結言(あとがき)~福音書~🍀

『あなたは今、幸せですか? ——あたしはとても幸せです……陽光町に帰ったあと、愛佳ちゃんが美味しい手料理を振舞ってくれた。あたしより少し年下なのに、凄いなぁって思った。あたしも作れるようになりたいな。


ホッブズの体の傷も、順調に回復してるみたい。ヴァルカンの話によると、あの時あたしが倒れた後、ホッブズもあたしのこと心配してくれたんだって。敵だと思ってたけど、意外といいやつじゃん。


瑠璃色のローブの連中は、神様の配慮でこの世界のどこかで暮らしいてるらしい。今思えば、あいつらも被害者みたいなものだからね。あたしも観測者じゃ無かったら、あの連中と同じだったのかも……』


パレットは木製の椅子に腰掛けて、机の上に置いた黒い手帳の空白のページに、文字をつづっていた。


「パレットさん、いませんかー?」


「パレットー遊ぼうぜー!」


教会に、2人の男の子が入ってきた。


「あーもう、今手が離せないの! 後にして!」


パレットはカリカリしながら次の文章を考えていた。元気な方の男の子が、黒い手帳をヒョイと拾い上げる。


「なになに……うわっ……難しい漢字」


「勝手にあたしの手帳読むな!」


パレットは手帳を取り返し、再び机の上に置いた。


「あはは……この表紙、なんて読むんですか?」


おとなしい少年はパレットに尋ねた。


手帳の表紙には、白い文字で黙示録と書かれていた。しかし、そこには斜線が引かれていた。その下に、別の感じが書かれている。


「もくしろく、って読むのよ。今は題名を変えてみたの」


「そんなことより、ピエロの人がハピチケくれたんだよ! それも金のハピチケ!パレット、プール行こうぜ、プール!」


元気な方の男の子は、パレットの右腕を掴む。


「僕は遊園地がいいです! パレットさん、遊園地にしませんか?」


おとなしい少年は、パレットの左腕を掴む。その眼はいつになくキラキラと輝いていた。


「ちょっとお姉ちゃん! ゆうくんとたっくんをたぶらかさないでよね!」


そこに、兎のヌイグルミを抱いた少女が乱入してきた。顔は真っ赤になっていて。今にも泣き出す寸前である。


パレットはバンと机を叩いて立ち上がった。


「ええい、か・か・せ・ろ~~~!!」


パレットは2人の男の子の腕を振りほどき、叫んだ。

教会の前を通りかかった陽光町の人々は、クスクスと笑っていた。


机の上には、四つ葉のクローバーが挟まれた黒い手帳と、一丁の拳銃が置かれていた。その手帳の表紙は、『福音書』と書き直されていた。


~The story is not over yet~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る