第13話 機動せし絶望 [R・M・G]
【報告書No.11】
ピーちゃん(自称)……虹色の宝箱に入った青い鳥。下っぱから何故かヒナコと呼ばれている。この世界で見た中でも、人間以外で人の言葉を喋ることができる初めての生き物。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
(……? 痛くない……?)
パレットの意識は宙に浮いていた。
「あーあ、また
(そっか……あたし、死んじゃったんだ……)
「満更でもないくせにッ」
「なわけ、非干渉こそが俺の美学」
パレットは目を閉じたまま横たわる。
まるで他人事のような感想しか抱かなかった。
「黒城、早くッ! こいつはアタシが引きつけるッ!」
「ああ……おい、起きろ。起きろって」
(うるさいわね……いったいなん……)
パレットはハッと目を覚ました。周りの地面はクレーターのように凹んでいるが、パレットの付近だけ何故か無事だった。
「どういうこと……!? あたし死んだはずじゃ……」
パレットは上半身を起こし、自分の身体を確認する。身体は全くと言っていいほど無傷だ。
「
「黒城の冗談をもとに、アタシの高速治癒能力を亜空間に応用した技よッ。でも続けて張れるほどデキタ技じゃないから、次からは避けなさいよねッ」
パレットは改めて実感した。この世界にはこの世界の物理法則があり、皆それに従って生きているのだと。油断すれば、本当に死ぬ。
「そう、礼を言うわ。それにしても、あの化け物はいったい何?」
パレットはヨロヨロと起き上がりながら、見上げる。
青い鳥は巨大な鋼鉄の石像の攻撃をかわしながら答える。
「おそらく、
(鋼帝国……たしかこの世界の、この国の名前だったわね。平和な国だと思ってたけど、裏では何が起きているの!?)
「ヒナコ、かわして連続火炎弾だ!」
黒髪の少年がビシッと指をさすが、青い鳥は攻撃をしようとしない。
「無駄よッ。さっき金髪の子が爆発させたけど、無傷だったでしョ? そういう素材で出来てるのッ。普通の金属では得られない超耐熱・超耐食・超硬度の全てを併せ持った超合金……言うなれば……『鋼帝産レアメタル』よッ……」
(そんな化け物、どうやって倒せばいいの……)
「それだけじゃないわッ。あのレアメタルの鎧は『ゴーレム』の体をベースにしているッ。本来ゴーレムの弱点である爆風や、水による腐食を補ってるッ。名付けるならッ……」
[Sランク秘宝—— R・M・G ——]
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「レア・メタル・ゴーレム……」
パレットはポツリと呟いた。
反射神経、判断能力、周到な作戦……パレットはあらゆる面で優れた特殊工作員として周りから評価されてきた。でもトップにはなれなかった。どれだけ敵を倒しても、恩恵を貪るのは上にいる極少数の人間だけだった。
(RMG、こいつは確かに化け物だ……でも、あたしが生きてきた世界の
パレットはフッと笑った。
(ただの無機物の塊。それがこいつの最大の
「黒城ッ……アタシもう限界ッ……」
かろうじてRMGの攻撃をかわしていた青い鳥は、ふらふらと低空飛行をしていた。
「……わかった。少し休め、ヒナコ」
黒髪の少年が虹色の宝箱を開けると、青い鳥は白い球体のような姿となり宝箱へと吸い込まれていった。
「黒城!!」
パレットが叫んだ。
「機動力のある秘宝獣とか持ってない!?」
「あるにはあるが……俺はこいつを開けたくない」
「はぁ!?」
黒髪の少年はポケットからもう一つの宝箱を取り出した。
そしてそれをパレットに放り投げた。
「お前が開けてくれ!!」
パレットは飛んできた銅色の宝箱をかろうじてキャッチする。
「ちょっ……どうやって開けるのよ!?」
「鍵穴に親指の爪突っ込んで上に弾け!」
「こ、こう……!?」
——ピン
宝箱が開いた。すると中から点のようなつぶらな眼をした白い猫のような動物が飛び出した。
「ぬー」
「鳴き声っ!?」
パレットは驚いて飛び跳ねたが、すぐに作戦を実行した。腰に備え付けていたホルダーから、グルグルに巻かれた長いワイヤーを取り出す。
「この鉄のワイヤーを咥えて、RMGに巻き付けて! そうすれば動きを封じられる! いい? 猫ちゃん」
「ぬー」
ねこのような動物はワイヤーを咥えて目にも留まらぬ速さでRMGの周りを縦横無尽に飛び回る。RMGは標準が定まらず、攻撃モーションが何度も中断される。
(よし、いける!!)
——バリバリバリ
——ブチン
しかし、RMGが動くと、鉄のワイヤーは糸のようにあっさりと千切れてしまった。
(そんな……鉄のワイヤーなのよ!?)
パレットは再び言葉を失った。
(勝てない……)
そう、RMGは、銃器しか持っていないパレットにとって、相性最悪の存在だったのだ。それはパレットが今まで培ってきた軍人としての人生を全て否定するかのような存在。
パレットの意識は、再び遠ざかっていきそうになっていた。
RMGの鉄拳が振り上げられる。
「……おい! 避けろ!!」
黒髪の少年の叫びもパレットの耳には聞こえなかった。
RMGの鉄拳が振り下ろされた。
その時——
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
——ババババババ
6つの光線がRMGの拳へと注がれ、RMGは攻撃モーションを中断する。
「えっ……」
「菜の花……なぜここに?」
パレットが入口の方に眼をやると、白い狼の背に乗った、見覚えのある黒髪のポニーテールの少女がいた。
「言っとくけど黒城、あんたのために来た訳じゃないから。私はその金髪の女の子を追いかけて来ただけ」
(確かふれあい広場でベスト8とか言われていた人だ。でもそれだけのはず。関係性が見当たらない……)
「いったいどうして……!?」
「だって、
黒髪のポニーテールの少女は、ニッと笑ってVピースをした。
(ええっ……そんな動機……!? それに、もう一つ気がかりなことがある)
「あたし、人の気配なら絶対気づく自信あったんだけど……うわっ!?」
いつの間にかパレットの足元に、先ほどの猫とは違う、黒色の猫が擦り寄っていた。
「……そうか、『ハイドキャット』の『猫足』だな」
ボソッと黒城。
「そういうこと♪」
2人は秘宝使いにしかわからないような会話をしていた。パレットは首を傾げる。
「私のミント……ハイドキャットの能力。音を立てずに忍び寄ることができる、奇襲用の能力だよ!」
菜の花と呼ばれた少女は、ミントと名付けた黒猫を拾い上げて頭を撫でる。
(あたしの気配を感じる能力を上回るなんて、この世界の物理法則は、本当に違うのね……)
「で、あの鋼鉄の石像はなんなの……?」
菜の花の視線が巨体の化け物へと向かう。
「まぁ、なんでもいいや」
ポニーテールの少女は疑問を抱いたが、すぐさま切り替えた。白銀に輝く宝箱を先ほどまで乗っていた狼に向ける。
「何をする気……? あの化け物、どんな攻撃も効かないのよ!?」
パレットの心配を他所に、ポニーテールの少女は余裕気な表情を見せていた。
「そうみたいだね。でも、私のフェンネルに限っては
白銀の宝箱から銀色の光が放出され、白い狼はそれを吸収している。狼の体は銀色のオーラのような輝きに包まれている。
「フェンネルB《バースト》M《モード》」
「バーストモード!?」
「……Sランクの宝箱には、生き物の真の能力を解放する機能が備わっている。それをモードチェンジと呼ぶんだ」
——フォンフォンフォン
先程までバラバラに放たれていた光子砲は、規則正しい六角形のような配置で上空で停滞した。その中央には、巨大な白いエネルギーが渦巻く。
しかし、RMGの鉄拳が光をチャージ中の狼へと迫る。
ポニーテールの少女は靴を操作しローラーシューズにして、勢いよく前に飛び出した。
「こっちよ、デカブツ!」
RMGの注意が、走り出したポニーテールの少女へと逸れる。少女は蛇行のような動きを描きながら、振り下ろされる拳をギリギリのところでかわしていく。その度に地面が大きく揺れる。
(すごい……)
パレットは理解した。この世界の戦いは、秘宝だけではない。人間も一緒になって戦うんだと。
(これが、この世界の戦い方……)
狼の方へ眼を移すと、既に大量の光エネルギーが充填され、眩い白い光をギラギラと放っている。しかしパレットには不安がよぎった。
「光子砲だとしても……ちゃんと効くの……? 相手は鋼鉄の巨人なのよ?」
これで効かなかったら、本当に万事休すだ。しかし、黒髪のポニーテールの少女は笑っていた。
「大丈夫、だってフェンネルのバーストモードは……」
——ズドォォォォン
極大の光のレーザーが、RMGの胴体を
「全ての
——ドシィィィィン
核を撃ち抜かれたRMGは大きく後ろへと倒れた。そしてそのまま、割れた地面の底へと吸い込まれていった。
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