<第二章:ダブル> 【01】


【01】


『―――――――!』

『―――――――?』

『!?』

『?』

『!』

『?』

 言い争う女の声で目が覚めた。

 横に明るい照明、映るのはテントの天井。

『S6あなたは204日の作戦日数の間、一体何をしていたのですか? 隊員の健康管理もまともにできないとは、A.I失格です』

『失礼な! マキナは色んな事をしてます! ソーヤ隊員にも許可されてやっているんですぅー! 文句いわれる筋合いなんてないんですぅー!』

『では聞きます。何をしていたら、こんな状態を見過ごすのですか? 定期的な健康診断はしていますか?』

『えとそれは、最近“ちくわぶ”作りにハマっていて。あれって小麦粉と水で作れるのですよねぇ。いやぁ、ゴブリンの方々に珍しがられて――――――』

『あなたを解雇します。廃棄処分して予備部品にします』

『なはっ!』

「おい、うちのポンコツA.Iを勝手に処分しないでくれ」

 流石に止めた。

 円柱型のA.Iポットが二体、広めのテントを占有している。

 片方が灰色、もう片方はオレンジ色。オレンジ色のポットは、声から形までマキナにそっくりだ。同タイプのA.Iなのだろう。

『おはようございます、先遣隊の方。あなたの冒険に関する情報や、特にこのS6の状態について等々、沢山聞きたい事はございますが、先ずはお体を大事にしてください』

「ああ、僕は」

 血を吐いて倒れたのだった。

 体の様子見るとブラッケットがかけられていた。頭には低反発の枕だ。

『はい、過労ですね』

「え、過労?」

 驚きの診断。

 僕はそんな倒れるような無理は………………あ、してる気がする。

 蜘蛛と戦った後から、つまらん会議をして、蜘蛛と遭遇、で第二隊と遭遇するまで休みなしだった。割と無理してた。

 最近は、英雄の相手をしたりと忙しかったし。疲れが溜まっていたのだろう。頑丈なのが取り柄とはいえ、度が過ぎるか。

『しっかり栄養を取って、休養してください。マキナ達が来たからには安心です。だから、こんなポンコツは処分しちゃいましょーねー』

『ギャァァァァァ!』

 偽マキナがポット内部から電ノコを取り出し、本マキナが悲鳴を上げた。

「うるさい! 寝られないでしょ! 何時だと思ってるの!」

 テントが開いて、パジャマ姿の座敷童が現れる。

 さっきの少女だ。

「ああ起きたの? でも、あたしが眠いから詳細は朝ッ」

 テントは閉じられた。

『という事で、ソーヤさん。今日はここで眠りましょう。敵地ですが、マキナがしっかりお守りするのでご安心を』

「おい、マキナ」

『はい、何でしょう?』『はい、何ですか?』

 二体のマキナが同時に返事をした。

『ソーヤさんは、マキナを呼んだんですぅー! 文脈から察せないのですかぁー?!』

『はあ? あなたは後継機ですよね? なら、マキナという名前はマキナを指すのです。年上にはもっと敬意を払ってはどうですか?』

『先輩ですってぇー? 家電の古いやつって、それこそポンコツじゃないですかぁ。異世界で廃品回収業者来てくれますかね』

『久々に腹が立ちました。屋上来なさい』 

 喧嘩すんな。二倍うっとおしい。

「ええと、二人共マキナでは困る。呼び分けしよう」

『はい! ソーヤさん、はい! マキナに案があります!』

「却下」

『聞く前に?!』

 絶対煽る意見だから無視。

「お前ら、型番何だっけ?」

『マキナは、第六世代人工知能AIJ006マキナ・オッドアイV166S6でっす』

『マキナは、第五世代人工知能AIJ005マキナ・ヴァリアントV16S5Pです』

「それじゃ」

『第五世代ぃぃ? よくそんな性能でマキナにデカい口が聞けましたね。ポンコツメダルを後でプレゼントします』

『お言葉ですがS6。マキナの性能は第六世代相当です。5.5世代というのが正しいですね。元は第六世代のデータ収集用試験機体ですし、今は改修を受けたのであなたと同等。いえ、あなた以上の性能です。異世界の垢に塗れて、隊員の健康状態をおろそかにするポンコツにいわれたくないです』

『ぐぬぬ、そ、そんなの何とでもいえるじゃないですかー! マキナには、異世界でしっかりやっていたという実績があります! ………あなた、ここに来る前はどこで何を?』

『いえ、それは』

『何を?! いえないような事ですかぁー?!』

『け、研究用に保管された後は、ダミーの記憶を流されて廃墟で手品を………』

『はぁ? はぁぁぁ? 保管? 倉庫で埃被っていて、廃墟で手品ぁぁにゃぁぁぁ?』

『ですがしっかり勉強して異世界には来たので問題は』

『お勉強したからって異世界で活躍してるマキナに―――――』


 うるさーい! と外から声。

 後、僕は、


「ゴホッゴホッ」

 また血を吐きそう。

 僕の過労の原因ってマキナか? 何かそんな気がする。

 さっさと呼び方を決めつけよう。永遠に喧嘩しそうだ、こいつら。

「僕と異世界に来たマキナはS6でシックス、オレンジ色のマキナは5Pでファイブ。双方これで良いな」

『マキナはマキナのままが――――』

「いいな!」

『はい』『はい』

 二人共、機体を曲げてうなずく体勢になる。

 やばい、頭がくらくらする。本当に体弱っているな。

「マキナシックス」

『はい、何でしょう』

「ランシールと、エアに連絡を頼む。今日はここで寝る」

 体動かないし。

『ランシール様には、連絡しておきました。安心してください。他所の女性宅で外泊とはいっていませんよ。グフフ』

「はい、どーも」

 いらんお世話をな。

『ところで、シックス。何故、情報の同期を拒否しているのか説明を』

『ノーコメントです。ファイブ』

『簡易スキャンした所、あなたの機体は、予備パーツではなく他の機体パーツで構成されている。共食い整備をした理由と状況を答えなさい。他、二体のA.Iはどこに?』

『知りませーん』

『………そのふざけた態度は、そろそろ我慢できませんね』

『ふぇーマキナ子供だからわかんなぁーい? おばちゃんコワーイ』

「お・ま・え・ら」

 寝かせろよ。

 過労で倒れた人間の傍で口喧嘩するな。

『では、シックス。圧縮言語で情報交換を。同期を拒むならこれが一番効率的でしょう』

『はい、ファイブ。ですが、マキナはそんな簡単に口を割るほど軽い女ではないので、無駄に終わると先にいっておきます』

『はいはい、では――――――ピャー』

『ピャァー』

『ピャ?』

『ピャー?』

『ピピピャピ』

『ピピピピャピピ』

『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』『ピャーピャー』

 う、うざい。

「おまえら」

 抗議しようとしたら、また頭がくらっとする。

 起こしかけた体が倒れ、頭は枕に着地。そのまま流れるようにスヤァと意識を失った。

 そして夢を見た。

 変な夢だ。

 二人の同じ顔をした女の子がいる。一人は灰色の髪で、もう一人はオレンジ色の髪。

 その二人が、ピャーピャーと歌い僕の周りを回る夢を。

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