<04>
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『大変申し訳ございません!』
夕方。
雪風達が家に帰ると、玄関で倒れているマキナがいた。
「え、どうしたの?」
「おう、無事か?!」
老人が廊下を駆けてくる。心配そうな顔だが、片手にはうどんの入った丼ぶりを持っていた。
「無事よ、おっちゃん」
『吾輩がいるのだ。当たり前であーる』
「だったら、さらわれる前に対応しろ!」
老人に激怒された。
「ホントそれ」
雪風には呆れられる。
『そういわれてもなーである』
ガンメリーは、批判を右から左に受け流す。
「で、おっちゃん。これは?」
マキナは依然として玄関に伏せていた。
「ああ、迷惑かけた事を詫びたいそうだ。気にしてやるな」
「マキナ、いいから顔をあげて」
『はい』
マキナがゴロンと転がり上を向く。思った感じの、面の上げ方ではない。
「あなたが責められる理由ないから、気にしないで」
『分かりました。………気にしません!』
すくりと立ち上がり、マキナは鼻歌混じりで廊下を去って行く。そのポットはピカピカで新品同然であった。
(少し気になるような、そうでもないような。したたかなだけかな?)
さておき。
「おっちゃん、悪いんだけどさ。ちょーっと昔のツテ使ってもらえない?」
「良いが、軍と企業どっちのだ?」
「うーん、両方?」
雪風は、老人を手招きすると外に連れ出す。家の前には大型のトラックが止まっていた。
それと巨大なA.Iが一体。
『ドーモ、コンバンワ』
ゴリラポットが片手を上げて挨拶をする。
老人は顔をしかめた。
「この機体の解体と、水溶脳を浄化してミニポットに移植して欲しいの。装備されている内蔵武装は軍に流して、部品は企業に売り払って。足の付かない形でお願いします」
「そりゃまあ問題ないが。面白いポットだな。個人設計か?」
『ゼロ世代技術の流用であろう。雪風を拉致した男は、某軍に技術協力しているA.I技術者であった。知る機会はある』
「ブラックボックスのゼロ世代技術か。まあ、何事も勉強だ。やってみるか」
『オネガイシマス、ミンナーアツマレー』
「は?」
トラックの荷台がウィング状に開き、中にみっしりと詰まったゴリラポットがぞろぞろと降りて来る。
「おい、何体いる?」
『後続を合わせたら、戦闘A.Iが40機、サポートポットが3機、工作用ポットが6機である』
「こりゃ、徹夜だな」
『吾輩も手伝うのである』
「お前は、その前に調整だ。まーた勝手に改造しやがって馬鹿野郎」
『らじゃ』
ガンメリーは修理主任に敬礼する。
倣ってゴリラポットも敬礼をした。
「それじゃ、一体ずつ家に入れ。残りは庭だ」
『サーイエッサー』
ゴスン、ゴスンと足音を鳴らしゴリラポットが移動する。何事かと、近隣住民の方々が玄関から飛び出してきた。
雪風はペコペコと頭を下げる。
「おっちゃん、菓子折りある? 食べてないよね?」
「クッキーの詰め合わせならあるぞ」
「ご近所さんに配って来る」
「おう。居間のお茶缶の所に図書カードがあるから、一緒に配れ」
「了解。今日は出費凄いなぁ」
「頑張ってくれ社長」
「はいはい」
仕事は夜半まで続き、そして夜が明けた。
「あれ? うーん、これ超黒字?」
『黒字であるな。例の研究者の資産と、設備丸々奪えたのは美味しかった。隠蔽工作に大金をかけても余りが来る』
朝、居間のちゃぶ台で、雪風はタブレットの数字を見て会社の現状を把握。
安く見積もっても、総資産が六倍になる。ただ隠し資産ではあるが。
「ガンメリー。あんたさぁ、これ見越してあたしがさらわれるの見過ごした?」
『そんなまさか、ハハであ~る』
ガンメリーは露骨にそっぽを向く。
怪しいが、追及しても無駄なので止める。
『は~い、朝ご飯できましたよ~』
下部にエプロンを巻いたマキナが朝食を持って来た。
ちゃぶ台に置かれたのは、ご飯に塩鮭、卵焼き、白菜の浅漬けに、味噌汁である。
「………………」
雪風は、普通の朝食を凝視した。
「ガンメリー見てる? これがまともな朝ご飯というものよ。出前でもなく、コンビニ弁当でもなく、まともな! 朝食というものよ!」
『別に大した食物ではないのであーる。味噌汁はインスタントであるし』
「あんたの豆缶温めたものや、ジャガイモ茹でただけの料理とは違う!」
雪風は『いただきます』と手を合わせて、箸で卵焼きを一口。
「ふ、ふわっふわ。ふわっふわ」
続いて鮭を頬張り、ご飯を掻き込む。よく噛んで飲み込み。白菜で味をリセットして、味噌汁を一口すする。
「マキナ………600点の朝食よ」
『ありがとうございます。ちなみに最高得点は?』
「おっちゃんの作った。素うどん30点。ちなみにガンメリーは全て1点よ」
『はわわ、高得点ありがとうございます』
マキナは感謝を伝えると、ガンメリーを見つめた。
『ガンメリー様。第九世代相当なのに、料理は出来ないのですか?』
『吾輩、料理は女の仕事と思っている。だから別に出来なくても――――――』
『出来ないのですかぁ?』
心底馬鹿にした口調であった。
『………………』
『まあ、マキナは元々お料理ロボットでしたから、このくらい機能外でも余裕ですけど。………そうですかぁー第九世代相当でも、お料理は出来ませんかぁー』
『マキナ、ちょっと地下に来るである。上下関係を教え込むのだ』
『ぎゃー! 雪風ちゃん助けてー!』
「おかわり」
ガンメリーの可愛がりは、おかわりによって防がれた。
雪風は朝から4杯もおかわりをして、食後にお茶を飲んでまったりした。
昨日拉致された者とは思えない落ち着きようだ。
「あ˝ー幸せ。色々あったけど、マキナ拾って大正解だわ。何で高性能の癖にご飯も作れないのかしら、こいつ」
『大変心外である』
ガンメリーは不機嫌であった。あぐらをかいて貧乏ゆすりをしている。
『♪~』
マキナは鼻歌混じりで洗い物中、懐かしいが思い出せない曲を奏でていた。
「あ、そうだ」
雪風は別の事を思い出す。
「マキナ、絵は描いた?」
『は~い。描きましたよー』
洗い物を片して、アームを布巾で拭きながらマキナは腹部のポットから絵を取り出した。
その時、
『ゼンシーン』
ピッピッピッと、規則正しい笛の電子音が響く。
それに合わせてA.Iのミニポットが“歩いて”来た。通常のミニポットに短い手足を付けた機体。まるで玩具の兵隊である。
先行で改装を終えた4機は、軍隊のように行進して、
『ゼンターイ、トマレ、ケイレイ』
綺麗に整列して雪風に敬礼する。
『オハーヨ。ゴザイマス!』
『ゴザイマス!』
『ゴジャリマル!』
『ゴジャイマス!』
ミニポットに移された戦闘用A.Iは、長い間手足のある生活をしていたせいで通常のミニポットをコントロールできなかった。
修理主任が機転を利かせて、ポットに手足を付けた所、A.Iは自力で最適化して自立して歩き出した。もう少し調整を重ねれば、走り出す事も可能だろう。
当たり前だが、A.Iの法では完全に違法である。
「はい、おはよう。あんた達も絵は描いた?」
『ラジャ』
『カイター』
『カイタヨー』
『カイター』
修理主任は今も完徹で作業中だ。良い歳なのに仕事中毒は治らず、しかも本人は仕事中に死ねれば本望と思っている。
雇用の契約で『仕事中は何が起こっても止めない』と一筆書かされたので、雪風やガンメリーには止めようがない。
『ワイらも描いたー』
「あんたら前にも描いたでしょ」
『また描いたー』
『ねー?』
『ねー』
通常のミニポット達も集まり、描いた絵を持って来る。
禁止された反動なのか、雪風のA.I達はお絵描き好きが多い。
「それじゃ、皆で見せ合いっこしようか」
『はーい』
と、A.I達の返事。
「さんはい」
一斉に見せられた絵は、デティールや絵力こそ違うが全て同じモチーフであった。
青い空、
緑の草原、
そして、そこに立つ角笛を突き刺したような白い塔。
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