第12話 第一の封印
【報告書No.10】
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
——闇
永遠に続くのではないかと思うほど長い階段を、パレットは一段づつ確認しながら降りていく。不安になってきたパレットの頭の中には、引き返す という選択肢が浮かんでいた。
——ピンッ
パレットはスピードローダーから予備の弾丸を1つ外し、階段の下へと投げ捨てる。
——カラン カラン カラン カラン……
(大丈夫、永遠なんかじゃない)
とても
(出口だ……)
[しかしそれは、出口ではなく入口であった。この地下迷宮の、『第一の封印』へと続く入口]
白い光の先からは、はっきりと足場も確認することができた。さきほど会った黒髪の少年と青い鳥は壁に寄りかかって休憩していた。
「やっと追いついた……あんた達、いったい何者なの?」
「ああ、俺は黒城 弾。こいつは相棒のヒ……「アタシはピーちゃんよッ。こいつは下っぱの黒城ッ」
言い終わる前に青い鳥が割り込んだ。
「ふーん。ピーちゃんと、下っぱの黒城ね。」
パレットは納得していた。
「待て、俺はしたっ「アンタも東雲先生にこの迷宮の調査を頼まれてきたのッ?」
(東雲先生?)
聞き覚えのない名前だったが、パレットは話を合わせることにした。
「そう! そうなのよ。あたしも東雲先生に頼まれたの!」
「じゃあアタシたち仲間ねッ! よろしくッ」
「よろしくー!」
パレットはなんとか怪しまれないよう、その場をやり過ごした。
「じゃあ先に進みましょうかッ!」
こうしてパレット、ピーちゃん、下っぱの3人はダンジョンの奥へと進んでいくことになった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
ダンジョンは、入口の狭さからは想像出来ないような空間が広がっていた。大理石でできているが、あきらかに人工的に作られた空間だ。
あたりにはお菓子のゴミや空き缶が放置されており、まるでつい最近まで誰かが訪れたような痕跡が見られる。
「ゴミはゴミ箱。まったく、マナーが悪いわねッ」
青い鳥が小言を呟いているのを見る限り、彼らは初めてここへ訪れたようだ。
(ずいぶん歩いたけど、いったいどこまで続いているのかしら……それにしても、妙に暑くなってきた)
パレットがそう思い始めた時だった。彼女らは、目の前の光景に絶句した。
(行き止まり!? いや……)
目の前が壁で塞がれていた。それもただの行き止まりではない。目の前の壁が
青白い炎の壁はゴォゴォと激しく燃えていた。きっとこの先に何かがある。頭では理解出来ていても、その先へ進む覚悟がパレットには無かった……
——トォリャァッッ!
その時、青い鳥が勢いよく炎の壁を突っ切った。
壁の向こうから、青い鳥の声が聞こえる。
「大丈夫、この炎、全然熱くないから! 壁も幻よ!」
(嘘……)
実際にその様子を見ていたとはいえ、パレットは信じられなかった。飛び込めば一瞬にして灰になってしまいそうな炎。その中に身を投じるなんて……
「黒城も早く来なさいよッ」
「……りょーかい」
だるそうな返事とともに、黒髪の少年は助走をつけて炎の壁へと飛び込んでいった。
パレットの視界には、目の前の炎の壁だけしかない。
「金髪のアンタも、早く来なさいよッ」
青い鳥の催促に、パレットは動揺していた。本当に大丈夫なのか? リスクのあることを極力避けてきた彼女にとって、それはとても大きな試練だった。だが……
(大丈夫、あたしは前の世界とは違う……)
パレットは震える足を叩く。拳を強く握る。そして、駆け出した。
「行っけぇぇっっ!!」
自分に言い聞かせるように、叫び声とともに炎の壁へと飛び込んだ。恐る恐る眼をあけると、後ろに炎の壁があった。
パレットはホッと息をついた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
炎の壁を抜けると、ひたすらに道が続いていた。ここまでは難なく来られた。
(いや、違う。あたしたちは
道中では、いくつもトラップが見られた。ギロチンや吹き矢、水で満たされた部屋、ガスの充満した部屋。だがいずれも、トラップが
(つまり、自分たち以外の誰かがここを訪れ、おそらくあの炎の壁で力尽きた……)
そしてパレットたちは、ダンジョンの最奥地へとたどり着いた。重厚な雰囲気の巨大な扉が、立ち去れと言わんばかりの威圧感を放つ。
パレットは準備を万全にした。弾を全て補充し、ホルダーケースに銃以外の軍事用具も詰め込んだ。
「突撃するわよ……」
パレットは扉を開いた。
大広間と言うべきか。 広々とした殺風景な部屋の真ん中に、小さな台座の上に宝箱がポツンと置かれていた。それはパレットがここに来て何度も目にしてきた、『秘宝』と同じ形状をしている。
(あれが宝……?)
パレットは重火器を抱えながら、あたりを警戒しつつ、ゆっくりと部屋の真ん中へと進んでいく。
——ガコン
(しまっ……)
石の床が凹んだ。その瞬間、部屋は赤い光で照らしこまれた。
ウーウーウー、侵入あり、侵入あり
サイレンの音が聞こえる。
ゴゴゴゴゴ……地面が激しく揺れる。そして地が割れる。
(地震……? いや……地割れ……!?)
割れた地面から這い出てきたのは、
(っっ!!デカイ!!)
人見知り以外の理由では人間に物怖じしないパレットも、その巨大な塊には恐怖を感じずにはいられなかった。
「っっ!! くたばれぇぇっっ!!」
——ババババババ……
パレットは冷静さを喪い、マシンガンを乱射する。しかし、
(今まで
パレットの顔が強ばった。パレットは慌てて手榴弾を取り出し、口でピンを外し、その化け物の顔面に向かって投げた……
——ドゴォォォン
「やった……」
パレットには確かな手応えがあった。
しかし……
「う……そ……」
鋼鉄の、岩石の化け物の顔には傷一つ付いていなかった。
パレットはその場にへたれ込む。
(逃げなきゃ……)
考えるより前に、巨大なソレの拳が、パレットへと向かった。早いなんてものでは無い。
パレットは避ける暇すらないまま……
地面はクレーターのように潰れた——
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