episode4 夕食
家に帰ると、お母さんは「少し休けーい」とソファにダイブした。
私はそんなお母さんに声をかけて、浴室へ向かう。
歩き疲れた。
汗もかいた。
……シャワーを浴びてスッキリしたい。
着替えの準備をしていると、お母さんの大きな声が響いた。
「あー、そうだ。ついでに、お風呂入っちゃいなさい。お風呂の用意しておくから」
ソファから言っているのであろうその言葉に、私は眉をひそめた。
「えー、もうお風呂行くよ!」
もう、準備OKだった。
いま、まさに行こうとしていたところだったのだから。
「少しくらい、待ってくれてもいいじゃない?」
そういって立ち上がる音がする。
私はしぶしぶ「はーい」と返事をした。
1時間後。
お風呂から上がると、お母さんは夕飯の支度をしていた。
「あ、もう少しかかるから休んでて~」
私に気づいて、お母さんは私に目を向けることなくそう言った。
「手伝うよ?」
久しぶりだからか、集中して作っているようだった。
きっとお母さんも疲れてると思って提案したのに、お母さんは手を止めて微笑んだ。
「いつもやってもらってるから、休みの日くらい作らせて」
その笑みに、私は何も言えなくなる。
「………うん、わかった」
結局、素直に休ませてもらうことにして、部屋に戻った。
「………──」
ん………。
「ぉ………?」
んん~。
「起きてってば」
………ん?
ばっと起き上がると、お母さんがクスクスと笑っていた。
「よほど疲れてたのね。髪も乾かさずに寝ちゃうなんて」
どうやら髪は濡れっぱなしの状態のままベッドに倒れ込んで、そのまま眠ってしまったらしい。
「へへ」
少し気恥ずかしくて笑ってごまかすと、お母さんは私に手を差し出した。
「ご飯できたから、一緒に食べましょ」
「うん!」
私はお母さんの手をとり、お母さんと一緒に部屋を出た。
「うわー、なつかしい!」
目の前には色々な料理が並んでいた。
「たくさん材料かったからね。肉じゃがとかきんぴらごぼうなんかは冷蔵庫にも入れておいたから、好きに食べてね」
「うん!わかった!!」
野菜サラダにたまごスープ。肉じゃがにきんぴらごぼうにきゅうりの浅漬。
お肉とキャベツの炒め物に唐揚げまである。
………ちょっと………というか、かなり作りすぎだ。
そんなことをこっそり思いながら、食卓につく。
手を合わせてお母さんの方をみると、同じように手を合わせているお母さんと目があった。
「「いただきます!」」
声を揃った。
冷蔵庫がいっぱいになっていることなんて。そうそうないものだから、お母さんが料理を作ってくれるときも簡単なものだったり、少ない材料でできるものばかりだった。
「○○があればできる」みたいなシリーズにはよくお世話になっている。
でも、どからこそ、1からお母さんが作ってくれる料理は久しぶりだった。
きっと、冷蔵庫がいっぱいになっているからこその今だ。
私は、滅多にないある意味豪華なこの食事をめいいっぱい楽しむことにした。
食べ終えて思ったことは1つ。
やっぱりお母さんの手料理が一番大好きだ、ということ。
私はお母さんに愛されている。
私もたった1人の家族であるお母さんが大好きだ。
その日、久しぶりにゲームをした。
食後のスキンシップだ。
トランプを片手に一喜一憂した。
とても楽しかったけれど、私があくびをすると、お母さんは「そろそろお風呂にはいって寝ようかしら」と言い出した。
その言葉に、今朝のやり取りを思い出す。
「そうだね。あ、食器は私が片付けておくね」
キッチンの方に目を向けて言うと、お母さんは「あら、寝る前にやるからいいわよ」と笑った。
「いいよ、洗い物っていってもほとんどお皿しか残ってないでしょ?」
そう、お母さんは料理をしながら、使わなくなったものはすぐに洗って片付けてしまうから、夕飯直後の洗い物と言ってもそんなに多くないのだ。
「……そうね。ありがとう」
素直に頼んでくれたお母さんに私は笑顔で声をかける。
「うん。お風呂いってらっしゃい」
「いってきます。それと……おやすみなさい」
お風呂に向かいながら手を振るお母さんに、私も小さく手を振り返した。
「うん、おやすみなさい」
いただきます 如月李緒 @empty_moon556
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