第8話 朝までパーリナイ!?(前編)

【報告書No.7】

 瑠璃色のローブ…ぶっ潰しても、ぶっ潰しても、ぶっ潰しても!! 支給されるローブ。(非売品) 正体を隠すために使われるものだけど、あたしにはそういうの向いてないから!!(この報告書は後で添削しよう……)


 ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎


 パレットは『のどかな公園エリア』から、裏山の神社へと続く石段を登っていた。またあの射的屋に行けば、何かしら思い出せるかもしれない。そう考えたからである。


 ようやく赤い鳥居が見え、最上段まで到達すると、物静かな神社には屋台など一つもなかった。


 あれ?と不思議に思っていると、見覚えのある白い兎のぬいぐるみを抱えた少女と、以前ここで射的対決をした少年(ゆうた)とその友達(たくみ)も一緒だった。


「あ、金髪の!」


「ゆう君、人を指差しちゃ、メ、だよ!」


「むぅ……」


 ぬいぐるみを抱えた少女は、小口を挟む。ゆうたはチラッとその少女に眼を配る。


「確かカタカナ4文字の……そうだ、ビネット!」


「ビネットじゃなくてパ・レ・ッ・ト! 潰すわよ?」


「むむぅ……」


 2人の女の子から咎められ、その少年は不機嫌そうだった。


「あはは……パレットさん、こんにちは!」


「うんうん、たくみくんはあっちのガキと違って可愛いわねー」


 パレットがたくみの頭をポンポンとしていると、もう一人の少年は不機嫌そうに口を紡いだ。


「……で、パレットは何しにきたんだよ」


「何って…………なんだっけ?」


「記憶喪失かよっ……」


「きおっ……記憶喪失じゃないわよっ!? 全く、全然、何にも! やましいことなんてこれっぽっちも無いんだから!」


 パレットは嘘をつくのがとても下手であった。


「実は異世界から来ましたーとかいうありがちな展開なんてさらさら無いんだからね!」


「お、おう……」


 ゆうたは必死なパレットの反応に気が引けていた。


「コホン、……それより出店が無いんだけど、売れなさすぎて撤退したのかしら?」


「前にも説明したろ。お祭りは『縁日』の日にしかやってないんだって」


「ふーん。その縁日ってどれくらいの頻度なの?」


「んー、陽光町には八百万の神がいるらしいからなー。毎月20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、28日、30日……ほぼ毎日だぜ」


「パリピかっ!(※1)」


「じゃねーと『縁日エリア』とは言わねぇだろ」


「なにその無駄な説得力……」


 パレットはメモ帳に書き足した。陽光っ子はパリピであると。


 ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎


「ちょっとお姉ちゃん!」


 そう言って迫って来たのは、白い兎のぬいぐるみを抱えた女の子だった。


「さっきから、たっくんとゆうくんと仲良さそうなんだけど、いったいどういう関係なの?」


(この子、もしかして妬いてる……?)


 ちょっと可愛いと思ってしまったパレットの悪巧みがえる。


「この2人はあたしの下僕げぼくよ。あたしの言うことなら何でも聞いてくれるの」


「なっ……」


 女の子の顔が赤くなる。パレットは勝ち誇った顔を浮かべる。が、少しショックが大きすぎたようだ。


「うっ……えぐっ……私が2人の……お姉ちゃんだもん……」


「ええっ!? ちょっ……」


 女の子は突然泣き始めてしまった。その様子を冷ややかな眼で見るゆうた。たくみはのほほんとしていた。


「あーあ、パレットがあかり泣かしたー」


「パレットさん、げぼくってなんですか?」


 ……その後、パレットは少年らの視線に耐えながら、なんとかあかりを説得した。


「そうなんですか、少しびっくりしちゃって……わたし、あかりって言います」


「あたしも悪かったわ。パレットよ、よろしく」


 なんとか和解が成立したようである。夕焼けに照らされながら、4人は神社の石段を降りていく。


「そういえば、あたしが射的屋で取った景品ってどうなったの?」


「それならたくみの家にあるぜ」


「あはは……パレットさんまともに話せる状態じゃなかったから、一時的にね」


「そう……」


「あっ!」


 いつもおとなしいたくみが、ふと大きな声を出した。


「今から僕の家で誕生日会やる予定なんですけど、パレットさんも来ませんか?」


「バースデーパーティ?」


「はい!」


「…………」


 パレットはしばらく考え込んだ。普段ならとっくに教会へと帰る頃合いだからだ。


「ケーキもありますよ!」


「cake!?」


 思わずネイティヴな発音になってしまった。パレットの思考回路はすでにcakeの虜となっていた。どうやら彼女は本来の目的など忘れてしまったようだ。


「行く! そうと決まれば競走よ!」


 パレットは真っ先に石段を駆け下りた。


「おい、たくみの家知ってるのかよ!?」


 慌ててゆうたが追いかける。


「ゆーくん、走ると危ないっていつも言ってるでしょ!」


 あかりも頬を膨らませながらそれを追う。


「あはは……僕の鍵ないと家入らないんだけどね」


 たくみはゆっくりと石段を降りていった。


 ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎


「「おじゃましまーす」」


「Thank you for inviting me. 」


 ガチャガチャ。


「「「あれ?」」」


 たくみの家には誰もおらず、鍵が掛けられていた。


「あれ、みんな大丈夫?」


「「「だいじょうぶじゃない……」」」


 息を切らすほど走ったパレットたちであったが、家に入れたのは、マイペースに歩いて来たたくみが到着した後のことだった。


「僕の部屋は2階だよ!」


 たくみの部屋は小学生らしさがありながらも、綺麗に片付けられていた。部屋には見たことのない動物のポスターがいくつも貼られていた。


「ねぇねとパパママはもう少し遅くなるみたいだから、それまで僕の部屋であそぼう!」


「トランプやろうぜ!」


「あかりもトランプやりたい!」


「Praying card(トランプ)のルールは万国共通よね♪」


 それからしばらく、4人はルンルン気分でババ抜きを楽しんだ。1人抜け、また1人抜け、今まさに雌雄を決しようとしていた。


「ふふん。さぁ、どちらがジョーカーでしょう?」


 パレットは2枚のトランプを後ろ手でシャッフルし、ジョーカーを上に突き出すように持った。


「こっちだ!」


 シュバッと、勢いよくゆうたが突き出されていない方のトランプを抜いた。


「よっしゃ、あがり! パレット弱すぎ」


 ゆうたはトランプを2枚真ん中へと置いた。


「なんでよっ!さっきと真逆の手を使ったはずなのに!」


「それが単純だっての」


「もう一回! もう一回よ!」


「えー、もう10回目だぜ……」


「あかりトランプ飽きてきちゃった〜」


「そうですね、違う遊びにしましょう」


 見かねたたくみは、パレットが以前射的屋で当てたボードゲームを取り出した。


 ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎


 ※1 パリピ…パーティーピープルのこと。なのだが近年ではノリが軽い連中、遊び人といった悪い印象を持たれがちである。類義語はリア充。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る