✝︎トリガーハッピー✝︎~禁忌の秘宝編~
第11話 この世界の法則?
【報告書No.9】
フェンネル……幻獣、フェンリルを思わせる風貌の狼、周囲に浮いているファンネルはフェンリルの意思と連動している。近距離戦、遠距離戦ともに隙のない強さを発揮するようである。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「だからこの世界は
パレットは、どうだ、あたしの完璧な推理は! みたいな表情をしていたが、神父は長いため息をついて一蹴した。
「パレットよ、お前の推論は穴だらけだ……」
「なっ!? なんでよっ!!」
パレットの髪がピンと跳ねる。
「まず一つ、国の名前が変わっているのは決して些細なことではない。たとえ自分の説と矛盾する場合であってもそれを排除してはならない」
「で、ですが……」
「二つ、過去の世界であるのならば『秘宝』の存在をどう説明するというのだ」
「それはえっと……オーパーツとか聞きますし……」
オーパーツというのは、その時代の技術ではありえないような未来的な技術によって作られた遺産のことだ。
「三つ、お前が持ってきたのは古ぼけた本であったな。なぜ最新版のものを確認しない。その本に書かれていた地図と最新の世界地図が違わんとも限らん。参考文献はなるべく新しいものを使うのだ。」
「…………」
推理の穴を突つかれ、パレットはすっかり黙り込んでしまった。
「だがまぁ……過去の記憶を取り戻したというのは本当のようだな」
そう言うと、神父はローブから一丁の拳銃を取り出した。そしてそれを、カーテンの下からパレットの足元へと転がした。パレットにはそれが何なのかはっきりとわかった。
「ベレッタ92……」
パレットは目を見開いた。それは前の世界でパレットがA国の特殊工作員に所属している時に使用していた愛銃だった。
「それから、これもだ」
カーテンの下からアタッシュケースがスライドしてきた。中を開けてみると、パレットが軍隊に所属していた時と同じ軍事用具が一式揃えられていた。
(……この人物いったい何者なの!?)
拳銃が床に転がったまま、長い長い沈黙が続いた。重苦しい空気がヒシヒシと伝わってくる。するとパレットの背後から女性の声が聞こえた。
「あら? 見慣れないものが落ちてるわね?」
気配もなく現れた瑠璃色のローブの女性は、落ちていた拳銃を拾った。
「「瑠璃様!?」」
「これ、どうやって使うのかしら? もしかして……こう?」
——チャキ
瑠璃色のローブの女性は、拳銃をパレットに向けた。
「っっ!!!」
パレットの顔から血の気が引いていく。
「なーんてね。これでも結構、当たると痛いもんね」
瑠璃色のローブの女性は笑顔で拳銃をパレットに手渡した。
(痛いなんてレベルで済まないんだけど……)
「何故瑠璃様がこちらに……?」
パレットがそう聞くと、瑠璃色のローブの女性は、優しく微笑んだ。
「さっき言いそびれちゃったんだけどね。パレットも『観測者』にそろそろ慣れてきたと思うから、お願いしたいことがあって戻って来たの」
「お願いしたいこと……ですか?」
パレットの声は少し震えていた。不意に本物の銃を突きつけられた時のショックが消えないのであろう。
「そぅ♪ その名も『宝探しゲーム』!ヒューヒューパチパチ~♪」
「宝探しゲーム……?」
「そう!」
張り詰めた空気の中、瑠璃様と呼ばれる女性は嬉嬉としてしゃべり続ける。
「私の予想が確かならね、陽光学園中学の地下にはとんでもないお宝が眠っているみたいなの。だからパレットには、それを手に入れてきて欲しいの」
「…………」
「パレットにしかできないことなの。私を助けると思って、ね?」
(あたしにしかできないこと……)
パレットの心は揺らいでいた。記憶を取り戻したことで、かつての世界の自分と、今の世界の自分は全くの別者のように思えてきてしまっていたからだ。
(それは、
パレットは息を飲み込んだ。そして、
「わかりました。その使命、引き受けます」
「きゃふぅ~♪ 期待しているわ、パレット」
そう言って瑠璃色のローブを来た女性は、スキップをしながら階段を登っていった。
「おととっ」
途中で踏み外していたりもしていたが。
(お宝探しゲーム……? 上等じゃない)
——スチャ
パレットは脚にレッグホルスターを巻き付け、拳銃を入れる。
——カチャ
さらにスカートのベルトに弾を高速でリロードするためのスピードローダーを備え付ける。
(あたしは必ずこの世界の秘密を……解き明かしてみせる!!)
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
【深夜0時】
パレットは閉められた裏門を華麗に飛び越え、私立陽光学園へと侵入した。深夜の校舎は、ただただ不気味な雰囲気を醸し出していた。
(この学校のどこかの地下に、お宝が眠っている……)
パレットは足音を立てないようにひっそりと歩を進める。本校舎と別棟の間にある中庭でパレットは足を止めた。
(中庭ね……)
パレットは土を手で叩き、硬さを確認する。
(掘り返された形跡はなし……)
パレットは再び歩を進める。
(こんなどこにでもありそうな学校に、いったい何があるの? )
からかわれただけかもしれない。パレットは薄々そう感じ初めていた。パレットは中庭から本校舎へと向かった。
(もしかしたら校舎の中に秘密の地下室があるかもしれない……だったら……)
パレットはスカートのポケットからヘアピンを取り出した。おそらくピッキングの技術も習得しているのであろう。
(鍵が掛かっていようとあたしには通用しない)
パレットはゆっくりと本校舎へと向かう。校舎の前には校長らしき人物の銅像が一度首をもがれたような形跡が見られ、接着剤やボンドやセロハンテープで補修されていた。
「絶対これだぁぁぁぁっ!?」
パレットは思わず叫び声をあげてしまった。
すると、草の茂みからガサガサと動いた。
「誰!?」
——スチャ
——バンッ
パレットは躊躇なく拳銃を引き抜き、撃った。
茂みからはバサバサと羽音をたてながら一羽の青い鳥が飛び出した。
「ピィピィ」
「なんだ、小鳥か……」
パレットは拳銃を下ろす……と見せかけて、もう一発茂みに向かって撃ち込んだ。
「そこにいるんでしょ……? あたしの眼は誤魔化せない。出てこないとそのまま殺すわよ?」
茂みからは何の反応もない。
「そんなに死にたきゃ殺してあげる」
——バンバンバンッ
——バンバンバンッ
パレットは立て続けに連射した。
茂みに中から一人の少年が飛び跳ねるように現れた。
「うおっうおっうおっ……」
「なっ……!?」
その少年はあろうことか、全ての銃弾をかわした。
「殺す気か!!」
「殺す気でやったのよ!!」
その黒髪で切れ長の眼をした少年にパレットは見覚えがあった。あかりという少女のぬいぐるみを躊躇なく助けた、あの男だ。
そしてパレットは、今まさに、この世界の真実に気づいてしまった。
(間違いない……この世界は……)
パレットはゴクリと唾を飲む。
「ギャグ漫画の世界だぁぁぁっ!?」
パレットは頭を抱えながら膝から崩れ落ちた。
「ヒナコ、さっさと地下行くぞ」
「そうね、黒城ッ」
ゴゴゴゴゴッ……
銅像を動かし、地下へと入っていく黒城とヒナコ。
その後しばらく、パレットが放心状態になっていたのは言うまでもあるまい。
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