第14話 戦いの果てに

【報告書No.12】

 モードチェンジ……Sランク(白銀色)以上の秘宝になると解放される、秘宝獣の真の能力。だが、商店街の福引の1等がAランク(金色)の秘宝だったことから察するに、おそらく相当入手困難なものであると推測できる。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「フェンネル、お疲れ様!」


「グルォォン!!」


「おーよしよし」


 黒髪のポニーテールの少女は、白い狼とたわむれていた。はたから見ると襲われているようにしか見えないが、彼らなりの愛情表現なのだろう。それにしても……


「お宝、手に入らなかったな……」


 パレットはガックリと肩を落としていた。

 RMG《レア・メタル・ゴーレム》が現れた際、部屋の中央に大きな亀裂が入り、台座ごと地面の底へと落下していってしまった。台座の上に置かれていた秘宝は、いつの間にか・・・・・・どこかへ行ってしまっていた。


「なんだかがっかり、帰ろう……」


「待ってッ、奥にもう一つ扉があるわッ」


「扉……?」


 青い鳥の甲高い声で、パレットの意識も前へと向いた。確かに対岸に大きな金色の扉があるが、なにしろ地面そのものがゴッソリと抜け落ちてしまっており、渡る手段がない。


(そうだ!いいこと考えた!)


 しかし、パレットは何かいい事でも閃いたような顔をしていた。


「ピーちゃん、お願いしたいことがあるんだけど」


 パレットはゴソゴソとホルダーの中身をあさる。

 その中には鉄のワイヤーやロープ、マルチツールに手榴弾など、必要最低限の軍事道具が詰め込まれている。そして1本のロープを取り出した。


「このロープを咥えて上昇して、対岸に向かって壁スレスレを飛行して。あたしは壁を蹴りながら移動するわ」


「アタシは構わないけど、アンタはそれでいいのッ?」


「あたしも元軍人よ。鍛えられた足腰には自信があるの」


 パレットは自信満々な顔で青い鳥を見つめる。青い鳥も答えるように頷く。


「……わかったッ、絶対に振り落とされないでねッ」


 青い鳥はロープを咥え、天井付近まで上昇した。パレットはロープを何重にも手首に巻き付け、力強く握った。


「準備OKよ!」


「じゃあいくわよッ!」


「「トォリャァァァァッ」」


 ——ダダダダダダッ


 パレットは側壁を蹴りながら走る。少しでも足を止めれば、即奈落へと真っ逆さまだ。パレットは走った。走り続けた。そして……


(ハァ……ハァ……なんとか辿り着けた……)


 パレットは対岸の巨大な金色の扉の前でグッタリと横たわった。まさに九死に一生を得たような思いだ。


(でもあたしだけ渡っちゃったな……あとの2人は……)


「よっ……と。ありがとう、セルフィ」


 藍黒色のツバメの足に捕まって、ポニーテールの少女はあっさりと辿り着いた。


(はぁ……!?)


「黒城、アタシに捕まってッ!」


「ああ……」


 青い鳥の足に捕まって、下っぱの少年も難なく辿り着いた。


(はぁ……!!?)


 その時パレットは思った。


 自分の苦労はいったいなんだったのか……と。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


[B1F最奥部—黄金の間—]


「ワォ!ゴージャス!!」


「へー、金ピカだね!!」


 重厚な扉を開けると、天井から床まで全てが黄金の空間が広がっていた。その部屋の真ん中にはまたまた怪しいものがドーンと置かれていた。


「これって棺桶……よね? 表面に何か書いてあるけど……」


 黒い棺桶には、何やら意味不明の文字が刻まれていた。パレットも不思議そうな表情をしている。


「……これは旧世紀文字ねッ」


 それが何なのか知っているかのような口を挟んだのは、なんと青い鳥だった。


「ピーちゃん、読めるの?」


「そりゃあねッ……『勇猛なる剣士と囚われの姫ここに眠る』って書いてあるわッ」


「ふーん……たしかにソレっぽいわね」


「あーッ、信じてないでしョ!?」


 パレットが軽く流すと、青い鳥はピーピー騒ぎ出した。パレットは躊躇ちゅうちょなく棺桶を開ける。すると、色とりどりの綺麗な花々に囲まれた、白いドレスを着た美しい女性が静かに眼を閉じていた。


(うわっ……綺麗な人……)


 棺桶に入った白いドレスの女性が祈りを捧げるような手の中には、白銀に輝く小さな宝箱が収まっていた。


(もしかしてこれが例のお宝……?)


 パレットは女性の指をほどき、宝箱を手に入れた。そしてそのまま棺桶を閉じる。


「うーん、それって墓荒らしじゃない?」


 聞いたのは黒髪のポニーテールの少女だ。

 しかしパレットに普通の道徳観念は通用しない。棺桶から奪った宝箱を自分のホルダーの中へと入れた。


「いいの。あたしが見つけたんだからあたしのものよ。文句ある?」


「めちゃくちゃな理屈ねッ……」


 それぞれ思うところはあれど、かろうじてその行為を留めるには至らなかった。


「さぁ、帰りましょ♪……あっ……」


 目的を達成したパレットは、いつになく上機嫌であった。しかし、帰り道のことを思うと、ここへ辿り着いたときの惨めさも同時に思い出された。


 また自分1人だけ死ぬ思いをして帰るのは嫌だ……パレットはきっとそう思っていることだろう。すると、青い鳥の下っぱが何かを発見した。


「……出口だ」


「出口?」


 パレットが黒髪の少年の指さす方を見ると、そこにあっていいのかどうか分からないものを発見した。


「エレベーター!?」


 黄金のエレベーターだ。


「ポチっと」


 ——チーン


 ポニーテールの少女が上矢印のボタンを押すと、間もなくしてエレベーターが開いた。それにしても……


((((本当にこんな帰り方でいいんだろうか……))))


 エレベーターに乗りながら、3人と1羽は同じ気持ちになっていた。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 エレベーターの中、パレットはポニーテールの少女から送られてくる視線が気になって声をかけた。


「あたしの顔に何かついてる……?」


「いやさ、そうじゃないんだけど……」


 何か言いたげなのは伝わってくるが、ポニーテールの少女は慌てて視線を外す。今さら言うまでもないが、黒髪の少年は置物と化していた。


「残念だけど、この秘宝ならあげないわよ」


「そうでも無くて……」


 ポニーテールの少女は、パシンと両手で自分の頬を叩いて迷いを断ち切った。


「愛佳の家から出ていった時のあなたの顔、昔の私によく似てたんだ。だから他人事とは思えなくて、跡を付けてきちゃった」


 ポニーテールの少女は、テヘっと舌を出しながら笑っていた。


「私さ、学校では誰とでも上手くやれるクラスのリーダーを演じてきたの。でも本当は心の中では誰一人信用してなかった……」


「…………」


「けど、最近ようやくわかった。私が誰かを信じなくちゃ、相手も私を信じてくれないんだって。それを、あなたに伝えにきた。」


 黒髪のポニーテールの少女は照れくさそうに、パレットに優しく微笑んだ。パレットは頷きながらポニーテールの少女の話を聞いていた。


「あっ、地上だ!」


 ——チーン


(えっ……)


 エレベーターの扉が開くと、そこは思いがけない場所だった。パレットが2回ほど訪れたことのある場所だ。


(上に見える赤い鳥居、陽光公園の裏の神社だ。 ってことはここはあの石段から道を外れた林の中!?)


 ——カチャ カチャ


 こちら側から苔の生えたエレベーターのボタンを押しても、一向に反応しない。どうやら一方通行のようだ。


(うーん……なんか釈然としないわね……)


「じゃあアタシたち帰るわッ。いくわよ黒城ッ」


「……またな」


 パレットは手を振って黒髪の少年と青い鳥を見送った。


「じゃあ私も帰るね! えっと……」


「パレットよ。あなたは?」


「私はばな 乃呑のの! また縁があったらよろしく♪」


 ポニーテールの少女も手を振りながら石段を降りていった。


「ふぅ……今日はすっごく疲れたわ……けど……」


 パレットは不思議と嫌な気分ではなさそうだった。何度も死にかけたが、それに見合うだけの達成感を味わったのだろう。


(また冒険してみるのも悪くないかな)


 白銀に輝く秘宝を見てニヤニヤしながら、パレットも縁日エリアを後にした。

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