第8話 朝までパーリナイ!?(前編)
【報告書No.7】
瑠璃色のローブ…ぶっ潰しても、ぶっ潰しても、ぶっ潰しても!! 支給されるローブ。(非売品) 正体を隠すために使われるものだけど、あたしにはそういうの向いてないから!!(この報告書は後で添削しよう……)
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パレットは『のどかな公園エリア』から、裏山の神社へと続く石段を登っていた。またあの射的屋に行けば、何かしら思い出せるかもしれない。そう考えたからである。
ようやく赤い鳥居が見え、最上段まで到達すると、物静かな神社には屋台など一つもなかった。
あれ?と不思議に思っていると、見覚えのある白い兎のぬいぐるみを抱えた少女と、以前ここで射的対決をした少年(ゆうた)とその友達(たくみ)も一緒だった。
「あ、金髪の!」
「ゆう君、人を指差しちゃ、メ、だよ!」
「むぅ……」
ぬいぐるみを抱えた少女は、小口を挟む。ゆうたはチラッとその少女に眼を配る。
「確かカタカナ4文字の……そうだ、ビネット!」
「ビネットじゃなくてパ・レ・ッ・ト! 潰すわよ?」
「むむぅ……」
2人の女の子から咎められ、その少年は不機嫌そうだった。
「あはは……パレットさん、こんにちは!」
「うんうん、たくみくんはあっちのガキと違って可愛いわねー」
パレットがたくみの頭をポンポンとしていると、もう一人の少年は不機嫌そうに口を紡いだ。
「……で、パレットは何しにきたんだよ」
「何って…………なんだっけ?」
「記憶喪失かよっ……」
「きおっ……記憶喪失じゃないわよっ!? 全く、全然、何にも! やましいことなんてこれっぽっちも無いんだから!」
パレットは嘘をつくのがとても下手であった。
「実は異世界から来ましたーとかいうありがちな展開なんてさらさら無いんだからね!」
「お、おう……」
ゆうたは必死なパレットの反応に気が引けていた。
「コホン、……それより出店が無いんだけど、売れなさすぎて撤退したのかしら?」
「前にも説明したろ。お祭りは『縁日』の日にしかやってないんだって」
「ふーん。その縁日ってどれくらいの頻度なの?」
「んー、陽光町には八百万の神がいるらしいからなー。毎月20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、28日、30日……ほぼ毎日だぜ」
「パリピかっ!(※1)」
「じゃねーと『縁日エリア』とは言わねぇだろ」
「なにその無駄な説得力……」
パレットはメモ帳に書き足した。陽光っ子はパリピであると。
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「ちょっとお姉ちゃん!」
そう言って迫って来たのは、白い兎のぬいぐるみを抱えた女の子だった。
「さっきから、たっくんとゆうくんと仲良さそうなんだけど、いったいどういう関係なの?」
(この子、もしかして妬いてる……?)
ちょっと可愛いと思ってしまったパレットの悪巧みが
「この2人はあたしの
「なっ……」
女の子の顔が赤くなる。パレットは勝ち誇った顔を浮かべる。が、少しショックが大きすぎたようだ。
「うっ……えぐっ……私が2人の……お姉ちゃんだもん……」
「ええっ!? ちょっ……」
女の子は突然泣き始めてしまった。その様子を冷ややかな眼で見るゆうた。たくみはのほほんとしていた。
「あーあ、パレットがあかり泣かしたー」
「パレットさん、げぼくってなんですか?」
……その後、パレットは少年らの視線に耐えながら、なんとかあかりを説得した。
「そうなんですか、少しびっくりしちゃって……わたし、あかりって言います」
「あたしも悪かったわ。パレットよ、よろしく」
なんとか和解が成立したようである。夕焼けに照らされながら、4人は神社の石段を降りていく。
「そういえば、あたしが射的屋で取った景品ってどうなったの?」
「それならたくみの家にあるぜ」
「あはは……パレットさんまともに話せる状態じゃなかったから、一時的にね」
「そう……」
「あっ!」
いつもおとなしいたくみが、ふと大きな声を出した。
「今から僕の家で誕生日会やる予定なんですけど、パレットさんも来ませんか?」
「バースデーパーティ?」
「はい!」
「…………」
パレットはしばらく考え込んだ。普段ならとっくに教会へと帰る頃合いだからだ。
「ケーキもありますよ!」
「cake!?」
思わずネイティヴな発音になってしまった。パレットの思考回路はすでにcakeの虜となっていた。どうやら彼女は本来の目的など忘れてしまったようだ。
「行く! そうと決まれば競走よ!」
パレットは真っ先に石段を駆け下りた。
「おい、たくみの家知ってるのかよ!?」
慌ててゆうたが追いかける。
「ゆーくん、走ると危ないっていつも言ってるでしょ!」
あかりも頬を膨らませながらそれを追う。
「あはは……僕の鍵ないと家入らないんだけどね」
たくみはゆっくりと石段を降りていった。
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「「おじゃましまーす」」
「Thank you for inviting me. 」
ガチャガチャ。
「「「あれ?」」」
たくみの家には誰もおらず、鍵が掛けられていた。
「あれ、みんな大丈夫?」
「「「だいじょうぶじゃない……」」」
息を切らすほど走ったパレットたちであったが、家に入れたのは、マイペースに歩いて来たたくみが到着した後のことだった。
「僕の部屋は2階だよ!」
たくみの部屋は小学生らしさがありながらも、綺麗に片付けられていた。部屋には見たことのない動物のポスターがいくつも貼られていた。
「ねぇねとパパママはもう少し遅くなるみたいだから、それまで僕の部屋であそぼう!」
「トランプやろうぜ!」
「あかりもトランプやりたい!」
「Praying card(トランプ)のルールは万国共通よね♪」
それからしばらく、4人はルンルン気分でババ抜きを楽しんだ。1人抜け、また1人抜け、今まさに雌雄を決しようとしていた。
「ふふん。さぁ、どちらがジョーカーでしょう?」
パレットは2枚のトランプを後ろ手でシャッフルし、ジョーカーを上に突き出すように持った。
「こっちだ!」
シュバッと、勢いよくゆうたが突き出されていない方のトランプを抜いた。
「よっしゃ、あがり! パレット弱すぎ」
ゆうたはトランプを2枚真ん中へと置いた。
「なんでよっ!さっきと真逆の手を使ったはずなのに!」
「それが単純だっての」
「もう一回! もう一回よ!」
「えー、もう10回目だぜ……」
「あかりトランプ飽きてきちゃった〜」
「そうですね、違う遊びにしましょう」
見かねたたくみは、パレットが以前射的屋で当てたボードゲームを取り出した。
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※1 パリピ…パーティーピープルのこと。なのだが近年ではノリが軽い連中、遊び人といった悪い印象を持たれがちである。類義語はリア充。
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