第3話 夏だ! 射的だ!変人だーー!?
【報告書No.2】
陽光公園②…大まかに『のどかな公園エリア』『アスレチックエリア』『縁日エリア』『ふれあいエリア』『遊園地エリア』『室内プールエリア』に区分されているらしい。さながら巨大なテーマパークのようだ。
♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎
「俺から先にやる!」
「おぅ、坊主、威勢がいいねぇ。はいよ」
威勢よく飛び出した少年に、射的屋のおじさんはコルク銃を手渡す。
「おっと、坊主身長がちぃと足りねぇな。少し待っとけい」
射的屋のおじさんは身をかがめながら背を向けてゴソゴソとひな壇の下から台を取り出した。
「これで足るかい?」
「サンキューおじさん!」
よっと、男の子はさっそく台に登ってコルク銃を構える。狙いを絞るため、ひな壇式の台に並べてある商品をざっと見渡す。
(おかしや缶ジュースなら簡単に取れそうだな。でもどうせならもっと面白いものを狙いたいところだぜ! よし、あれにしよう)
「よし、決めたぜ!」
「そうかい。弾は3発だ、まあ頑張んな」
男の子は手前の台に少しだけ身を乗り出した。商品への距離はおよそ1メートルほど。片目を閉じ、ターゲットに向かってコルク銃の引き金を引いた。
–––––– パァン!!
男の子の放ったコルク栓は平射弾道を描き、商品であるボードゲームをかすめた。ボードゲームは衝撃によってやや斜めに向きを変えた。
「ああ、惜しい!」
「へぇ、意外とやるじゃない」
それを見ていたおとなしそうな少年と、パレットも思わず驚きの声を上げる。
「いや、アレはダメだ」
そう呟いたのは、ボードゲームをかすめた銃を撃った男の子自身である。
「コルクのいきおいが弱い。あと2発でなんてとても落とせそうにない」
射的屋の店主は、ほぅ、と唸り声を上げる
「坊主なかなか察しがいいな。そう、そいつはうちの大本命でよ、とてもじゃねぇがものの数発じゃとれやしねぇ」
「おじさん、そんなこと教えていいのか?」
「ああ、今回だけのサービスよ。どうする? ダメ元で狙ってみるか?」
射的屋のおじさんはニヤリと笑みを浮かべる。元気な男の子は、後ろで見ているパレットをチラリと確認し、再び前にある商品の並んだひな壇を見つめた。
「いや、的を変える。あくまでこれは金髪の姉ちゃんとの勝負だからな。何を取るかは重要じゃない、いくつ取るかが重要なんだ」
「フッ、そうかい。次はどれを狙うんだい?」
「あのトランプのセットにする!」
男の子は再びコルク銃を構えた。横幅およそ6センチ、縦幅およそ10センチのごく普通のトランプだ。少年はその縦長の物体を凝視し、狙いを定めて2発目の引き金を引いた。
–––––パァン!!
再び真っ直ぐな軌道を描き、コルクがトランプセットの真ん中を捉えた。直撃を受けたトランプはグラグラと前後に揺れたが、台下に落ちることなく踏みとどまった。
「ああ、また惜しい!」
「ちょっとガキ、あんたから喧嘩吹っかけといて、その程度の実力なの?」
「うっさいなー、次は決めてやるよ!」
ってか、先に喧嘩を吹っかたのはお前だろ……とか思いつつも、男の子は再びコルク銃を構えた。
(ターゲットは変えない。このままトランプ狙いでいく。でも真ん中に当ててもダメだった。だったら……)
男の子はゴクリと唾を飲み込む。そして全神経をターゲットに向けて注ぎ込む。直線になるよう角度を調節し、そして最後の引き金を引いた。
–––––パァン!!
弾は狙い通りの軌道を辿った。商品に当たるより前に、男の子はガッツポーズを取る。弾はトランプセットのやや上方に命中した。コルクの勢いとともに、トランプセットはひな壇から床へと落とされた。
♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎
「よっしゃ! 見たか!」
先ほどまで硬くなっていた少年の表情は緩み、満面の笑顔で後ろを振り返る。
「すごいよ、ゆうくん!」
「まぁ、ガキにしては上等かしら」
おとなしい男の子も自分のことのようにピョンピョンと跳ねて喜びを形容する。金髪の少女も淡々とした口調とは裏腹に、少しだけ柔らかい表情をしていた。
「やるな坊主、これが商品のトランプだ」
「サンキュー、おじさん」
「あとこれ。オマケのハッピーチケットだ。うちの屋台は全商品に1枚これをつけることになってんだ」
「へぇ、それがハッピーチケットねぇ」
パレットは不思議そうな顔でその紙切れを見つめていた。陽光町ではわりとよく眼にするものなのだが、別の場所から来た彼女にとってはそれが新鮮だった。
「おい、次は姉ちゃんの番だぜ!」
「はいはい。かるーく捻ってあげるわ」
パレットは、男の子が乗っていた台座をずらしひな壇の前に立った。
「ルールはさっき見ての通り。好きなもの当てて落とせば持ち帰ってよし。弾は3発だ。ルールは理解したかい嬢ちゃん?」
「ええ、OKよ」
「はは、頼もしいじゃねぇの。はいよ」
射的屋のおじさんはコルク銃をパレットにしっかりと手渡した。すると、パレットの手から、スルリとコルク銃が地面に落ちた。よく見ると、パレットの腕はガクガクと
「……!?」
「おっと、大丈夫かい? 嬢ちゃん」
パレットも同じように困惑していた。なぜ急に腕が震え始めたのか。その視線は、しばらくじっと地面に落ちたコルク銃を見つめていた。
「なに緊張してんだよ。あ、もしかして負けるのが怖いとか?」
「はぁ!? んなわけないでしょ! 見てなさい!」
元気な男の子の煽りを受けて、パレットは戸惑いながらも再びコルク銃を手に取った。
(あたしが負けるですって? 冗談!!)
謎のエリート意識からか、コルク銃を握った瞬間、パレットの眼が鋭いものへと変わる。
パレットはターゲットを一瞬にして定め、そして素早く引き金を引いた。
–––––パァン!!
コルクは迷いもなく缶ジュースの芯に直撃し、そのまま床へと叩きつけた。
それはパレットが銃を手に取ってからほんの数秒の出来事。周りで見ていた人は、おおっと歓声を上げ、通行人も思わずその足を止めた。
–––––パァン!!
パレットは一切表情を変えず、すかさず2発目の弾丸を打ち込んだ。引き金を引いた途端放たれたコルク栓は、お菓子の箱に見事命中。そして下へと突き落とす。
「「「「おおおおっっっっ」」」」
またまた外野からどよめきの声が上がる。おとなしい男の子と元気な男の子は、ポカーンと口を開け、ただ呆然とそれを見つめていた。
(3発目!!)
–––––パァン!!
パレットの眼光は、射的屋で1番の目玉商品であるボードゲームを睨んでいた。射的屋のおじさんは切ない表情をして慌ててひな壇に手を伸ばした。スローモーションのように流れる光景の中、射的屋のおじさんは思っていることだろう。
(ちくしょう、こいつはトンデモねぇ逸材が現れやがったぜ!!)
射的屋のおじさんの嫌な予感は的中した。角度、風向き、コルクの性能。おそらくその全てを計算し尽くしたであろう
そして、ボードゲームはゆらりと後ろへと傾き、重力に引っ張られるかのように、床へと吸い込まれていった。
外野からパチパチパチと自然に沸いた拍手の嵐。しかしそれを打ち消すまでに、パレットの様子は常軌を逸していた。
「アハハハハハハハハ♪」
カチッカチッカチッ。パレットは空になったコルク銃の引き金を、何度も、何度も引き続けた。ガックリと膝をつく射的屋のおじさんと、奇声をあげながら引き金を永遠と引き続ける少女を、ギャラリーたちはなにも言わずに見守っていた。
♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎ ♢ ♦︎
初めましての方、前作から拝読されている方、こんにちは! 作者の上崎 司です!
この度は『ハッピートリガー』を拝読していただき、誠にありがとうございます(^^)
前作と同じように、本作でも1話2〜3節、3話でワンセット、の構成となっています。読みやすいと感じていただければ幸いです笑
投稿日時は土日の朝6時を予定しております!是非みなさんにハッピーな休日をお届けできればな、と思います!まだまだ拙い作品ですが、今後とも応援よろしくお願いしますm(_ _)m
※7/21追記:無事完結いたしました!
続きます⬇︎
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます