第28話 赤く染まる視界

【空中戦艦デストロイヤー艦内第2フロア】


青い髪の青年、ヴァルカンは、ゾロゾロと駆けつけてくる瑠璃色のローブを羽織った増援部隊に足止めを強いられていた。


「全ては瑠璃様のために!!」


「瑠璃様のために!!」


青い髪の青年は一刻も早くパレットのいるフロアへと辿り着きたいのだが、1人で数十名いる乗組員全てを、それも能力がマチマチな存在を相手にするのは分が悪すぎる。青い髪の青年は、声を荒げて敵の1人に問いかけた。


「汝ら、何故瑠璃という者に忠誠を遣う!?」


「何故かだと? そんなもの決まっている。我々の世界を捨てた神に、復讐するんだ」


瑠璃色のフードの下から、うっすらと笑みが見える。


「瑠璃様は我々に新たな世界をくれることを約束してくださった!この世界を抹消し、瑠璃様が新世界の神となるのだ!」


「愚かな……」


「なに?」


青い髪の青年は、彼らの境遇を知った上でそう発したのだ。瑠璃色のローブを着た人物たちの世界もまた、黒き龍によって滅ぼされたのであろう。その上で……


「己の欲望のためにこの世界を抹消させるなど、愚かにも程があると言ったのだ! そんな精神でいたから、汝らの世界は滅ぼされたのではないのか!?」


「黙れっ!!」


瑠璃色のローブの男は、魔法陣も詠唱もなく、手から直接雷撃を放った。


「なんだと……!? 先ほどの者とは別の世界の能力者か!? くっ……A-Z《エーゼット》!」


青い髪の青年は、咄嗟に自身の持つ秘宝獣であるザリガニに指示を与えるが、間に合わない。雷撃が青髪の青年へと直撃しかけたその時、


——ドォォォォン


艦内に小型のジェット機が突っ込んできた。辺りは一面煙で包まれている。


「……ナイスタイミングみたいだな、ヒナコ」


「間一髪ッてところねッ」


煙が晴れると、青い髪の青年は、A-Zのものとは別の防壁によって守られていた。


視界不良な中、何者かの声が聞こえた。青髪の青年が振り向くと、そこには黒髪の少年、ポニーテールの少女、長い髪のジト目の少女とピエロがいた。


「……っ! 新手の敵か!?」


青い髪の青年は身構えた。しかし、その中に1人、見覚えのある人物がいた。


「『白銀の狩人』……? 何故なにゆえけいがここに!?」


「それはこっちの台詞。それとその通り名可愛くないんだけど……」


黒髪のポニーテールの少女は、頬を膨らませてムッとしていた。秘宝獣バトルの全国大会ベスト8という称号を持つ者同士、彼らは面識があるようだ。


「何者だ、貴様ら!!」


衝突の轟音を聞きつけ、戦闘員ではないと思われる瑠璃色のローブの連中も集まってきた。


解放リベレイト、ダムドレオなのです」


「グルゥァァァァ!!」


ジト目の少女の持つ宝箱から、黒いひょうが飛び出して、瑠璃色のローブの1人を力強く押し倒した。


「うわぁ、く、食われる……」


「ダムドレオと遊んであげて欲しいのです」


ジト目の少女はニッコリと微笑む。


「いや、冗談じゃなくやばいでしょ、あんたの秘宝獣……」


ポニーテールの少女は気の毒そうに黒豹と瑠璃色のローブの男が遊んでいる(?)様子を眺めていた。そして青髪の青年へと声をかける。


「ヴァルカン、あんたは先に進んで! 事情は分からないけど、足止めされてたんでしょ?」


「しかし……」


「大丈夫、私たちもやわじゃないから!!」


ポニーテールの少女は、小さくVピースを見せた。青い髪の青年は、頷いてフロアの最奥へ走り出した。


「かたじけない!!」


「逃がすかっ!」


瑠璃色のローブの男達が追いかける。


しかし、謎のピエロによって回り込まれてしまった。


「エロエロエロ♪ 追わせないよ♪」


「何者だ、貴様……ぐはっ……」


ピエロはピコピコハンマーで瑠璃色のローブの男をバタバタと気絶させていく。


青い髪の青年は、パレットのいるフロアへと急いだ。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


パレットはスマートフォン型ハンドガンを神父へと突きつけた。神父の持っていた拳銃は、先ほどの一撃によって床へと転がっていた。


「あたしの勝ちよ、お父さん……」


パレットは勝利を確信していた。その時、


——ドォォォォン


小型のジェット機が突撃し、戦艦が大きく揺れた。


(な、何……? 何が起きたの……!?)


パレットの一瞬の動揺を、神父は見逃さなかった。パレットの外したホルダーから飛び出した、白銀色の秘宝を神父は奪い取った。


「彩よ……お前はワシがこの世界のことを何も知らないと言ったな? だが、ワシとてお前が外にいる間、何もしていなかったわけではない」


(しまった……秘宝が……でも、あれは……)


その秘宝を開けるには、専用の『鍵』が必要である。パレットもその鍵は持っていないのだが……しかし、驚くことに神父は瑠璃色のローブから白銀色の鍵を取り出した。


(白銀色の鍵!?)


「旧世紀の秘宝に、何故鍵が必要か知っているか? それは、人間に使われる道具・・だからだ。人の手には負えない、巨大な力を国同士の戦争の兵器として利用していたようだ」


[戦争時代の人々に兵器として使われたソレらには、強い怨念が宿っている。決して開けてはならない秘宝。人々はその秘宝をこう呼んだ——]


開放かいほう、『禁忌きんきの秘宝』!!」


「……!!」


宝箱が開くと同時に、ドス黒い瘴気しょうきのようなものが、宝箱から飛び出した。瘴気は次第に黒い鎧の剣士へと姿を変える。


禁忌きんきの秘宝——ベルセルク】


「うおぉぉぉぉっっ!!」


黒い鎧の剣士は、両手に一本づつ持つ大剣を交叉させて天へと掲げる。


「人型の秘宝獣!?」


「憎い……皇帝が憎い……」


黒い鎧の剣士の眼が赤く光る。一つ数十キロもありそうな大剣を軽々と振り回し、虚空を切り裂く。我を忘れた狂人のように。


「何なのこいつ……何を言っているの?」


「憎い!……憎い!憎い!」


話が噛み合わない。パレットの見ている世界と、黒い鎧の剣士が見ている世界とは別物のようにすら思える。


ふいに、黒い鎧の剣士の視界がパレットを捉えた。先程まで無心で暴れ回っていた黒い鎧の剣士は、ただじっとパレットを見つめている。


「皇帝……! お前が……憎い!!」


「えっ……」


黒い剣士の大剣が、突如としてパレットへと振り降ろされた。パレットは突然の出来事に、何も反応できなかった。


「……!! 彩、避けろ!!」


そう大声で叫んだのは、神父だ。


——ドスッ…………


視界が赤く染まった……


パレットの視界には……


大剣によって身体を切り裂かれた・・・・・・・・・青い髪の青年がいた……

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