微生物キャバクラのずっとアフター

ちびまるフォイ

微生物キャバクラの売り上げは?

「1番テーブルのアオミドロにドンペリ入りましたーー!!」

「10番テーブルのミジンコにシャンパン追加です!!」


店内では客が注文した内容が大声で復唱される。


「先輩、すごいですね。これが微生物キャバクラですか」


「ほらこれ見ろよ。俺の推しのアメーバちゃん」


俺は後輩にテーブルの上にある水槽を指さした。


「……見えませんけど」


「それがいいんだよ。肉眼で見えなくてもそこにいる。

 存在を感じながらお酒を飲むのがいいんじゃないか」


「それ自分の家で飼えばいいんじゃないですか?」


「後輩よォ、お前ロマンがわかってねぇな。

 ここでたくさん酒を注文すると、俺の推し微生物が注目されるだろ。

 それが気持ちいいんじゃないかよ」


「はぁ……」


後輩の反応は薄かったが俺も最初はそんな感じだった。

自分の手で成長させていくアメーバを見てどんどんハマっていった。


「お会計、150万円になります」


「ひゃっ……ええええ!?」

「先輩、お金あるんですか!?」


会計時に飲みすぎたと気付いたときにはもう遅かった。

店の人気ナンバーワンのミカヅキモに張り合って飲んでいるうちに

歯止めが効かなくなっていたのだろう。


「ツ、ツケってききますか?」


「……しょうがないですね」


この日はお店にツケてもらって難を逃れた。

俺のアメーバちゃんを店で一番の微生物にしたい。

みんなに「わぁーすごい」とか「すごい成長してますね」とか言ってもらいたい。


会社ではまるで褒められない自分を重ねて、夢を実現してほしい。


しかし、当面は金の問題があった。


「はぁ……これから給料何か月分も我慢する生活になるのかぁ……」


微生物キャバクラにも行けない。

俺がツケを払うために充電している間にも、

ミカヅキモには客が金を貢いでぐんぐん大きくなっていくのだろう。


負けたくない。


追い詰められた俺にはいつか後輩の言った言葉を思い出した。


"自分の家で飼えばいいんじゃないですか?"


「それだ!!!」


微生物をアフターで連れ出すことはできるが日帰り。

でも、黙って持ち出して成長させてから戻せばいい。


お金もかからないし、一気に成長させられるはずだ。


どうせまだ肉眼では見えない。

いなくなっても気付く人はいないだろう。


「よ、よし……誰もいないな……」


無人のキャバクラに潜入すると目的の水槽まであっさりたどり着いた。


「ふふふ、俺のアメーバちゃん。大きくしてあげるからね」


水槽を持ち出して店を出る途中、奥に大量の段ボールが見つかった。

中には大量のペットボトルが見える。


「なんだあれ。酒じゃなさそうだし……まあいっか」


見つかる前にさっさと退散しなくては。

俺は水槽を持って店を後にした。



俺「ようこそわが家へ! アメーバちゃん!」


俺「きゅ~~!」


思わず自分でアメーバをアフレコしたくなる。

これからアメーバと一緒のラブラブ成長生活がはじまるんだ。


「もっと大きくして店に返してあげるからね。

 店でナンバーワンのサイズにしてあげるよ」


アメーバが一番成長できる環境を作らなくては。

すぐにネットで検索をはじめた。


 ・

 ・

 ・


一方、微生物キャバクラの店では水槽がないことに気付いていた。


「店長! アメーバの水槽がありません!」


「ああ、本当だね」


「なに落ち着いてるんですか!? うちのナンバー2ですよ!?

 これじゃ売り上げが下がってしまいます」


「逆だよ。これから売り上げは一気に上がる」


「えっ?」


しばらくして、店の方に電話がかかってきた。


『もしもし? おたくで売っている"成長水"というのが

 アメーバの成長にもっとも適している水なんですよね。

 300ケース発注してください』


「ご注文ありがとうございました」


聞き覚えのある常連の声に店長は犯人をつきとめていた。

ぽかんとする従業員に店長は教えてあげる。


「わかっただろ? どうしてうちがキャバクラと

 水の卸売りを一緒にやっているか?

 微生物を持ち出したときが一番水が売れるんだよ」


「ま、まさに水商売……」


微生物キャバクラは今日も潤っていた。

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