第4話 ハッピーチケット、発動!

【報告書No.3】

 ハッピーチケット…陽光町の催し物に参加すると貰える、太陽サンサンニコちゃん印のチケット。商店街の福引きの引き換えとして使われる。また、いいことをすると貰える金色のハッピーチケットなるものも存在するらしい。


 ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎

 

 【次の日、陽光町商店街の一角にて】


 ガラガラガラ……


 パレットは取手に手をかけると、ゆっくりとそれを回し始めた。中に入った球がぶつかり合うガラガラとした音と共に、徐々に回す速度を早めながら一回転、もう一回転と回していく。


 パレットの後ろに並んでいる人々は、固唾を飲んでその様子を見守っている。パレットそれを数回ほど回した後、回す速度を一気に緩めた。


 カラン


 『ソレ』が吐き出したものは、白色の球であった。


「はい残念〜、ポケットティッシュね」


「…………」


 パレットは、表情に影を落としたまま3つ目のポケットティッシュを受け取った。パレットは今、心の底から叫びたがっていた。


「クソじゃん!!」


 どうして3回回して3回ともポケットティッシュなのよ、と。あるいは……


「嘘じゃん!!」


 何がハッピーチケットよ! あたしの幸せはポケットティッシュ程度のちっぽけさかよ、と。


 パレットは商店街の福引き屋のおじさんから受け取ったポケットティッシュを勢いよく地面へと叩きつけた。


「ほら、勝手に横入りなんてするから、物欲センサーが働いたんだよ」


「あははは……」


 パレットの後ろに並んでいた元気な男の子は、パレットに冷たい視線と言葉を送る。 一緒にいたおとなしい男の子は、ただ苦笑していた。


「うるさいわね、ここではあたしがルールなの!」


 パレットは地面に落としたポケットティッシュを拾いながらそっぽを向く。


「どういう理屈だよ……よし、おじさん、ハピチケ1枚」


「はいよ、じゃあこの抽選機をゆっくりと回してくれ」


 元気な男の子は慣れた手つきで抽選機を回し始めた。ガラガラと心地よい音が聞こえてくる。


「ハズレろハズレろハズレろハズレろハズレろハズレろハズレろハズレろハズレろハズレろ……」


 パレットは身を屈めたままブツブツと呪言をつぶやいていた。


「たちわるっ!?」


 カラン。


 抽選機から金色の球が飛び出した。福引き屋のおじさんは、おっと驚きの声をあげて、手元に置いてあったベルをチリンチリンと景気良く鳴らした。


「おめでとう、一等賞〜!!」


「よっしゃあ!」


「すごいよゆうくん!」


「へへん、まあ日ごろの行いってやつかな」


 福引き屋のおじさんは、元気な男の子に一等の賞品を手渡した。その賞品とは、キラキラと金色に輝く手のひらサイズの宝箱であった。


「痛っ!?」


 突如、一等の景品を手にした元気な男の子の頬に何かが当たった。ポケットティッシュだ。何しやがる、とポケットティッシュが飛んできた方向を振り向くと、パレットが腕を組みながらニッコリと微笑んでいた。


「それ、あたしのなんですけど?」


「はぁ!?」


 元気な男の子はそれはもう嫌な予感がしていた。また何かこじつけられると。


「あたしがふっつーに並んでいたら、それ、あたしが当たる予定だったって言ってるの。アンダスタン?」


「うぜぇ……」


 元気な男の子は心で思ったことを思わず声に出していた。


 ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎


 その日、少年らは普通に福引きの列に並んでいた。しかし、たまたま遭遇したパレットは、顔見知りのよしみと言って少年らの前へと割り込んだのだ。


 パレットはひょいと金色の宝箱をつまむ。そして物珍しそうに宝箱を見つめた。


「ふふん、さて、何が入ってるのかしら?」


 そわそわと金色の宝箱を開けようと試みる。初めは強引に上下に引っ張ったりしていたが、真ん中の鍵穴に気づき、爪を引っ掛けて宝箱を開けた。


「んんっ? んっ……ああ、開いた開いた。……あれ?」


 パレットは目を丸くした。宝石の類や指輪のようなものが入っているものとばかり思っていたが、宝箱の中身は空っぽだったからだ。


「何も入ってないじゃない。見てくれは悪くないけど、こんなのが一等なの?」


 パレットは、その宝箱が何なのかを全く知らなかった。この世界においては貴重なものであるということも。


「金髪の姉ちゃん知らねぇの? これは『秘宝』。金色の宝箱はAランクの秘宝って呼ばれてるんだぜ」


「ふーん……」


 元気な男の子は説明しながらジャンプしてパレットから宝箱を取り戻そうとするが、手の届かない高さに軽くあしらわれる。続けざまにおとなしい方の少年が口を開いた。


「その宝箱、『秘宝』の中は広い空間があって、生き物を飼うことができるんだよ。いつでもどこでもペットを連れて行けるから、今すごい流行りなんだ!」


 そう秘宝について語る元気な男の子の眼は、パレットが見た中で一番輝いているように見えた。


「ふーん、つまりこいつでレアそうな動物捕まえりゃ高値で売りさばけるってことね」


「売っちゃダメですよぅ」


 おとなしい男の子は、彼女の言葉に眉をひそめた。


「そっ、じゃあ興味ないわ」


 パレットは、あしらっていた元気な男の子頭上に宝箱を乗っけた。先ほどまで遊ばれていた元気な男の子はムッとパレットを睨んでいた。


「まったく、めんどくさい女だぜ……」


 元気な男の子は頭に乗せられた宝箱を手にとって、数秒そのまま見つめていた。ふと何を思ったのか、今度はその宝箱を一緒にいたおとなしい男の子へと手渡した。


「たくみ、これお前にやる」


「ええっ!? いいの?」


「ああ。たしか今月誕生日だったろ?」


「ありがとうゆうたくん、すごく嬉しい!」


 おとなしい男の子は、屈託のない笑顔を浮かべていた。元気な男の子も、それを見て笑顔になる。


「わぁ、初めての秘宝だ! Aランクかぁ……どの動物をパートナーにしようかな……」


 おとなしい男の子の頭の中は、秘宝のことでいっぱいだった。

 一方でパレットは、全然わからん、といった顔をしている。


「あっ、パレットさんは秘宝のこと知らないんだっけ。それなら陽光公園の『ふれあいエリア』にいってみるといいよ! 解放者がたくさんいるから!」


「解放者?」


「いけばわかるよ!」


「そう……まぁ暇だし行ってみるわ」


 パレットの使命は、この『世界の観測者』ということになっている。2人の少年に一旦別れを告げ、金髪の少女は商店街から公園へと歩いて行った。

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