第7話 プライスレスなもの
【報告書No.6】
金のハッピーチケット…人助けなど、いいことをすると、何処からともなくピエロが現れ貰えるようだ。金のハピチケ1枚につき1人分、プールか遊園地のどちらかで遊べるらしい。
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【後日】
「こ、これは……!?」
商店街にある一軒の古着屋。その店内で、店主はまじまじと瑠璃色のローブを鑑定していた。
「ありえない……まさか古着屋歴40年のこのワシさえ知らぬ素材があるとは……」
「本当!? で、いくらになりそう?」
金髪の少女は、ズイっとカウンターに身を乗り出した。言うまでもないと思うが、このローブは神父様からの借物である。
しかし彼女は全く気に病まなかった。どうせ今日も途中で捨てさるオチになるのだから、いっそ売って金にしたほうが有意義だと思ったからだ。
「これを売ってしまうとはトンデモナイ!」
「なんでよっ!?」
古着屋の店主は惜しみつつもローブをパレットに突き返した。
「このローブはワシの知らない繊維でできている。これに値段をつけるなど、ワシごときには到底できそうにない」
古着屋の店主はクッ……と悔しそうな表情をしていたが、パレットも気持ちは同じだった。どちらかというとチッ……のほうだったが。
瑠璃色のローブを羽織り店の外へ出たパレットは、今日も陽光公園へと向かった。
新たな出会いと、報告書のネタを求めて……
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パレットは薄々気づき始めていた。この世界は必ずしも自分の思い通りには進まないものだと。福引きではハズレしか引けないし、昨日は黒髪の少年の方が、よほど主人公らしいことをしていた。
「っっっ〜〜〜〜!! 主人公らしくなくて悪かったわね!」
ご覧の通り、パレットの心は激しく揺れていた。今まで天上天下、唯我独尊、俺に乗れねぇ波はねぇをモットーに生きてきたであろう少女の心に綻びが見え始め、今は俺の波に乗れねぇ……状態である。つまり彼女は自信を失いかけていた。
「もうなんでもいいわよ……」
パレットは深いため息をついて、ブランコに座った。ここ、『のどかな公園エリア』は、開発の進んだ他のエリアに比べると、素朴ではあるが、すべり台やブランコ、砂場にジャングルジムといった、どこか懐かしい遊具が設置されている。
(解説してないで、ちょっとはいたわってよ……)
パレットはうつむいたまま、キコキコとブランコを揺らしている。その表情からは哀愁が感じられる。
「貴卿、顔色がすぐれぬようだが、何かあったのか?」
パレットが顔を上げると、青色の髪、青い瞳の青年が立っていた。以前『ふれあいエリア』で、秘宝バトルを説明をしてくれた人物だ。
「あなたは……えっと……」
「ああ、自己紹介が遅れた。
ヴァルカンと名乗る青年は手を差し出す。金髪の少女もそれに応える。
「よろしく、ヴァルカン。あたしはパレットよ」
「パレットか、ここでは珍しい名だな」
ヴァルカンはフッと口元を緩めて少女の手を握った。
「……貴卿は『げかい』の者か?」
「……? まぁ、そんなところよ」
「そうか。……この町は良い。穏やかでありながらも、刺激的な日々を送れる」
そう言ってヴァルカンは、パレットの隣のブランコへと腰掛けた。
「そうね、見たことないものばっかり。詳しいみたいだけど、ヴァルカンも秘宝バトルをやるの?」
パレットは率直な疑問を彼に投げかけた。するとヴァルカンは、ズボンのポケットから金色に輝く宝箱を取り出した。
「ああ。これが
(A-Z……ギリシャ文字の始まりと終わりを冠する名だ)
少女は息を呑んだ。いったいどんな生き物が飛び出すのか……ヴァルカンは口上を述べながら宝箱を開いた。
「出でよ、
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ヴァルカンが宝箱を開くと、中からソレは現れた。
真っ赤に染まるその頭胸甲の生き物は、5対の脚のうち、第1脚は大きな鋏脚になっている。また、第2脚と第3脚にも小さなはさみがある。
パレットも幼少期の頃見覚えがあった。川や池で捕まえた気がする。その姿はまるで……
「アメリカザリガニかよっ!」
「否、アメリカザリガニではない、A-Zだ」
「否、じゃないわよ! 」
パレットは期待して損した、という表情をして肩を落とした。ヴァルカンはそっとパレットを諭した。
「……貴卿、もしA-Zが幻獣のような生き物だとしたらどうしていた?」
「売る」
即答だった。
「否、生き物を入れた秘宝を売るのは法外行為となっている」
「知ってる、昨日別の人から聞いたから」
「むっ……それは失敬」
青い髪の青年はズボンのポケットからさらに銀色と銅色の宝箱を取り出した。
「秘宝のランクは大きく分けて5つ。銅色の秘宝がCランク、銀色の秘宝がBランク、金色の秘宝がAランク、白銀の秘宝がSランク、虹色の秘宝がSSランクと格付けされている」
「基準はなんなの?」
「捕獲難易度によるものが大きいが、一概には言えん。中には好んでCランクの秘宝で捕獲を試みる物好きもいるようだからな」
それに、と青い髪の青年は付け加える。
「秘宝獣にランクはあれど、命の価値に違いはない。……と言った人物がいてな。
(値段の付けられないもの、か……)
金髪の少女はこの世界に来る以前の記憶を手繰っていた。金髪の髪、パレットと言う名前、そしてアメリカザリガニを知っていたという事実から、おそらくそこで暮らしていたのだろう。
(あたしは、たぶん、前の世界が嫌いだった……)
フツフツと嫌悪感が込み上げてきていた……その世界の人たちは、自己主張の激しい者達ばかりだった。ような気がする。互いに平行線のまま、自分の主張だけを通していた。
自分も同じなのではないか、という考えを、少女は慌てて振り払う。
(違う、あたしは……)
「貴卿? どうかしたのか?」
パレットはっと現実に引き戻された。そこまで出かかっていた思考も途絶される。
「えっと……なんだった?」
「どんな生き物も、命の価値に違いはない、という話だ。」
「あー、プライスレスの話だったわね。オーケー」
「貴卿も興味があれば飼ってみるといい。退屈しないぞ。戻れ、A-Z」
ヴァルカンは微笑を浮かべてA-Zを秘宝の中に戻して一人で去って行ってしまった。だが、彼なりに少女を励ましてくれていたのだろう。
それを見届けたパレットも、ブランコを降りて立ち上がった。
(よし、まだまだ謎だらけだけど、とにかく頑張ろう!)
そしてパレットは再び歩き出した。
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