ある聖女はただの浅ましい魔女だった

阿房饅頭

独白あるいは告解

 私は魔女です。

 魔法を使える魔女という意味でですが。

 けれども、魔女の世界の魔女でありながら、回復魔法しか使えません。

 他の魔女は派手な攻撃魔法や身体強化をするようなことができる人ばかりでした。

 薬草を使っての病気を治したりするなどはしていたようですが。


 けれども、私には派手な魔法は使うことができません。

 確かに私は魔女の世界で唯一回復魔法を使うことができて、重宝がられていました。

 便利屋、というものでしょうか。

 回復魔法を使える魔女なんてどこにもいませんから。

 この世界には攻撃魔法を使える魔女しかいません。

 火を扱い爆発させる力。水で押し流す力。敵に石をぶつけたり、串刺しにしてしまう石柱を出す力。風で切り刻むことができる力。

 それはどれだけ自分の身を守ることができるのでしょうか。

 けれどもいつしか魔女の世界の女王の傷を癒したところから扱いが変わってきたのです。


 聖女。


 私は聖女となってしまったのです。

 けれども私には魔女としての本来の力はなかったのです。

 人を癒す力はあった、けれどもそれは魔女としての派手な攻撃魔法を使うことはできないのです。


 私はいつもそのことを思っていたのです。

 気づけば自分の名声で他の魔女にいろいろな力を与えることができることを行いました。

 まずは攻撃魔法を扱うように教えを請いました。

 けれどもいつまでたっても力は何もかも、回復魔法にしか使うことができません。


 私はいつしか狂ってしまいました。


 薬草を色々と混ぜ合わせ、そうですね。

 人体実験のようなこともしてしまったのでしょうか。


「それはあまりにも酷すぎるのではないのですか」


 真実を知った親友が気づいたら、そんなことを言ってきました。

 でも、私は狂っていたのでしょう。


「私のやっていることは正しい」


 という感情が自然に浮かび上がりました。

 息を吸うように私は彼女を殺していました。


 切り刻み、毒殺し、流し込む薬。ああ、体中に染み渡らせる血のようなもの。最後には私の血を練りこんで。練りこんで。練りこんで。練りこんで。練りこんで。

 ああ、綺麗。綺麗な人間の花が出来上がりました。

 どれだけ彼女のことを私は愛していたのかを考えてみました。

 血の花はとても美しく彼女の血をなめる私。

 それ以上に彼女の死んだ姿はとても美しい。淫靡なサキュバスのようで私を誘惑されてしまう。


 何て甘美な感触。

 何て美しいのでしょうか。


 最後に親友を蘇らせて、ああその記憶を忘れさせました。


 彼女との会話はそれ以上ありません。


 私はいつ壊れてしまったのでしょうか。

 教えてください。


 誰も知らない私の記憶を聞いた貴方であれば。


 あれば。


 そうですね。

 私は本来の意味で魔女になりました。

 悪魔に魂を売った魔女です。


 私に罰をください。

 私に怒りをぶつけてください。

 私は地獄、煉獄に堕ちるべきなのでしょう。


 だって、私は血まみれの聖女、魔女なのですから。

 見上げると空は赤く染まっているような気がします。


 美しいのです。

 非常に美しくて、綺麗で。


 私は狂っているのでしょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある聖女はただの浅ましい魔女だった 阿房饅頭 @ahomax

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ