中
「私、
私がクラスメイトにそう告白したのは、秋がいよいよ深まっていく頃だった。
誰もいなくなった教室の中は、他の教室や校舎の外から色んな曲の旋律が聞こえて賑やかだっていうのに、とても静かだった。
斎内君は、私の言葉を理解できない、信じられないみたいな顔になった。今まで何度も女の子に告白されたことがあるのに。私に呼び出されたときに、本当にわからなかったの……?
「…………
斎内君は気まずそうに視線を逸らし、それだけ言う。
……私の胸に、何か重いものを思いきり打ち込まれたみたいな衝撃が走った。
だから、私は言わずにいられなかった。告白も、次の言葉も。
「
「っ」
私の指摘で、斎内君はぎょっと目を見開いた。それからすぐ、顔が真っ赤になる。
目にうろたえていた斎内君は、頭をがしがし掻きながら私を見た。
「……そんなに俺、わかりやすかったか?」
「少なくても私には、ね」
恥ずかしそうな顔が可愛くて切なくて、私は苦笑しながら答えた。
……わからないはずないよ。だって斎内君、あんなに美伽ちゃんのこと、大切そうにしてるもの。一年のときから見てきたんだから、わかるよ。
特に今年は、梅雨と文化祭の後に美伽ちゃんが大変なことに巻き込まれて、そのたびに斎内君は美伽ちゃんのために何かしようとしてた。一緒に学校に来たり帰ったり、休憩時間に美伽ちゃんのところへ行ったり、嫌がらせの犯人を捜したり。美伽ちゃんが犯人に怪我させられたときには、皆が見てるのに美伽ちゃんをお姫様抱っこして保健室へ連れて行ったし。美伽ちゃんが斎内君の気持ちに気づいてないみたいなのが、不思議なくらい。
「天崎。俺の気持ちを知ってるなら、なんで」
「言いたかったからだよ」
不細工になるのも構わず、私は即答した。
「一年のときから好きだったの。斎内君が演奏してるのを見たりとか、曲を教えてもらったりとかしてるうちに……好きになってた」
斎内君はかっこいい。でもそれは、ただ見た目がそうだからというだけじゃない。音楽に――――ピアノに対してまっすぐだからだ。ピアノを演奏している姿も、出来が特別いいわけじゃない私にうんざりした様子も見せず教えてくれる姿勢も、すべてがそうで強い力があって、私は目も心も惹きつけられた。ずっと見ていたいと思った。それも、ただ遠くからじゃなく、そばで。
――――――――でも、斎内君の隣にいるのは、彼がそばにいてほしいと願っているのは私じゃない。
斎内君が好きなのは幼馴染みの美伽ちゃん。明るく親しみやすくて、斎内君とたくさんの思い出を共有してきた、綺麗な声で歌う女の子。――――私の専攻違いの友達。
それが、私は苦しかった。
「斎内君。お願い、私と付き合って」
私は斎内君の大きな手をとって、もう一度告白した。
「おい」
「美伽ちゃんが斎内君のことを、男の子として好きかどうかわからないでしょう?」
「っ」
「でも私は斎内君は好きよ。誰に聞かれたってそう答えられる」
言葉を詰まらせる斎内君にそう、私はたたみかけた。
ああ、なんてみっともないんだろう私。こんな人の痛いところをつく、嫌らしい言い方をするなんて。断られてるのに、斎内君が誰を好きか知ってるのに。こんなの最低だよ。
そうわかってるのに、私の喉は今日に限ってとても通りがよくて、胸の中から生まれた言葉を速やかに運んでいく。そして唇も、壊れた玩具に勝手に動いてた。
「私、斎内君のことが好きなの」
わかってる。斎内君が美伽ちゃんのことを好きなのは。斎内君が美伽ちゃんに告白しないのはきっと、美伽ちゃんとなんのわだかまりもなく一緒にいられる距離を失くさないためと、今は美伽ちゃんにとってそういう時期じゃないから。斎内君なりに美伽ちゃんを守って、告白のタイミングを見計らってるんだと思う。
それでも私は、斎内君のことが好きなの。好きで好きで、もう黙っているなんてできないの。
「これから好きになってくれたらいいから。私にチャンスをちょうだい」
――――たとえ、美伽ちゃんが斎内君のことを好きだとしても。
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