私の夢
寺野サウルス
第1話
「アキラ、あんたいい加減にしなさいよ」
私は布団を頭から被った幼馴染にそう言った。
「あんた一体どうしちゃったの? おばさんやハルカちゃんも心配してるよ?」
私は続けて言った。
「昨日ハルカちゃんからメールが来てね? 『お兄ちゃん、学校で何かあったんですか?』って、私びっくりしたんだよ? あんたもう三日も学校休んでるんだって?」
……何の反応もない。
「ねぇ、学校で何かあったの?」
布団の中で、アキラの首が横に振られる。
「じゃあいったいなんで……」
その時、布団の中からアキラがゆっくりと手を伸ばし、自分の机の上を指差した。
机の上にあったのは……一冊のA4のノート。
「何これ?」
返事はない。
「見ろってこと?」
アキラは頷く。
私は一ページ目を開いた。
『6月7日(月) 学校の廊下。教室の扉を開けると一匹のトラがいる。かみつかれた瞬間に目が覚める』
『6月8日(火) 飛行機から落とされる』
『6月9日(水) 殺人鬼に追われる。 逃げるが追ってくる、つかまった瞬間に目が覚める』
「何……これ?」
私が聞くとアキラは消え入りそうな声で一言こう言った。
「夢……」
「夢? あの寝てるときに見る夢? あんた自分の見た夢ノートに書いてんの?」
こくりとアキラが頷く。私は怪訝な顔をして聞いた。
「どうしてそんな……」ことをしてんの、と言いかけた時だった。
「二週間前……映画を観たんだ……」
「映画? 」
「ベトナム帰還兵の話でさ……滅茶苦茶怖い話だったんだ……主人公は戦争から帰ってきて普通に暮らしてたんだけど、PTSDっていうの? 幻覚や幻聴に悩まされるようになるんだ……その原因を調べるうちに政府の陰謀に気付くっていうストーリーなんだけど、オチを言っちゃうとね……? 実は主人公はまだベトナムにいて、今までの暮らしは瀕死の自分が死ぬ間際に見てた走馬灯でしたっての。俺この映画観た後すごく怖くなってさ……もし、もしもだよ? 今ここにいる自分が実は誰かの見てる夢の中の人物で実在しなくてって……そんな事考え出したら……もう学校なんて……」
私は呆れと安堵が入り混じった表情を浮かべて言った。
「あんたね、いい年して怖い映画観たから学校行きたくないなんて、何バカなこと言ってんの? 大体実は自分は存在してませんなんてそれ一体どこの三流SFよ? じゃあもし私が存在しないってなったら今ここにいる私は」誰なのよ、と言いかけたときだった。
目の前の景色が白く光りだした。いやそれは光るというよりは周りの景色が白いカンバスに溶け込んでいくような感じ。アキラもベッドもノートも部屋の中の物全て、いや部屋そのものも白に溶け込んでゆく……。
それと同時に私の体も重力から開放されたように浮き上がる、いやこれは落ちてゆく? いややっぱり浮き上がってる?
白い白い闇の中に私はゆっくりと溶け込んでゆく……。
同時に私の意識も段々と薄れて……。
私、何してたんだっけ?
確かアキラの部屋で……えっと……何を?
っていうかアキラって誰?
もういいや、考えるのも面倒くさい……。
このまま寝ちゃえ。
突然、強烈な光が私を照らす。 眩しい。とても目を開けていられない。
不意に私の目の前に不思議な物体が現れる、人……?
何人もの水色の服を着た人が私を覗き込んでいる。
何か大きな声で……怒鳴ってる……。
「……先生……心肺停止!! ……」
「……内挿管する……」
「……臓マッサージ……」
しかも、耳元で何かの機械がピーピーとひどく耳障りな音を出している。
うるさいなぁ、人が気持ちよく寝ようとしてんのに……。
ゆっくり寝かせてよぉ……。
「……フです!! ……」
「エピ……を、五…………チから……」
何で人が寝てるそばで、そんな大きな声出すのよ……。
あ……それも聞こえなくなって来る……。
怒鳴り声が段々小さく……。
ピーピー鳴ってた機械もピーとしかいわなくなった。
「残念ながら……」
それが私が最後に聞いた声だった。
私の夢 寺野サウルス @barcelona-21
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