<第一章:キングスレイヤー> 【01】


【01】


「そこ、配線間違っているのである」

「はいはい」

 片手で電子機器を整備するのは大変だ。

「ソーヤさん、手伝いますか?」

「いいからお前は自分の分を―――――」

「終わりましたよ」

「嘘だろ」

 マキナはもう箱に詰めていた。両手があるからとか、そういう作業の早さではない。

「やってくれ」

「おまかー」

 任せた。

 こいつ超優秀じゃないか、調子に乗るから口に出さないけど。

「宗谷、服だ」

 ガンメリーは着替えを持って来た。

 随分と懐かしい野戦服と軍用ブーツ。フード付きのポンチョ。

「吾輩にデザイン能力はないので、見た目そのまま素材だけ変更した。耐衝撃性防刃軽量コンポジット繊維。並の刀剣の一撃なら問題なく防げる。例の化け物相手では心もとないが、通常の防具よりは効果はある。ブーツには、振動発電機能を含むゾナサイト装甲を仕込んだ。普段は砂のような素材であるが衝撃により硬化する」

 早速着替えた。

 袖を通し素直な感想を一つ。

「おいガンメリー、肌触りが最悪だぞ」

 ゴワゴワで、荒い紙やすりを着ているようだ。

「そこは考慮しないのである。着ていれば慣れるのだ。インナーを挟むとか工夫するのだ」

 服と靴に体を合わせろと。まるで古い軍隊のようだ。

 続いてガンメリーは眼鏡を取り出した。

「バージョンアップしたのだ」

 かけると、前と同じようにシステムは立ち上がるが、

「Arkとは、何だ?」

 Ver.表示の横に数字ではなく見知らぬ文字。

 どこかで聞いた事がある。確かイゾラが、

「これはお前にである」

 ガンメリーはマキナにある物を渡す。

「え? マキナにですか、これは………クラシックですね」

 作業を終えたマキナは、ガンメリーから機械を受け取った。

 首掛けストラップ付きの古い二つ折りの携帯電話。

「重力子でチャンネルを調整した。宗谷の眼鏡と通信できる。ダンジョン内でも問題なく通じるはずだ」

「マジですか! 凄い技術ですね!」

 マキナは歓喜して携帯を弄る。ひ弱な癖に指が凄い速度で動いていた。

「本当にダンジョンと地上で通信できるのか?」

「多少ノイズは出るだろうが、それ以外は問題ないのである」

 こいつ現代のA.Iより上の技術を。

 てか話し逸らされたな。

「このArkって―――――」

 眼鏡の液晶の隅にメールの表示。目で追うと開いてしまった。

 目が痛くなるほどカラフルな絵文字&大量の顔文字が並んだメールだ。

 要約するとこう。

『ソーヤさーん、これからメール沢山しますね♪ すぐ返信してください。最低でもマキナの文字量の半分は』

 黙れ。

 と、返信。メールの着信通知が大量に来るが一括で削除した。

「して、これはどうするか?」

 ガンメリーは、折れた刀を差しだす。

 ロラの爪より作りし魔刀、名をコウジンと言う。

「戦いの後、戦場の武具の大半はレムリア王に回収された。それを吾輩が地道に盗んで取り返したのだ」

 一応の手入れはされていた。輝きこそ新品そのものだが、以前のような魔性はない。大量生産品のような無味無臭な刃。

「吾輩の技術でも、死んだ魂は蘇生できない」

「魂か」

 剣には魂が宿る。

 ドワーフの信仰だ。魂が滅びぬ限り、刃は不滅とも言っていた。つまり――――――

「このまま保管してくれ」

「了解であーる」

 これはもう、屑鉄なのだ。それを残すのは感傷でしかない。しかし、こういうモノが僕にまだ残っている人間らしさだ。一つくらい残しておかないと連中と同じになる。

「では宗谷。代わりを渡そう」

 ガンメリーは背伸びをして、奥の木箱を開けた。

「そりゃあるよなぁ」

 そこには、マスケット銃が詰まっていた。

 第一の英雄が従えた獣兵達の得物。

 ふとした疑問が湧く。

「そういえば、この場所は誰に聞いた? 僕は誰にも言っていないぞ」

「宗谷自身から聞いた。そのうち分かるのだ」

 もちろん言っていない。

 変わらないなぁ、こいつのこういう所は。

「改良品である」

 ガンメリーは箱の奥から銃を取り出す。

 短銃に改造されたマスケット銃だ。

 受け取って状態を確かめた。

 銃身が切り詰められ、ストックも半分のサイズに。発射装置も手が加えられている。従来の拳銃と比べると大きいが、不便なく携帯できるサイズだ。

「片手で給弾できるよう中折れ式にした。紙製薬莢を使い弾頭は銀である」

「紙? 大丈夫なのか?」

 弾丸を受け取り指で掴む。

 弾と言うよりは、カイコの繭をノリで固めたような代物。

「強度は問題ない。発射後も薬莢は燃焼して残らず、劣化速度も早いので隠蔽に丁度良い」

「なるほどな」

 トリガーに指をかけ短銃を弄る。照門近くにあるハンマーに似た部品を親指で引くと、短銃は折れて薬室が開いた。

 口で咥えた弾薬を入れる。銃を閉じ、頭の中で引き金を引く。撃ったらリロード。

 イメージでは問題ないと思う。

 人間であれば指先一つで殺せる。

「有効射程距離は、20メートルである」

「十分だ。そんなもんだろ」

 問題は威力だ。こんな豆鉄砲では、人間以上には威嚇にもならない。せいぜいクラッカーが関の山。

「ガンメリー、もっと強力なのがいる」

「ある。とっておきの物が」

 ガンメリーは床板を剥がした。

 ズラリと並ぶ得物。

「おい、こいつは………修理できたのか?」

「無論。数は少なくスペシャルもない。だが」

「そうだな」

 今の僕には十全の代物だ。これ以上の物は望めない。

 予想以上に装備は整った。

「よし後は」

「ダンジョンに行くであるか?」

「ああ」

 懐かしの十四階層へ。

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