第2話 夏だ! 祭りだ!ハッピーかい?
【報告書No.1】
陽光公園……東京ドーム8個分以上もの敷地を誇るとても広い公園。あらゆる年代の人々に人気のある陽光町一の観光スポット。夏になると花火大会が開催されるらしい。
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2人の男の子と、金髪の少女は、公園の中央にある湖畔沿いの道を歩いていた。
「それにしても広い公園ね。もしかして、町の大半を公園が占めてるんじゃない?」
もしかして、公園が自己増殖能力を身につけてしまった、とか。
「パレットさんは他の地域から来たの?」
「……ええ、まあそんなところ」
おとなしそうな少年の質問に、金髪のサイドテールの少女は、ツンとした顔立ちで淡々と答える。
「じゃあ、目的地に着くまで、僕がこの公園について説明するね! ここ、陽光公園は、大きく6つのエリアに分けられてるんだ」
「へぇ、遊園地みたいね」
「『遊園地エリア』もあるんだよ! 他にも、『室内プールエリア』『ふれあいエリア』『アスレチックエリア』『のどかな公園エリア』そして今日は『えんにちエリア』も開放されてるんだよ」
えんにちって何だろう。金髪の少女は歩きながらその単語を手帳に残す。
「ふーん。でもあたしがその『室内プール』に入ろうとしたら、金色がどうやら、ハッピーがどうやら言われて入れてもらえなかったんですけど。これって人種差別?」
「『室内プールエリア』と『遊園地エリア』に入るには、金のハピチケが必要なんだよ!」
「金の……ハピチケ?」
「ハッピーチケットのことだぜ!」
金髪の少女が首を捻っていると、もう1人の元気な少年が口を挟んだ。
「なによ、それ」
「普通のハッピーチケットは『えんにちエリア』で遊ぶと貰えるものだぜ。商店街の福引きに使えるんだ」
「そして、金のハッピーチケットは、いいことをするとピエロさんから貰えるものだよ!」
「ふーん……」 (なんだ、この世界の人たちも結局は『自分のため』なわけね)
金髪の少女は、分かったような、分からないような生返事をあげた。そして、一瞬だけ物寂びし気な表情を見せた。
『のどかな公園エリア』をしばらく歩いていると、公園の裏山の神社へと続く石段が三人の目に入った。
「あの石段を登ると、『えんにちエリア』に行けるよ!」
「へへん、俺が一番乗りだ!」
威勢の良い男の子は、2人を置いて石段を勢いよく駆け上っていった。
「待ってよ、ゆうくん!パレットさん、すみません……」
「ガキが、あたしに勝てると思ってるわけ!?」
先ほどまで並んで歩いたはずの金髪の少女の姿が見当たらない。気がつくと、金髪の少女も石段を猛ダッシュで駆け上がっていた。
「あはは……二人とも、最初の目的忘れてないかな……?」
おとなしそうな少年は、一人ゆっくりと石段を登っていった。
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長い石段を登りきり、真っ赤な鳥居をくぐると、立派な神社が姿を現した。夏祭りが行われている神社には多くの人が集まり、参道には屋台が並んで賑わっていた。
「へぇ、公園の裏山にこんなスペースがあるのね」
「『えんにちエリア』はお祭りをしてる場だからな。ま、屋台があるのはえんにちの日だけだけど。あ、俺が勝ったから金髪なんかおごれよ」
「ハッ、さっきのはあんたのフライングだからノーカンよ、ノーカン」
「ケチ」
「あはは……」
そう言いながら、金髪の少女は珍しそうに屋台の一つ一つを注視する。やきそば、たこやき、焼きとうもろこし、イカ焼き、串焼き、フライドポテト。美味しそうな香ばしい匂いが食欲をそそる。
「あっ、狐仮面!」
「ちょっと、いきなりどうしたの?!」
威勢の良い男の子は、何かを見つけて突然走り出した。金髪の少女は慌てて後を追いかける。おとなしそうな男の子はマイペースにその背中を歩いて追った。
「金髪の姉ちゃん、これ買って!」
男の子が眼を輝かせて少女の袖を掴むが、少女は速攻で振りほどく。
「はぁ? 嫌よ。だいたい何よこれ」
「知らねぇの? 今一番流行りの戦隊もの、『超獣戦隊狐ンジャー』だよ。
「いやいや、語呂悪すぎでしょ……」
「こいつ狐ンジャーには興味ねぇけど、この狐仮面はかっこいいんだよな」
「どっちよ」
「狐ンジャー自体は人気なすぎて打ち切りレベルだったからな」
「あはは……この仮面をつけた謎のメイドさんが、去年の秘宝大会の秋シーズンと今年の春シーズンで二連覇中なんだよ。それで憧れてる人がちらほら」
「ふーん……」 (秘宝大会って何? 最近のガキの遊びはよくわからないわね。)
お面屋をあとにし、長い神社を半分ほど歩くと、飲食以外の屋台も並んでいた。金魚すくい、輪投げ、ヨーヨー釣りにボールすくいなど、童心に帰って楽しめそうな遊びがたくさん。
「どれにするかな……よし、あれにしよう!」
「ちょっと、また?」
威勢の良い少年はまたまた一人で駆けて行った。そして屋台の前で足を止める。その屋台には、でかでかと『射的屋』と書かれていた。
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射的屋のひな壇には、たくさんの景品が所狭しと並んでいた。パレットたちは人のいない射的屋の最前に並んだ。
「へいらっしゃい、射的、一ゲーム三発で200円だよー。お嬢ちゃん、坊主、やってくかい?」
射的屋のおじさんはニコニコしながら腕に抱えたコルク銃を構える。
「金髪の姉ちゃん、金出して」
「うっさいわね、だいたいあたし、この世界の通貨持ってないんだけど」
「えー」
「ハッハッハ、最近の若ぇのは面白いねぇ」
その会話を聞いていた射的屋のおじさんは、景気の良い笑い声をあげた。
「嬢ちゃんは外国の人かい?」
「……ええ、まあそんなとこ」
「そうかいそうかい。遠いところからこんな辺境の地に来てくれて嬉しいねぇ。よし、今日だけはおじさんの奢りだ。ワンゲームだけ無料でい!そこの坊主、お前もな!」
「やりぃ!」
なんというご都合展開。こうして金髪の少女と威勢の良い少年は、射的ゲームで勝敗を決することとなったのである。果たして勝敗の行方やいかに。
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