第9話 朝までパーリナイ !?(後編)

【報告書No.7】

火グマ……火のついたヒグマ。戦闘後は沈火されていたため、常時燃えているという訳ではなさそうだ。何にせよ山にこんなのが生息していたらやばいこと請け合い。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「「「まごころ人生ゲーム!?」」」


「って書いてありますね」


 たくみが取り出したのは、以前パレットが、射的屋の景品で手に入れたボードゲームだった。


「パレットさん、開けてもいいですか?」


「ええ、構わないけど」


「では開けますね!」


 たくみがパッケージを開けて中身を取り出すと、真ん中にルーレットのある大きなスゴロクのようなボードと、自動車の形をしたユニットに人らしき棒のユニット、紙幣や証券カードなどなどが入っていた。


 4人はさっそくボードを真ん中に置き、囲うように座った。たくみは付属されていた説明書を読み上げる。


「『まず初めに、各プレイヤーは100万円を持ちます』」


「100万円100万円〜♪」


 パレットはご機嫌な様子でたくみからおもちゃの紙幣を受け取る。


「そのテンションうぜぇ……」


「あはは……続けますね。『全員がゴールに着いた時、1番多くのお金を持っていた人が優勝です。最初にゴールした人から順に、多くの賞金がもらえます。』」


「先に着いた方が有利ってわけね」


「あかりも1番目指す!」


「『なお、このゲームではあなたのまごころが試されます。より多くの人を助けながら優勝を目指しましょう。』さっそくやってみましょう! 何色がいいですか?」


 たくみは自動車のユニットを選ばせる。


「あかりはピンク♪」


「俺は赤だぜ」


「あたしは黄色よ」


「じゃあ僕は青色にしますね」


 各自、車をスタート地点に置いた。三人の手が一斉にルーレットに向かう。


「「「俺から あたしから あかりから 『回す!!』」」」


「あはは……」


 自己主張の激しい奴らであった。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「いっけー、10来い!」


 グルグルとルーレットが回転する。ルーレットの針は8を指していた。ゆうたは自動車のユニットを8マス進める。


「なになに、『道端に落ちていた100万円を拾った。ただし、交番に届けてもよい。その場合……』」


「いいわね。あたしも拾いたいわー100万円」


「そりゃ交番に届けるだろ」


「はぁ!?まじ? レアリー?」


 パレットはガタっと立ち上がった。 たくみはルールブックを読み上げる。


「『交番に届けた場合、貰える額は10万円になる』みたいですが、『自動車に交番の人を乗せられる』みたいですよ。」


「それどんなシチュエーションよ!?」


 ゆうたの自動車の後ろに3つ目の人型の棒が乗せられた。


「次はパレットの番だぜ」


「見てなさいよ。絶対1番にゴールしてやるんだから。せいやっ!」


 パレットは勢いよくルーレットを回した。グルグルと回り続けた針は、1を指して止まった。


「……」


 パレットは無言のままユニットを1マス進める。


「三回連続で1だぜ……」


「っっっ〜〜〜〜!! これも作戦なのよ!」


「いや、ルーレットに作戦はないと思うぜ……」


「いいの! 要はたっぷり稼いでゴールすればいいんだから!『ホームレスの人が路上で行き倒れている』助けない!」


「えー、せっかくタダで人乗せられるマスなのにー」


「助けてあげましょうよ?」


 3人の年下の少年少女から視線が注がれる。可哀想な人を見る目だ。


「そんな目であたしを見るなっ! あたしのいた世界ではね、他人になんて構ってられる余裕なんて……」


 ——ドクン


 パレットの心臓が騒いだ。


(なにこれ……凄く気持ち悪い……)


 ——ドクン、ドクン


「なかった……んだから……」


【硝煙の匂い……真っ赤な空……あたしは荒廃した街を彷徨っていた。 迷彩柄の服。防弾チョッキ。何故あたしはこんなものを着ているのだろうか。


 ——ぐにゅり


 何かを踏んだ。肉片のようだ。……だけどあたしは顔色一つ変えない。何故なら、この世界ではこれが当たり前の光景だったからだ。


 ——ガチャン


 ——バンッ


 あたしは手に抱えていたライフルを構える。そして廃墟のコンクリート壁にいた人影を撃った。


「ひぃ……」


 撃たれ損なった男性は、慌てて両手を挙げてあたしの前に姿を現した。あたしは今、どんな眼をしているだろう。多分死んだ魚のような眼をしている。


「ぼ、僕はただの民間人です!」


「……戦場にいる人の話を信じるとでも?」


 民間人を装った敵国の軍人に撃たれた自国民の話を、あたしは何度も耳にしてきた。あたしはライフルの銃口を、男性の頭部に当てた。


「Freeze(動くな)」


「ああっ……神よ……」


「っっっっ!!!」


 あたしは咄嗟にライフルで、その男を突き飛ばした。そして逆方向へと飛んだ……


 ——ドゴォォン


 その男性は爆発した。あたしは間一髪のところで無事だった。その男は、ちょうど人1人を道連れにするだけの爆薬しか持たされていなかったようだ。


 あたしは土埃を払ってのっそりと立ち上がった。そして男性の亡骸を見つめる。


(哀れなやつ……)


 男性は神を信じ、神の元へ向かった。


 精神的にも、金銭的にも、今日を生きるのにギリギリの生活。物心ついた頃には、あたしはそんな人生を歩んでいた。


 あたしはこの世界が大嫌いだ。


 神なんて存在しないこの世界が・・・・・・・・・・・・・・——】


 ピンポーン


 チャイムの音と同時に、パレットはふと我に返った。


「ねぇねだ!」


 たくみは嬉しそうな顔で部屋から飛び出し、ドタドタと階段を降りていった。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「ただいまー♪」


「おじゃましまーす!」


 栗毛色のふんわりした髪の女の子と、黒髪のポニーテールの少女が玄関に上がった。


「たくみ、誕生日おめでとう!」


「弟くん、誕生日おめでとう!」


「ありがとう。ねぇね! 白銀の人!」


「白銀のって……それはちょっと不快だから、別の呼び方で呼んでほしいなー」


「えへへ、それもそうですね。」


 玄関では和やかなやり取り(?)が行われている。


「そうだ、はい、弟くんに誕生日プレゼント」


 ポニーテールの少女は、金色の宝箱をたくみに手渡した。


「私が指導しながら、愛佳が初めて捕まえた秘宝獣だよ! 仲良くしてあげてね!」


「結構大変だったよー」


「やったー! 開けてもいいですか?」


 たくみの瞳は、いつになくキラキラと輝いていた。


「もち!」


「よーし、解放リベレイト!!」


 金色の宝箱の中からは、白くて気品のある子型の一角獣が飛び出した。


「ユニコーンよ。どう?」


「うわぁ、凄いです! 初めて見ました!」


 たくみは一角獣を体全体で抱きしめる。


「大切にしてあげてね。秘宝獣は私たちの……」


「家族ですからね!」


「そういうこと♪」


「あ、今上の階で友達と遊んでるんです。」


「そうなんだ。後でケーキ上持っていくね!」


 栗毛色の髪の女の子はにっこりと笑顔で答えた。


「ありがと、ねぇね」


「どういたしまして」


 たくみが階段を上がっていると、ドタドタと金髪の少女が階段を降りていくのとすれ違った。


「あ、パレットさん、ケーキもうすぐですよ!」


「…………」


「パレットさん?」


 パレットは何も言わずにたくみの家を飛び出して行ってしまった。


「喧嘩しちゃったのかな……?」


 渡り廊下を歩いていた栗毛色の髪の女の子は心配そうにパレットを見つめていた。


 ポニーテールの少女も、難しそうな顔でパレットの様子を見ていた。


 ……金髪の少女はひたすら走り続けた。


 ……その足は自ずと、あの教会へと向かっていった。

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