第15話 新たなる力

【報告書No.13】

 謎の秘宝……私立陽光学園の銅像の下にある地下迷宮の最深部で見つけた白銀色の秘宝。フェンネルと同じ色であることから推定Sランク。ただし、今まで見た秘宝とは、鍵穴の形が少し違っている。


【翌日】


 あの後、教会に帰ってぐっすり眠ったパレットは、今朝も早くから陽光公園へと向かった。『観測者』としての役割もまだまだ継続中である。


「ふふん♪ なんだか強そうな秘宝も手に入ったことだし、あいつ・・・に自慢しちゃおう」


 ……と言いたいところだが、お詫びと訂正。パレットは『この世界の観測』ではなく、ただ自慢しにきただけだったようだ。


 パレットは商店街を抜け、陽光公園の『のどかな公園エリア』に入ると、キョロキョロと当たりを見渡し始めた。


(青い髪だから一瞬で見つけられるはずなのに……今日はいないのかしら?)


「ふぁぅ~すぅすぅ……」


 静かな朝の公園に、なんだかのんびりとした寝息が聞こえてくる。パレットは不思議に思いあたりを散策すると、滑り台の間に中学生の女の子が挟まっていた。


「むにゃむにゃ……まだ眠いのですぅ……」


「えっと……」


 パレットは疑問に思った。どうしてこんな所で寝ているのだろうか。若くしてホームレスなのかとも思ったが、その女の子は制服を来ていた。パレットはその制服に見覚えがあった。


(ピーちゃんの下っぱの制服に似てる)


 以前、その男は制服の姿のまま湖へと飛び込んだ。そのインパクトたるや相当なものであった。


「すぅすぅ……乃呑、ここの書類に不備があるのです……」


(書類って……いったいどんな夢を見てるのかしら……ったく、仕方ないわね)


 寝言からも日々の生活の疲れが垣間見られる。


「あんた、起きなさい。こんな所で寝てたら風邪ひくわよ」


「……? ふぅあ……おはようなのです。……? どちら様なのです?」


 滑り台に挟まったままの少女は、ねむけまなここすり、欠伸で開いた口を手で抑えながらゆっくりと体を起こした。


「あたしはパレットよ。さ、起きた起きた」


「ありがとうなのです……」


 パレットは少し強引に少女の手を掴んで滑り台から救出した。名乗るくせが付いてきてしまったあたり、正体を隠す『瑠璃色のローブ』を着ている意味もなく、『観測者』としても半人前になってしまった感さえある。


「っっっ~~~~!! 人を劣化したみたいに言うな!!」


「……? 誰と話しているのです?」


「何でも無いわ。ノープロブレムよ」


「そう、なのですか? では、ワタシは学校があるのです。さよならなのです」


 その少女が、ぼんやりとしながら公園から出ていこうとするのを、パレットは慌てて引き止めた。


「ちょっと待って……まだ朝の5時半よ……!? 1回家に帰ったほうが……」


「いいのです」


「帰るべきだって!」


「本当にいいのです。ワタシにとっては学校がマイホーム・・・・・・・・みたいなものですから」


 のんびりとした雰囲気の少女は、優しくパレットを諭して学校へ向かってしまった。 学校の机で寝るのが趣味なのだろうか。不思議な少女だった。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


【商店街】


 パレットは同じようなレポートの繰り返しになるのを避けるため、公園の観測を中断し、商店街を歩いていた。まだ朝の6時。お店の大半はシャッターで閉められていた。


(まさかあたしが見ず知らずの人のために何かをしてあげる・・・・・なんて……)


 パレットはこの世界に来てから1度も・・・誰かの役に立つようなことはしていなかった。大半が足を引っ張る行為か、愚痴だ。パレットの脳裏には、子供たちとボードゲームをした時の記憶が蘇った。


【「いいの! 要はたっぷり稼いでゴールすればいいんだから! 『ホームレスの人が路上で行き倒れている』助けない!」


「えー、せっかくタダで人乗せられるマスなのにー」


「助けてあげましょうよ?」


 3人の年下の少年少女から視線が注がれる。可哀想な人を見る目だ。


「そんな目であたしを見るなっ! あたしのいた世界ではね、他人になんて構ってられる余裕なんて……」】


(……そうだ、今のあたしは精神的な余裕があるんだ)


 パレットは昨日、ポニーテールの少女から、誰かを信じてもいいんだって話を頷きながら聴いていた。彼女の想いは、きっとパレットの心のどこかに入り込んだのだろう。


 パレットはいつもとは違うレポートのネタを求めて、商店街の大通りを外れ、裏路地を歩いていく。そこにポツンと、一軒のお店があった。看板には『ミリタリ屋』と書かれている。


「ミリタリ屋? なんのお店かしら?」


 パレットが首をかしげていると、丁度いいタイミングで目の前でガラガラとシャッターが開いた。


 パレットはお店の中へ入っていく。すると……


「えっ……どうなってんの……!?」


 パレットは言葉を失った。まるで世界が反転したようだったからだ。上下が逆さになったわけではない。今いる世界から、前いた世界へ戻ったような、そんな感覚だ。


「M1911……M231FPW……こっちにあるのはM26MASS!!」


 パレットはショーケースに顔をピッタリとくっつけて覗き込む。まるで絶滅危惧種の動物を珍しそうに観察する学者のように。だがショーケースに入っていたのは動物ではなく、だ。


 拳銃、機関銃、アサルトライフル、狙撃銃、散弾銃……この世界にないと思っていたはずのものが、ここにあった。パレットは眼をキラキラと輝かせながらショーケースを覗く。


「凄い凄い凄い! どれもカッコイイ~!!」


「嬢ちゃん、まさかコイツ・・・の魅力がわかるのかい?」


「当然よ~♪ このゴッツイフォルムがたまらない……ってあんた誰!?」


 パレットは思わず振り返った。するとそこには、金色のセミロングの髪に青い瞳、赤いバンダナを巻いた若い大人の女性が立っていた。


「あたいはジャンヌ。このミリタリ屋の店主をやってんだ。でも売れ行きがイマイチでさ……他の店と開店時間変えたり工夫もしてんだけどね……」


 金髪の赤いバンダナの女性は、腕を組んで考え込む


「にしてもあんた、ヤケに詳しいじゃないか。ウチは客足も少ないし、一度来た客の顔なら忘れないんだけどなぁ……」


「あたしはパレット。元特殊工作員よ」


「特殊……? あ~、自警団の人か!それなら納得だ!」


 金髪の赤いバンダナの女性は1人でウンウンと頷く。

 パレットはどうしても引っかかっていた事を聞いてみることにした。


「この世界……じゃなくて、この国の人って拳銃一つ持ち歩いてないわよね。自分の身に何かあった時、どうやって対処するの?」


 すると、金髪の赤いバンダナの女性は声を上げてケラケラと笑い出した。


「拳銃持ち歩くって、BB弾でってことかい!? 面白いね、そりゃ!」


「はぁ……」


 話がどうも見えてこない。パレットはBB弾という言葉に違和感を覚えた。


「BB弾ってなに? 実弾よ、実弾」


「実弾ってなにさ?」


 ——シーン…………


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 パレットは困惑した。まさかとは思うが、いやそのまさかかもしれない。現に物理法則が色々と違っているのを目の当たりにしてきた。


 パレットはレッグホルスターからベレッタ92を取り出し、銃に弾丸を補充する様子を、店主に見せた。当然実弾だ。店主は、ほえ~っと驚きの声を漏らしていた。


 店主もショーケースを開けて、ベレッタ92を取り出した。外見は全く同じなのだが、構造は大きく異なっていた。店主は慣れた手つきで拳銃にBB弾を補充する。パレットは、へぇ~と食い入れようにその様子を見つめていた。


「お嬢ちゃん!!」


「うわっ、なによ急に……」


 突然大きな声を出した女性店主に、パレットはビクッと反応した。


「頼む!あんたの拳銃、解体させてくれ!」


「ええっ!?」


 女性店主は、地面に頭を付けて懇願する。パレットは戸惑った。


 パレットが前の世界から持ってきた拳銃は、おそらくこのベレッタ92のみ。もし何かあったらと思うと、不安な気持ちがよぎった。


 しかし、R・M・G《レア・メタル・ゴーレム》に全く通用しなかったのも事実だ。パレットは意を決した。


「いいわ、その代わり二つ条件がある」


「条件……?」


 パレットは不利なトレードはしない。


「一つ目、この店にある武器、一つタダで頂戴。」


「ああ、一つくらいなら構わないけど……」


「それから二つ目、解体してもいいけどその代わり……」


 パレットはドヤ顔を決めて言い放った。


「あたしのベレッタ92を、この世界でも通用するような武器に改造・・しなさい!!」

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