第16話 第二の封印と観測者

【報告書No.14】

 ミリタリ屋……商店街の路地裏に佇む、謎のお店。どうしてこの世界にこんなお店があるのか理由は分からないが、店内の光景はとても興味深いものであった。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


【その日の夜】


「いらっしゃーい」


 ミリタリ屋に、青い髪、青い瞳の青年が訪れた。


「なんだ、ヴァルカンか……」


「なんだとはなんだ。……それにしても、まだこんな悪趣味な店を続けていたのか」


「悪趣味とは聞き捨てならないね。それに……歴史から消えつつある・・・・・・・・・ものは後世に残さなきゃならないんだ。どんなものであってもね」


 店主の表情は、少しだけ影を落としていた。


「ジャンヌ、独断で判断するな。何かあったらことだぞ」


「はいはい」


 2人がそんな会話をしていると、店の扉が開いた。パレットは我がもの顔で入ってくる。


「ジャンヌ~、例のものは完成した? ……って、ヴァルカン!まさかこんなところで会うとはね」


「パレット!? なぜ貴卿きけいがここに……まさかジャンヌ……」


 青い髪の青年は、ジロりと赤いバンダナの女性を睨む。


「ちがうちがう、さすがに売れなくても押し売りとかはしてないって!」


「……本当か?」


「女神様に誓っても!」


「……わかった」


「ほっ……」


 パレットは目の前で会話している2人の顔をじっと見つめる。


「もしかして、2人とも知り合い?」


「ああ、同胞なのだ……」


「うんうん、そんなとこ……」


「ふーん……」


(随分と仲良さげね、まぁいいけど)


「そうだヴァルカン、あんたに見せたいものがあるんだけど……」


「見せたいもの?」


 パレットはホルダーをゴソゴソとあさり、白銀に輝く秘宝を取り出した。


「ジャジャーン♪ Sランクの秘宝(?)よ! どう? 羨ましい?」


「……!!」


 それを見た瞬間、青い髪の青年はゾッと顔から血の気が引いていくようだった。


「……貴卿、その秘宝をどこで手に入れた……?」


「教えてあげてもいいけど、どうしよっかなー」


 パレットが勿体ぶっていると、青い髪の青年はガシッとパレットの両肩を掴んだ。


「どこで手に入れたと聞いている!!」


「ええっ……!?」


(ちょ……必死すぎない!?)


「わかったわかった、今から連れて行ってあげるから、とりあえず……」


 青い髪の青年はハッと我にかえった。


「顔、近いから……」


「しっ失敬……」


 2人は後ろを向いて慌てて距離を取った。


「ジャンヌ、行ってくるわね」


「あー待った待った。ほれ、忘れ物だよ」


 赤いバンダナの女性は、パレットに一丁の拳銃を手渡した。外見は変わりないようだが……


「ありがと、ジャンヌ」


「いいってことよ!」


 女同士の、固い友情が垣間見られた。


「さぁ、行くわよヴァルカン! あたしに付いてきなさい!」


「あ、ああ……」


「ヒュー、青春だね~」


 パレットは青髪の青年の腕を掴んで、元気に外へと飛び出した。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


【私立陽光学園】


「ここよ、この銅像の下が入口」


 ——ゴゴゴゴゴ


 パレットは銅像を動かし、地下迷宮へと入っていった。青い髪の青年も後に続く。


「まさかこんなところに地下への階段があるとはな……」


「驚くのはまだ早いわよ!」


 パレットは足早に先へ先へと進んでいく。白い光が足元を照らし、その奥へと進むと炎の壁が立ちはだかった。


「炎の壁……」


「大丈夫よ、幻みたいなものだから」


「否、これは浄化の炎だ。」


「???」


 聞きなれない用語に、パレットは目を丸くした。


「なるほど、悪しき心の者には入れない仕掛けとなっているのか……」


「はいはい、さっさと進むわよ」


「お、おい……」


 パレットはグイグイと青い髪の青年の背中を押して、炎の壁の中へ突き飛ばした。パレットも平然と炎の壁を抜ける。


 さらに奥へと進むと、重厚な扉の前へと辿り着いた。

 パレットは物怖じせずその扉を開く。扉の先は、以前の戦いの爪痕をそのまま残した形となっていた。


「あたしの推測が確かなら、このにさらに迷宮が続いているわ。」


 パレットは大きく割れた地面を指さす。RMG《レアメタルゴーレム》が落ちていった穴だ。なぜさらに地下があるかと言うと、一応パレットなりの根拠があった。


(黄金のエレベーターに乗った時、B2とB3のボタンがあった。この迷宮は確実にさらなる地下へと続いている)


 しかし、地下へ降りようにも穴は奈落のようにどこまでも広がっている。飛び込むのは自殺行為だ。


「この穴の下に行きたいんだけど、ヴァルカン、あんたの秘宝で何とかならない?」


「……わかった。解放リベレイト、ヒコイトマキエイ!!」


 青い髪の青年は銀色の宝箱を取り出し、上蓋を弾いた。すると、宝箱から飛び出した幅8mほどのマンタが、空中を海のように浮いていた。2人はそのマンタの背に乗った。


「よし、さっすがあたし!」


「……マキエイ、この穴の下まで頼む」


「キュイィィィン♪」


 青い髪の青年は、笑顔でガッツポーズをしているパレットに何か言いたげだったが、おそらくあえて何も言わなかった。


[地下迷宮の奈落の底、第2の封印へ続く道]


「……分からぬのだが、何故、貴卿きけいがジャンヌの店に?」


「えっと……観測者の仕事してたら、たまたま見つけたのよね……って」


 パレットはうっかり『観測者かんそくしゃ』という事を口外してしまった。しかし、まぁそこまで気にしないかと楽観的な気持ちでいると、青い髪の青年の言葉に耳を疑った。


「観測者か……実は某も観測者・・・・・なのだ」


「そうそう観測者……って、ええっ!?」


 パレットはマンタの背の上でビックリして立ち上がる。すると落ちそうになって慌ててしゃがみ込んだ。


それがしだけではない、この世界に住んでいる者、全てがこの世界の観測者だ」


「!!?」


 (衝撃の真実!! まさかこの世界の人全てが異世界から!?)


「人は皆、自分の生きている世界以外を見ることはできない。しかし逆に考えてみるとどうだ?全ての人間は、今自分が生きているこの世界を観測していると言えるのではないだろうか。」


「……当たり前の事だけど、そう言われるとそうかもしれないわね……」


 もしかしたら、瑠璃様が伝えたかったのは、そう言うことだったのかもしれない。パレットはどうして自分が異なる世界からこの世界に来たのか、理由が気になった。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「着いたぞ、ここが最下層だ」


 話しているうちに、奈落の底まで辿り着いた。2人はマンタから降りる。


「よくやった、マキエイ。さて……」


 ヴァルカンはマンタを秘宝の中へと戻した。目の前に広がるのは、あおのようなみどりのような、神秘的な輝きを放つ地底湖だった。


「よし、ここから先はあたしに任せて!」


 パレットは待ってましたとばかりに服とスカートを脱ぎ捨て、地底湖へとダイブした。どうやら見せ場が欲しくてウズウズしていたようだ。


「な……!? お、おい……」


「ブクブクブク……」(50mくらいなら軽く息を止めてられるわ。あたしの肺活量を舐めないでよね!!)


さすがは元A国の特殊工作員だ。


「…………っ!!」


 パレットの足に何かの触手が絡みついた。振り向くと、巨大な白いイカがが足を伸ばしてきていた。


(しまっ……)


 パレットは水中の中で身動きを封じられる。生身の人間であるパレットの呼吸は既に限界だった……その時、シャボン玉の様なもので包まれた青い髪の青年が、パレットの元へと向かっいるのが見えた。


(ヴァルカン!!)


「A-Z、触手を挟め!」


 赤いザリガニが、巨大なイカの触手を挟んだ。イカは痛みで暴れながら、地底湖のどこかへ消えていってしまった。


「空気泡だ。早く中へ」


「ぷはぁ……ぜぇ……ぜぇ……ありがと……死ぬかと思ったわ……」


「全くだ。無茶だけはしてくれるな」


「ふぁい……」


 パレットは思った。この世界では、元A国の特殊工作員だからやれそう!みたいな無駄なプライドは捨てよう、と。


 地底湖を抜けると、重厚な扉が目の前に現れた。

 RMG《レアメタルゴーレム》の時と同じだ。


「ヴァルカン、準備はいい?」


「ああ……」


 パレットは扉の前で準備を整え、息も整えた。

 そして、ゆっくりと扉を開けた……


「よし、突撃よ!!」

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