立てていたので、頭を殴って黙らせ、オレは瓦礫の足場から跳び上がり、実は安全地帯にいた姐さんたちの元へ行く。

「銃弾ってのかすっただけでも痛いのに、今のは砲弾だ。爆発して破片でも食い込んだら痛いじゃ済まされないから!」

「それはごめんなさい。それより坊や」

「なんだ?」

「怒ると強くなるって聞いたけど、ホントなのね♡」

「は?」

 なんのことを言ってるんだ、と姐さんが指を差した先を見る。

 なぜか水ヘビが伸びていた。……一体、何が?

「はっ、オレか!」

 そういえばさっき何か殴ったような憶えがある。オレにとってはそのくらいの出来事なのだが、功績はなかなかのものだったようだ。

「まさか一撃で倒すとは」

「残念だが、あれはのしただけで倒したわけじゃない」

 あれが死んでるなら黒い煙となって消えているはずだが、一向にその兆しがない。

「そんじゃあ今のうちに、さっさととどめささねーとな」

「お、おい。やめ――」

 なぜか嫌な予感がし、おやっさんを止めようとしたのだが、おやっさんが火を吹く直前、横合いから激しいツッコミがとんできた!

「バッカス・ファ――がはっ!」

 それは陸ガメの伸びてきた首振りという名のツッコみ! 気づけなかったおやさんは壁まで吹っ飛ばされる倒れる。

「おやっさん!」

「仇は僕がっ」

 長谷川さんが剣構えた直後、今度は前足だけを地面から持ち上げそして勢いよく落とす。すると地面が激しく揺れバランスを取れなくなり膝を着く。

「下は空洞の水溜まりなのにどうしてここまで揺れるんだよ!」

「この状況でもツッコむのね」

 姐さんの的確なツッコみにオレは思わず苦笑い。そして陸ガメを見る。

 揺れる原理はもちろん、あのような巨体を地面が支えられてる事実もまた不思議。まあ、ここは核の作った幻術だからという便利な言葉一つで片付けられるのだろうが、それでも全ての法則を無視しているわけではない。

 それはつまり、この空間がやつらを擁護するのにも限界があるということ。無敵というわけではないということに他ならない。そこに勝機があると見た。

「長谷川さんと姐さんでおやっさんを回収してくれ」

「坊やは?」

「オレは……やつをおとなしくさせてくる」

 親指で示したのはもちろん、陸ガメ。あの暴れん坊将軍を何とかせねば今後の支障にきたすだろう。

「勝算はあるんですか?」

「なきゃ、オレ一人で挑みはしないよ」

「そう。何か策があるならいいわ。ガンバって♡」

「おう」

 姐さんと長谷川さんは早速おやっさんの方へ向かう。オレはやつと向き合う。

「今から黙らせてやるから覚悟――おい、最後まで言わせろよ!」

 宣戦布告の途中でおやっさんをやった首振り攻撃。なんとかジャンプして避けたが、ちょっと危ないところだった。

「そんな攻撃当たるわけ」

 陸ガメは前足大きく上げそして一気に下ろす・地震攻撃。

「またそれかよ! 汚ねぇぞ!」

 文句を言いながらすってんころりん。揺れが治まったところで立ち上がろうとしたら、なんと首振り攻撃が、

「ふざけっ」

 立ち上がるのをやめゴロゴロ転がる。なんとか避けられたが、今度は反対からの首振り攻撃。やばいやばいやばいっ!!!

「――って、いい加減にしろ!」

「ぎゃふっ!」

 もう大ピンチはさっきの水ヘビでたくさん! オレは怒りの拳で首振り攻撃を弾く。止めるだけでなく昏倒させることに成功した。

 さすがに水ヘビのように一撃でのすことはできなかったが、大きな隙はできた。ここぞとばかり反撃に出る。

「まずは、そっちに行ってやんよ!」

 一足飛びで敵の甲羅こうらの上に乗る。といっても、正直岩山としか思えない足場のごつごつさ。

「砕けろ!」

 オレは強力な拳を叩きつける、が、

「かった! 超硬いだけど! こんなもん砕けないんですけど!」

 あまりの硬さに文句といういか言い訳がましい言葉が出てきた。ヒビどころかキズすら付かない。ダイアモンドのようにキズつかず、鋼鉄のように砕けない――自分で言っといてなんだが、アダマンタイマイとはよくいったもんだ。

「耐火・耐雷・耐弾丸・耐衝撃……なんにも効かなそうだなこらりゃあ」

 改めて触れてみた結果のセリフである。これはどうにもならんと思ってしまった。

 熱してから一気に冷やすと割れるなんていう熱膨張を利用した方法があることは知ってるが、たぶん効かない。こいつの甲羅、見た目は岩だが中身は金属な気がする。金属は伸び縮みするので割れにくい。だからそんな可能性にかける時間と労力が惜しい。敵はこいつだけじゃないのだ。

「――おっとっ」

 そうこうしている間に、敵さんが昏倒から覚めオレを振り落とそうと身体を上下左右に揺らす。

「うっぷ、ちょっと気持ち悪くなってきたかも」

 車酔いする性質なので正直ロデオボーイはきつい。あまり長くは持たない。

 だけど先に大きく動いたのは敵さんの方。前足を大きく持ち上げた。

「そのまま後ろに倒れる、なんてしたら起き上がれなくなるからたぶん地震攻撃だよな」

 それに何の意味があるのかわからない。自身に地震の影響があるならそもそも連発できないのでオレを振り落とすには至らないはず。

 おそらくだが、痺れを切らしでもしたのだろう。あるいはオレが背中にいることが相当不快だったのか。

 なんにせよこれはオレにとって、チャンスだった。

 陸ガメは持ち上げた足を勢いよく落とし地震攻撃。校舎を揺らすほどの大地震だったが、思った通りこいつの上は振動が一瞬伝わっただけでほとんど揺れを感じない。

だが今は自身の予想が当たったことなんかどうでもいい。

 大地震が現在進行で起きているという事実が重要なのである。

「たまには、他人の気持ちにもなってみろっつーの!」

 大地震に合わせやつの背中に拳を解き放つ。だからといって陸ガメにダメージが入るわけではない。陸ガメ自身には。

 最初の変化はミシッという何かに軋む音。次に訪れたのは大きな変化、陸ガメを支えていた地面全体に亀裂が走り、そして――崩壊!

「よっしゃ!」

 喜びも束の間、オレは陸ガメの背中から離れ長谷川さんとたちがいる方へ。陸ガメはすぐにはその場から動けないため、崩壊した地面と運命を共にし水の中に落っこちる。

 その後、大きな大きな水しぶきが上がり、室内なのに雨が降ってきた。 

「よう、あんちゃん」

「おやっさん。意識を取り戻したんだな」

「別に意識はとんじゃいねーよ。ただ吹っ飛ばされただけさ」

 まるでアメリカンジョークのように語るがどこもジョークがかっていない。でも無事で何よりだとは思った。

「やりましたね、倉科さん。さすがです倉科さん」

「おうよ。別に倒したわけでもないがな」

 でもこれでしばらくは動けまい。つまり地震はしばらく起きないということ。

「あんな手があるなんて、坊やなかなかの策士ね♡」

「そうでもないさ」

「謙遜なんて、かっこつけちゃって♡」

「って!」

 背中をものすごい力ではたかれた。クソ痛い!

 今のは決して謙遜なんかじゃない。本当はあの岩山みたいな甲羅が壊すのが目的だったのだから。でも現実は想像以上に硬すぎて手も足も出ず、別の手としてやつが乗ってる地面を壊すという方法をとったにすぎない。

 どういう原理かわからないが、やつが乗る地面はなぜか地震では壊れず校舎を激しく揺らしていた。とはいえ、その地面にも限界強度があると踏んで、地震を起こしたときさらに力を加えれば壊れるんじゃないかと思い実行してみたらうまくいったという、ほとんど奇跡の功績。一旦無力化できたのは嬉しいがそんなもの自慢にもならない。

「そんじゃあ、おやっさんも動けそうだし、陸ガメが復活する前に空洞を使って上に行こうか」

「あのでっかい蝶を倒すんだな。外にいるのは最後ってことか」

「んー……あいつは場合のよっては倒さない」

「えぇ⁉ 核の出現条件は4体全てを倒すことじゃないんですか⁉」

 長谷川さんはそんな風に思っていたのか。2人も同様なのかオレの倒さない発言に動揺している。

「出現条件っていうか、どこにいるのかどうやって出るのかわかんないけど、一応試してみたいことがある」

 上手くいく保証はないというニュアンスを含んでそういう。多大な期待を寄せられても困るから。

 でも言い方を間違えたかもしれない。これでは乗ってくれない可能性もある。だけど2人の返答は、

「そうか。んじゃあんちゃんのいう通り行こうとするか」

「そんなあっさりでいいのか? もう少し疑ってもおかしくない言い方したが」

「それは倉科さんの性格でしょ? 疑わしくてもなんとなく上手くいくのがあなたの作戦のすごさです」

「あんま褒めれれた気がしないな」

 実際褒めてないのかもしれない。でも乗ってくれたことは有難い。残るは姐さんだが、

「楽しそうなことになりそうね♡ お姉さんは坊やの作戦にのったげる♡」

 好感触。この人も意外に頭がいいので難色を示すかと思ったが簡単に承諾を得られた。

「善は急げ。早速行くぞ」

 言い終わると同時にオレは跳躍する。あとからいちゃもんを付けられる前に行動は起こすもんだ。

「……やっぱり長い道のりだな」

 100階以上先にでかい蝶がいるため、移動時間がかかる。エスカレータでもあればいいのにと心の中で懇願しながら跳んでいると、いつの間にか隣に並ぶ影が、

「やっぱり長いわね。エスカレータでもあれば楽なのにね♡」

「まさにオレもそう思ってたよ」

 同じことを考えていたという同調シンクロは別段嬉しくないが、ため息の理由が共感できることに関して悪い気はしない。

「あ、そうそう♡ 坊やに一つ、聞きたいことがあったんだわ♡」

「なんだ?」

 まるで世間話でもするように話しかけてきたから、全く構えてなかった。結果、一瞬声が出なくなってしまう。

「あーた、あの時、なんでとどめささなかったの?」

「!」

 その声は直接心臓を掴むようで、足を止めかけるほど。

 あの時、というのは水ヘビをのした時と陸ガメを落とした時の二つのことを指しているのだろう。

 答えるべきか否か、その判断する以前にオレには選択肢はないだろう。そのくらい今の姐さんにビビってしまった。

「倒せる気がしなかった」

「どうして?」

「拳をぶつけてみてそう思った。あれは何度でも蘇るじゃないかって」

 姐さんの返事がない。疑っているのだろうか? 聞くのが怖いので黙っていると、

「そう。あたしはてっきり、坊やが手加減したのかと思ったわ」

「手加減なんてできるわけないだろ。この戦いにかける思いが本気じゃなくとも、この戦いを無下にしたいとも思ってない。だからオレは手加減しないし、敵が強いから手加減できない」

「ちょーっと本音が出ちゃってるけどいいの?」

「今の姐さんが怖いからつい口がすべった」

「あらひどいわね。こんなに優しいお姉さんだっていうのに♡」

 どこまで本音か知らないが、最後の方はもういつもの陽気な姐さんに戻っていた。なぜだか命拾いしたと思った。

 そのあとすぐに姐さんは離れ長谷川さんの元に行く。気張れと長谷川さんに心の中でエールを送る。

 ……今オレはついウソを吐いてしまった。姐さんにはバレなくて済んだのはひとえにすべてがウソじゃなかったからだと思う。真実が混ざったウソは真実よりも真実味が増すというからな。

 何度でも蘇ると思ったのは本当だ。あれは4体全てを倒さなければ、あるいは核を倒さなければ無限に復活するんじゃないかと推測している。

 ただ、手加減したのは本当だ。オレは水ヘビや陸ガメを殺すことができなかった。その理由がなぜかと問われたら、うまく答えなれない。なぜだかこの手にかけることができなかった、というのが本音。

 そんなあやふやな理由だから姐さんにいえなかったということもあるが、やはり敵を前にして善人ぶったことをいうのが嫌だったからというのもある。あれだけ自分は悪党悪党といったので示しがつかない、そんな理由だ。

 ――さてさて。心の中でいろんな葛藤をしたいる間に例の広い空間が見えてきた。

 とりあえずやつを倒す作戦を考えるため、一旦途中の教室で心の準備がてら休憩をとる。

「さて、どうやってあの蝶を攻略するか?」

「……このくだり、いりますか?」

「なっ。作戦会議自体を否定すんのか?」

 長谷川さんからまさかの爆弾発言。驚かない方が無理である。

「正直あの蝶の攻略は僕には思いつきません。倉科さんの考えた方法でいいのでは?」

「お前なぁ」

 無駄な時間を割くという意味ではその方がいいのかもしれないが、

「自分では何も考えず全て人のいうことを聞く、思考停止はよくないぞ。だから会長に指示待ち人間、っていわれんだぞ」

 会長って誰ですか? という質問を無視し話を続ける。

「たとえ自分の意見が採用されなかったとしても、言わなければ採用される可能性はない。そもそも考えようとしなければ、替えなんていくらでもいる、もうキミ何もしなくていいから、帰ってもらっていいよ……なんて存在価値を否定されかねんぞ」

 経験談というわけではないが、似たような事は多々言われたことがある。もちろんここで逃げたら信用は完全に失うので、とにかく耐えて仕事しましょう。

 でもオレの言ってることは少しずれていたらしい。

「倉科さんの言いたいことはわかりました。ですが僕が言いたいのは適材適所があるということです」

「ああ、それか」

 人には人の向き不向きがあるから自分が大いに発揮できることに専念する、とかいうあれか。それも間違っちゃいないしむしろ合ってるともいえるが、だがあえてここは否定させてもらうことにした。

「オレたちの目的はであって、なんてハッピーエンドじゃない。オレたちの戦いは聖戦じゃなく抗戦なんだ。誰か一人でも勝てばいい、犠牲を出してでも勝てばいいという戦いだ。それには一人一人が知恵者であり戦人である必要がある。だから考えることをやめちゃいけない、やめんな!」

 オレたちは勝利を勝ち取るのではなくどんな手を使ってでももぎ取るという方が正しい。なんせオレらは悪党で、世間は幹部・核やリア充の味方。優しい方法で勝てるわけがない。一人一人が死兵となり戦わなければ核との戦いに勝利はないだろう。

 これで心に響かなかったのなら、ばかちんがと言ってひっぱたくしかないのだが、……長谷川さんはもう大人だった。

「そう、ですね。すいません。上手くいかないことや活躍できないことが多くて少しネガティブになっていたのかもしれません」

「気にするな。誰にだって鬱になりかけることはある」

 常にケツに火が付いたような生活を送ってるオレたちに鬱になってる暇はないが。

「そんじゃあ作戦は、2人がバックアップ、1人が囮で、1人が本命でいこう。配役はもう決めてある。何か質問は?」

「結局、倉科さんが決めちゃってるじゃないですか!」

 今までのやり取りは一体? というオチになったところで、配役を通達する。皆とくに文句も言わず滞りなく作戦会議は終了した。


 そして間もなく作戦行動は開始される。一同跳躍して広い空間へ突入。出迎えたのは言わずと知れた巨大な蝶。相手もまた待ち構えたように美しく羽を羽ばたかせ、いざ交戦!

「まずはオレの拳を食らえぇぇぇ!!」

 出会いがしらの正拳突きとしゃれこむ、が、かぜおこしで迎撃してこようとする。

 だが、姐さんのばらまきを全て止めたからといってオレの拳をそれと一緒にされちゃ困る。

「一点突破の底力、みせつけてや」

 オレの勢いそこでは止まり、拳は相手に届かなかった――世の中、気合だけじゃ上手くいかないものだ。

「覚えてろよぉぉぉぉ……」

 悪役の捨てゼリフを残しオレは無様に落っこちていった。

 ……もちろん。ここで終わりなわけがない。

「今のは前座、本番はここからです! 雷迅!」

 怒涛の雷を帯びた突貫! オレにかぜおこしを使ったので次の攻撃まで隙ができるはず。そのインターバルをつくのが今回の作戦。

 そして蝶は予想通り、普通に羽ばたくばかりでかぜおこしを使わない。作戦成功!

「うおおおおお!!!」

 長谷川さんは迷わず突っ込む。その一撃は相手を葬る必殺技。美しい羽を黒焦げ色に染めるのは惜しいが、これは戦い。慈悲などかけない。

 容赦のない雷撃が蝶を黒く染めるか――と思いきや、なぜか少し後退する。ただの悪足掻きに見えたそれには大きな意味があった。

「――なっ⁉」

 本来なら届いていた位置に来ると、蝶は再びかぜおこしを繰り出した。インターバルはこちらの想像を遥かに超えるほど短かった。

 雷迅とかぜおこしが激しく噛み合い、そして――かぜおこしは凪ぐ。だけど長谷川さんの動きも止まってしまった。が、

「動きは止まっても……攻撃は終わってません!」

 相手に届かなかった剣から雷電がほとばしり、放たれた雷は切っ先を越え羽ばたく蝶へ。高電圧が身体へ触角へ羽へ駆け巡り空中で悶えた。

 だけど――倒すには至らなかった。弱々しくも羽ばたきながら宙を飛んでいた。

 敗北を喫したのは残念だが、それでも大健闘した長谷川さんは攻撃が当たったのを見送ったあと落ちるのだが、その過程で、

「くっ、ここまでですか……でも、」

 意味深な言葉を残し、長谷川さんもまた無様に落ちる。――敵の目にはそう見えただろう。

「……どうよ、勝利の美酒の味は?」

「⁉」

 表情は無いが、驚いたような顔がその声を探す。

「ここだよ、ここ――お前の肩だっつの」

 肩といっても羽の付け根部分に乗っかっている。隠密に動いていたとはいえ、ここまで気づかないとは思わなんだ。

 ……どうしてオレがこんなところにいるのか説明しておこう。――オレは拳届かず落ちた時、すぐ下の階にいたおやっさんに救ってもらい事なきを得た。そしてすかさず相手に気取られぬよう上の広間に行き、死角を伝いながら近くまで行く。電撃が当たり痺れている隙に跳び乗ったのだ。帯電していた可能性を考えれば少し早すぎかと思われたが、運良くなのか雷の影響を受けることはなかった。

 ちなみに、落ちた長谷川さんは姐さんがキャッチしました。

「さてさて、今のお前は抵抗できないだろ? 回復するのにどれくらいかかるか知らんが、少しの時間があれば……お前を痛めつけるられる」

 そう言っておもむろに羽を掴む。

「不死性を持つかもしれんお前らも、痛みだけは避けられないだろ? ……子供の頃、善悪つかない幼き出来事の中に、虫の羽をむしるなんていう児戯を行うやつもいるという。残念ながらオレはやらなかったが……今からそれをやるってのも悪くないと思わないか?」

 コケ脅しでないことを証明するため、掴んだ羽を少し引き剥がす。何とも言えない悲鳴のような声を発し暴れる。痛覚がなぜあるのかしらんが好都合。もちろんそれで落ちるオレじゃない。

「うるせぇな! 黙って暴れんのもやめねーと一気に毟んぞ!」

 そういってまた少し引き剥がす。また暴れるがまだ十分に身体を動かせない蝶はオレを振り落とすほどの力は出せず、羽が身体から一枚剝がされるのも時間の問題になる。

「全部無くなりゃただの芋虫になるな。ははっ、残酷だけどこれは戦いだから仕方ないよな!」

 本当は笑えないが、それでもやらねばならないのがこの戦い。

 一枚の羽が半ばまで千切れ、徐々に暴れる力が衰えてきた頃――、

「やめろ! 彼女から離れろぉぉぉ!!!」

 どこからか威勢のいい声が聞こえた。

「……ようやくか」

 オレは引き剥がす手を止め、声の主がどこにいるのか探す。やつは柱の前にいた。たぶん柱の影に隠れていたんだろう。

 蝶が動揺の声みたいな奇声を発する。やつが出てきたことのは予定外だったのかもしれない。

 ……まあ、オレにはどうでもいいことだったので、足場を蹴ってやつの元へ赴く。

 足場を蹴った際、足場にしていたものが壁に激突していたとしても、やはりそれはオレには関係ないことだ。

「彼女に乱暴するな!」

 近くで見るとなよっとした印象の男、顔はイケメンというわけでもブサイクというわけでもない中性、そして高校生くらいのケツの青そうなガキだった。もやしみたいとかマッチ棒みたいとかいろいろ言いたくなるようなガキだったが、それよりも気にことを口にしていた。

「は? 彼女? 巨獣だろ」

「あ、あなたは何を言ってるですか。か、彼女が巨獣なわけないですよ」

 なんだか話が噛みあっていない。どういうことだ?

「ちなみにオレはどう見えてる?」

「ド、ドラマとか漫画に出てくるような不良に見えます」

「マジかよ……オレ、若返ってらぁ」

 嬉しようなどうでもいいような微妙な気分。

「ちなみにさっきのはどう見えてた?」

「ひ、人質に取っていた彼女を後ろに放り投げたじゃないですか!」

「お、おう。そうか」

 たどたどしい喋りだったのがいきなり声を荒げるので少し驚いた。どうやら彼女とやらのことになると感情的になるらしい。まあ、それはそれとして。

 オレとこのもやしとは見えてる世界が違うらしい。オレたちの目には教室を舞台とした巨獣との戦に見えてるが、もやしにとっては日常生活で不良に絡まれたみたいな感じに見えてるんじゃないかな。

 なんかそれはそれでムカつくが、今は大人の対応でいこう。

「お前が、幹部・核、なんだよな?」

「……はい。間違いないです。僕が倒れれば終わってしまいます」

 そこは現実というかこちらのルールと同じらしい。

「僕が、ってことはこの世界はお前が創ったって自覚はあんだな」

「そ、それはよくわかりません」

「はぁ?」

「す、すいません! 僕はただ、あなたたちと戦って勝て、と」

「誰にだ」

「う、運命の神様?」

「てめぇ、ふっざけんなよ!」

「ひ、ひぃい!」

 ガキをイジメる趣味は無いが、コケにされたら腹が立たないわけがない。問答無用で一発殴ろうと胸倉を掴んだところで――地震が起こる。

「っ、あんのやろうっ、もう復活したんかい」

 地震といえば陸ガメ、か。どうやってか這い上がったということなのだろう。最早、原理や工程はわかるまい。

 陸ガメの復活は、でも心配するようなことでもない。

「おやっさん、警戒は解いていい。どうせやつには手は出せない。こっちにはがいるんだから」

 人質を使うなんて悪党からテロリストに進化した気分だ。笑えないな。

「……お前さっきから、つってっけど、あいつらはお前にとってなんなんだ? どういう関係だ?」

 オレたちには巨獣にしか見えないが、やつにとっては違うというか、現実ではどういう人間なのだろうか?

「ぼ、僕の幼なじみと部活の先輩と妹の後輩、そして義理の妹です」

「ちっ、お前ラノベ主人公だったのかよ!」

「ひっ、なんだかよくわかりませんがごめんなさい!」

 怯えながら謝られたらオレが悪いみたいオレが悪いみたいじゃないか。まあ、実際オレらが悪いように見えてるんだろう世間一般では。

 それにしても今聞いたラインナップはまさにラノベの世界でしかありえないようなキャスト。

 幼なじみ何て幻だし、いたとしても男だろうし。万が一女だったとしても、男として見ることなんてないだろうし。

 部活の先輩なんて話しかけてくれるのは男だけだろうし、部活に女の子がいるよなとこに入らないだろうし、オレそもそも帰宅部だったし。

 妹の後輩なんて論外。兄として会話することなど奇跡で、そもそも繋がりができることさえない。

 義理の妹に関しては、言葉もない。義理で妹ができるのは両親が再婚した場合のみであり、仲良くなったとしてもそれは兄妹ではなく友達みたいなもんだ。

 たぶんというかおそらく間違いないと思うが、やつがラノベ主人公だとすると、四人全員がなよっとしたこいつに好意を寄せていることだろう。これもたぶんだが、優しいだけだというのに……理解不能な原理だ。

 全員が全員苛いらつかせる存在で、どこの東西南北・真中かと激しくツッコみたくなるが、今は無駄な感情と情報を省くとする。

「あいつらはペットか? それとも武器か? だったらお前は魔獣使いトレーナー武器使いソードマスターってことになるわけだが」

「彼女たちを――彼女たちは魔獣でも道具でも、ましてやペットなんかじゃない! 僕の大切な人たちをバカにするな!」

「っ⁉」

 その気迫は今までの比ではなく、怒声だけで後ろに2・3歩押された。なんたる潜在能力、何たる可能性の塊。でも――その力は以前戦ったバカヒーローよりもだいぶ、いや比較にならないほど弱い。本当に核なのかと疑うほどに、弱い。

 ……原因はわからなくもない、というか目に見えた形で現れており、今現在まで戦っていた彼女たちとやらにパラメータを全振りしているのだろう。

 一作戦としては間違ってない気もするが、つまるところ――、

「お前、その彼女たちとやらにおんぶにだっこ、だったんだな」

「ち、違う! 違います! 僕は、僕が戦うといったのに、彼女たちがどうしても戦わせてくれなくて。そ、それは僕が弱くて、ケンカや暴力が苦手で、スポーツも苦手で、知略が苦手で、おまけに勇気もなくて……」

 さっきの威勢はどこへやら、元の臆病者に逆戻り。本当に苛つかせる。なんでこいつがモテるんだ? なぜオレはモテず、青春が訪れず、チャンスすら転がってこなかったのか……考えれば考えるほど苦しくなり、そして腹が立ってくる!

 それはどうやらみんな同じだったようで、

「おい、そいつもうやっちまおうぜ!」

「やっちゃうなんて、きゃっ♡」

「何が、きゃっ、だよ! 食うって意味じゃねぇと思うぞ」

「そうです。殺す、という意味です」

「それはそれでダイレクトすぎだろ。もうちょっとぼかすとかオブラートに包むとかあるんじゃあ」

「ああ、殺すことには賛成♡ どっちにしろこいつぶっ殺さなきゃ元の世界に戻れなそうだし、八つ裂きにしないと気が済まないし♡」

「笑顔で一番怖いこと言うな」

 一同怒ってるもんだからオレは逆に冷静さを取り戻し、皆の気をいさめようとしている。

「なによ坊や。もしかして敵側に寝返るつもり?」

「さっきから変だと思ったが、敵を庇おうってのかあんちゃん?」

「見損ないましたよ倉科さん! あなたは僕たちの存在意義を忘れたのですか?」

 同じ色に染まる中、難色を示すものがあれば叩かれるのは当然だわな。自分もなんでこんなことになってるのかわからない。――いや、わからなかった、ってことになるか。今わかった。

「今、感情のままにこいつを倒しても意味がない。いやむしろ最悪の結末、つまり敗北するかもしれん」

「どういうことだ? 核を潰せば世界は消えるだろが」

「それは、オレたちの知る常識であり、異例が起こらないとも限らない」

 幹部・核と二戦目にして異例というのはおかしいが、

「たぶん、今こいつを倒したら、あの四体が暴れ出すと思う。本来なら核を倒せば終わるのだろうが、その核がこのもやしから四体の巨獣に移譲される可能性がある。そしたら必然、積みだ」

「なぜそういいきれる?」

「やつらは今までバラバラに戦ってきた。でも今こいつを倒したら間違いなく仇を討つためどんな手を使ってでも倒しにくる。コンビネーションかあるいは融合か」

 覚醒したバカヒーローに辛くも勝てたのは奇跡に等しく、奇跡は二度起きることはない。

 奇跡は起きるものじゃない、起こすものだ! というのは往々にして主人公のセリフであり、悪党にはそんな奇跡は起こせない。起こさせてはくれない。

「じゃあ、どうしよってんだよあんちゃんは?」

 そう聞いてくれるのを待っていた。それは怒りが少し治まってきたということでもあるから。

「オレに、任せてくれないか?」

 説明も理由もなしにこのセリフ。大抵は尋ねるか怒るか否定するかだと思うのだが、3人の反応は、

「……よし、わかった。あんちゃんの好きなようにしろ」

「任せました倉科さん!」

「坊やにオールベットするのも面白そうね♡」

 あっさり任せてもらった。やった! ……じゃなくて!

「承認するの早すぎだろ! 二つ返事より早いぞ! むしろ押し付けただけにし見えないぞ!」

「逆ギレすんなって。任せろつったのはあんちゃんだろ?」

「それは、そうだが」

「倉科さんならやってくれる、僕はそう信じて託すのです。押し付けじゃないですよ」

「長谷川さん……」

「あたしは俄然面白そうだからだけどね!」

「姐さんはブレないな。あと長谷川さんに惚れてないから怒んなって」

 おやっさん、長谷川さんは、姐さん……3人はオレに押し付けたわけじゃなく、オレに任せてくれた。本音の本音はどうなのかわからないが、任せてもらえたのならオレの好きなようにさせてもらおう。

 そしておれはもやし男の前に立つ。

「な、なんですか?」

「決着をつけよう」

「こ、この戦いに終止符を打つんですね?」

 なぜそんなかっこいい言い回ししたのか不明だが、やつも乗り気ではいるようだ。

「方法は? そのような勝負を持ちかけるということは全面戦争というわけじゃないんでしょうね」

「……タイマンって知ってるか? 一対一で戦うってことなんだが。もちろん戦うのはオレとお前だ」

「ど、どうして僕が?」

 まあ、そういう疑問を浮かべるわな。正直、彼我の戦力差はオレの方に分があるのだから。

 だからここは、卑怯な大人の手を見せつける。

「言わなきゃわかんねぇのか?」

 バカにした風に煽るがごとくこういえば相手が無知でも少しは考えざるを得まい?

「……」

 そうして黙り込むのは想定済み。ここは少し遠回しな答え方をする。

「お前はいつまで女の影に隠れてるつもりだ?」

「っ」

 もやしの肩が揺れた。こういう主人公より周りのヒロインの方がよく動く場合、なぜかモテる主人公は自分の不甲斐なさにコンプレックスを抱いているはず、と踏んでいやらしい言い方で挑発する。

 もちろん今のはジャブなのこれからでたたみかけます。

「まあ、オレは別にそれでもかまわねえ。お前がどうしても戦いたくないっつぅなら、お前の代わりに誰か一人女を出せよ。お前の代わりにボコボコにするから」

 本当は男女平等パンチができない、いろんな意味で女に手を出せない性格なのだが、ここは虚勢を張る。そして一番相手が嫌悪しそうな煽り方をする。

「……今、なんて言った?」

 よし、挑発に乗ってきた。予定通り事が進みそうだ。

「お前がやらないなら、代わりに女を差し出せっつったんだよ。かどわかしてやるから」

 もちろんかどわかしません。かどわかせません。

 だけど効果は抜群だった。

「……ってやる」

「ん? 今なんつった?」

「やってやるつったんだ! 僕はやるぞ、お前とのタイマン!」

「ふっ、いい度胸じゃねぇか」

 ここまできたらもうオレはただの悪役。薄い本でいうところのヤンキー・ヤリサー・脅すキモデブ。

 さっきまでおどおどしていたもやしは、今や凛々しい瞳でオレを睨みつけ拳を構える熱血少年漫画の主人公。たとえ相手が強大でも負ける道理はないだろう。

 オレも悪役らしく、いやらしく不敵に笑い拳を構える。もはや取り付く島もない悪役が板についてしまった。 

 拳を構え睨み合う両者。二人の間に静寂が訪れ、周りのみんなは固唾を飲み、心臓の音が一番うるさいと思える頃、どこからか小石が落ちてきた――その落ちてきた瞬間が始まり、そして終わりの時!

 互いが落石に音を合図に駆け出す!

「うおおおおおおおお!!!」

「うおおおおおおおお!!!」

 いつのまにか距離が開いており、いつの間にか見知らぬ屋上に移動しており、いつの間にか校舎の四方を陸ガメ・水ヘビ・火トカゲ・蝶が囲んでおり、いつの間にか日が暮れ黄昏刻となる中、

 

 ――オレとやつの拳が交差する! そして――!!!

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