第7話

 「そもそもツァード家ってのは……」

 

 腕輪が支給されてから約五分。

 俺には隣にいる男の話が雑音のように聞こえていた。

 タトアク・ツァードは自分の生まれと血筋について長々と語っている。

 ちなみにその間、隠れ場所を探すためにずっと走り続けている。


 「……ってことなんだよ。分かるか?」

 「……ん? あ、ああ! 分かるぜ!」

 「おお! なかなか話のわかる奴だな」


 何のことで喜ばれているのやら。


 「なあ、えっと……タトアク? だよな。この腕輪は何なんだ?」


 不思議とこの青年には気軽に話しかけることができた。


 「何って……腕輪型の『魔法具』だろ。それ以外に何があるってんだ」

 「いや、じゃあえっと……その『魔法具』について教えてくれないか?」

 「はぁ? お前『魔法具』知らないとか……まあいい。教えてやる」


 なんか癪に触る言い方だな。

 タトアクは前を見つめたまま、足の回転速度を落とさずに話し始めた。


 「魔法具ってのは、簡単に言えば『身につけただけで誰でも魔法が使える』ようになる装備の事だ。いや、装備に限った話じゃないかもな。さっきの学校長もチョーカーしてただろ? アレには声がデカくなる魔法がかかってるんだ」


 チョーカー? 

 学校長って、さっき『かくれんぼするよー』って言ってたおじいさんのことだよな。 髭が立派で首元なんか見えなかったぞ……?


 「えっと……つまりはあのチョーカーが、『空気の震えを異常に拡大させている』ってことか?」

 「……? 声と空気の……震え? に、何の関係があるんだ?」

 「え? 音ってのは空間の振動だろ?」

 「空気が震えるから音になるって言いたいのか? 何言ってんだお前?」


 タトアクは馬鹿を見るような目で、俺を見ながら笑い出した。

 え、俺間違ってる?


 「……話、続けていいか?」

 「あ、ああ……」

 「……なんで魔法が使えるのかって言うと、ほら、ここに石がハマってるだろ?」

 「さっき最低ランクとか言ってたな」

 「これは魔石って言って、魔力が宿った石なんだ。これが魔力の根源となって、魔法が使える……ってことだ」


 ……俺が得意とする世界に来た気がする。

 俺のゲーム脳(ゲームに関係しそうな事についてはアブレッシブな脳)が活発になり始めているのを感じずにはいられなかった。


 「まあこんな感じかな? 魔法具に関しては……ってもう十五分経つぞ! そろそろ隠れるところを見つけないと」

 「ん? ああそうだな」


 ……タトアクが焦り始めたのを見て俺は高揚する。

 無意識に口角が上がる。


 「……なんで笑ってんだ?」

 「さあ……? なんでだろうな」


 ここで、金管楽器のような『かくれんぼ開始』の合図が鳴り響いた。


 プァーーーン……


 そして俺はタトアクの肩に手を置き、一言。


 「みぃつけた」

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