第8話

 「……」

 「残念だったな」


 タトアクの腕輪が赤々と光りだす。なるほど、脱落者の見分け方はそこか。

 俺はわざとらしくニマっと笑って見せ、タトアクの元を後にした。


 ……猛ダッシュで。


 後ろの方でタトアクの怒号が聞こえるが、関係無い。今はただただ逃げるのみ!


 長ったらしい廊下を抜け、中庭らしき所まで走って来た。 

 時折、遠くの方で叫び声が聞こえる。タトアクが俺を探しているのか、他の誰かが「みぃつけた」をされたのか……


 庭の隅に背の低い木があったのでそれに身を隠す。


 しゃがんだ目前で、ひらひらと葉が揺れている。

 俺は木の葉を手に取りじっと見てみた。ヒール草が脳裏に浮かんでいたのだ。

 ヒールは回復の意味。石に魔力が宿る世界だ。草なんかの植物に魔力が宿ってもおかしくは無い。


 ……


 『石に魔力が宿る』と言う言葉を、微塵の抵抗も無しに受け入れていた自分に気づき、笑い出しそうになった。


 「ふふ……」


 ってか笑った。

 ここで俺は一瞬の気の緩みが命取りになると、身を以て学んだ。いやもうホント、なんでこの時笑ったんだろうと、後々になっても公開する。


 「あ、みーつけた」

 「え?」


 突然の女性の声に驚き、後ろを振り返る。


 その時--


 パァン……!


 「!!」


 脳が揺れたんじゃないかと思うほどの衝撃を頬に受け、昏倒しそうになる。


 揺れる視界の中、足を踏みしめ目の前を見上げると、見た目十二歳ほどの少女が『革のベルト』のような物を持って立っていた。


 俺の腕輪は光っている。




 二時間後……


 「……おい」


 ……タトアクが目の前にいる。


 「はい。さーせん」

 「謝る気ねェだろ!」


 俺はタトアクに怒られていた。

 既に太陽は傾き始め、陽が赤くなり始めている。

 俺の腕輪が赤く光ってから約二時間もの間、学校内では熾烈な「かくれんぼ戦争」が繰り広げられていたらしい。

 

 「あんな酷い騙し討ちがあるか!?」

 「酷くて当たり前だろ。騙し討ちなんだから」

 「……っ! ……はぁ。もういい。で、お前はあの後どうなったんだ」


 あの後、と言うとタトアクの腕輪が光った後……と言うことだな。


 「いや俺もダメだったよ。中庭で木に隠れてたら、後ろから鞭っぽいのでパチーン……てね」

 「ふーん……鞭、か」


 タトアクが何やら思わせぶりな挙動を魅せる。

 そして口を開いた。


 「鞭……お前、それってもしかして『血濡れの……」

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魔法は応用が大事 トラクロ @t0ra0kur0

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