<第二章:仲間を求めて>【03】
【03】
【133rd day】
ギリギリ十人集める事ができ、冒険者組合で登録を済ませた。
その後は、メンバーを連れてキャンプ地に行く。
用意した飯と酒で交友を深めた。
「変な面子だな」
という、僕の膝に座ったマリアの感想。
テーブルの面々は、確かにおかしな連中ばかりだ。
「ハッハッハ! そうかメディム。貴様もこいつに使われているとはな!」
「持ちつ持たれつです。一匹狼のあんたにゃ分からんでしょうが」
打って変わって上機嫌なバーフル様が、親父さんに絡んでいる。
「これは、貝? え、金属ではありませんよね? 中は??」
「お触り禁止である」
ラザリッサが、ガンメリーの兜をベタベタ触って中を覗こうとしていた。
「貴女が、ソーヤさんの奥様で。あ、はい。よろしくお願いします」
「はい、ワタシが。おに―――――ではなくソーヤの妻のラウアリュナですわ。ホホホ」
エアがラナのふりして、瑠津子さんをからかっていた。
「………………」
リズは頬を膨らませ、黙々とカレーを食べていた。
「フレイ! 結婚するとは、どういう意味ですか?!」
「はぁ~何でシュナ様がいないのですか、はぁ~」
ラナに襟首を掴まれ振り回されるフレイ。しかし、心ここにあらず。
確かに、変な面子である。
まとめると。
僕、ラナ、エア、リズ、親父さんの通常パーティに。
そこに、フレイ、ラザリッサ。瑠津子さん、ガンメリー。
おまけで、バーフル様。
以上が、竜撃退の血盟パーティだ。パーティ同士で組む場合は、組合でリーダーの血を取り契約する。血を使った契約というのは、重い契約だ。
この血盟で、何か不当な問題が発生して訴えが来た場合、リーダーにはそれ相応の罰が降る。場合によっては命を奪われる契約である。
まあ、他人を信用するには必要な契約だ。
「ソーヤさん、聞いて良いですか?」
「え、どうぞ」
瑠津子さんの質問。
質問大歓迎。互いの疑問と、わだかまりはここで濯ぎたい。
「膝のお子さんは?」
「妾は、ソーヤの第二婦人である」
マリアの言葉を、
「といっている。知り合いの子供です。訳あって預かっています」
さくりと訂正した。
エルフの幼体から成体までの成長時間は、ヒームと大差ない。成体になってから、不老と美貌の人生が続く。
つまり、エルフのロリっ子は年相応のロリなのだ。ただでさえ、ラナが童顔のせいで疑われているのに、小さくなったランシールのせいで更に疑われているのに、これ以上のロリコン疑惑を重ねたくない。
(では、そこの)
急に小声になる瑠津子さん。
(お胸の大きい。エルフさんは?)
(あれは、ワタシの娘のエアですわ)
エアが悪乗りしている。
(なっ、ソーヤさん。子持ちですかッッ。ラナさん、そのスタイルで経産婦ですかッ)
(ホホホホ)
そろそろ止めるべきか。
面白いので見ていたい気持ちもある。
「あなた! フレイと結婚するとはどういう事ですか! 説明を求めます!」
フレイの方で説明するっていったのに、結局僕が説明するのか。
「なっお兄ちゃん! どういう事!」
エアの叫びに、
「お兄ちゃん? というかエルフが一夫多妻だからって、ソーヤさん何人と結婚するつもりなんですかッ! 度し難いですよ!」
瑠津子さんも叫ぶ。
「ソーヤ、妾は第二婦人だぞ」
マリアが続いた。
「おふ」
頭を抱える。
疑問を濯ぐ所か、増してしまった。
このパーティ大丈夫だろうか?
主に僕のせいで。
食事を済まし、色々と問題を説明した。
リズと親父さん、バーフル様は適当にくつろいでいる。
「まず」
左手でエアの肩を抱く。妹も抱き返してくる。
「これがエアで。妻の妹」
「そうよ」
誤解を招いたのに悪びれる様子もなし。何故か、親指、人差し指、小指を立てる。
妹は悪ガキめいた所がある。精神的に子供っぽいし、ラナにいわせると、エルフは体が成長したからといって成人という訳でもないらしい。
エルフの試練をこなして、初めて成人と認められるものだ。
教育もそこで受ける。
それを受ける前に、森から捨てられたエアは、ある意味。いつまでたっても子供なのだ。後、ラナが子供と甘やかしている部分も大きい。ミスラニカ様も陰で甘やかしている。僕も、甘々だと思う。可愛いのでつい。
てか、僕の方で教育しても良いのだろうか? それでエアがエルフ社会に戻れなくなっても困るが。
さておき。
「義妹という事ですか………それはそれで問題が」
瑠津子さんは、複雑な表情を浮かべる。
右手でラナの肩を抱いて引き寄せる。
「後、こっちが僕の妻でラウアリュナだ」
「はい、妻です」
何故かラナも、エアのように指を立てる。
誰が教えた? 意味分かってるの?
「そして妾が、第二婦人かつ娘であるマリアだ」
最後にマリアが、両手を広げて僕の前に立つ。
エルフ三人娘揃い踏み。
「強い!」
瑠津子さんの感想は、意味が分からない。
「が、頑張れ自分。戦う前に負けてどうするのッ」
「これぞ、専守防衛でありますな」
ガンメリーの感想は、更に意味が分からない。
「で、あなた。フレイとは竜を倒した後、すぐ結婚して即離婚してくださいね」
「了解だ」
ラナはそういう事で納得してくれた。
ワーイ、これで僕もバツイチだぞ。
「フレイ! あなたもそれで良いですね?!」
「は~~~~~い」
草原に倒れたままのフレイが答える。全てがどうでも良さそう。縦ロールが萎れて、ただのツインテールになっている。
使い物になるのだろうか?
「ラザリッサ、あなたも了承しなさい。私の夫と、あなたの主人を即刻別れさせると」
「出来れば、叔母様がレムリアを離れるまで偽装結婚をしてもらいたいです。ついでにいうと、ラウアリュナ様と一時的に離婚して欲しいのですが」
そのラザリッサの提案は受け入れられない。
ラナも同じようだ。
「私は、ソーヤにどんな女が出来ても、終いに下女扱いされても別れるつもりはありません。死ぬまで離れません」
「僕は、どんな女とこれから先付き合う事になっても、ラナが僕をゴミのように見つめても、死ぬまで手放さない」
二人して似た様な事を口にする。
「はあ………………まあ、何とか誤魔化します」
ラザリッサは、やれやれと肩をすくめて頷いた。
「何だろう。姉と兄がなーんかムカツク」
妹に、足をグリグリ踏まれた。
「ソーヤ、妾とはいつケッコンするのだ?」
ウキウキのマリアが聞いて来る。
「マリアが大きくなったらな」
「それは身長がエアくらいに伸びたらか? それとも、おっぱいがラナくらいになったらか?」
「両方だ」
「ゼイタク者め。まあ、待っておれ。妾は身長ノビノビで、バインバインになるぞ」
『へー』
姉妹に頭を撫でられるマリア。
「な、なんだ?!」
髪をくしゃくしゃされ、面白い髪型にされた。
エビの触覚みたいなアップのツインテール。
「ごめんさい。他人の幸せで過呼吸になりそうです………………」
瑠津子さんが両手をついて地面に倒れる。
「姫、ガッツですぞ」
ガンメリーは、慰めながらパンツを覗いていた。
クソ、こっちから見えない。
「おう、メディム。このパーティ大丈夫か?」
「さあ、手遅れかもしれんな」
よりにもよってバーフル様に心配される。
リズは、不思議な事にバーフル様の膝の上で丸くなって眠っている。何か意外だ。野生の猫ばりに警戒心が強いのに。パーティの皆にも心を許していないのに。
「えーと、それじゃ作戦の相談をしても良いですか?」
正直、エルフとキャッキャウフフして一日過ごしたいけど、それじゃ僕の冒険と人生は立ち行かない。
「まず、竜を倒す方法として魔法使い組は何か案は?」
ラナが、いの一番に挙手。
「以前、竜亀に効果があった『ブライクニル』はどうですか?」
「確かに」
あの魔法は不完全な状態でも、竜亀に致命傷を与えた。本物の竜にも効果があると思う。
ただ、一個だけ問題が。
「ラナ、空にいる者にアレを当てられるのか?」
「あ」
ラナもそこは失念していたようだ。
「フレイ。あなたの魔法で精度を上げて直撃させなさい」
「えー空? 何の魔法を当てるのかしらぁ?」
ぐったりフレイの生返事。
「リ・バウを媒源にした氷槍を」
「英雄に投げさせても無理ですわー。死色のリ・バウは、空から降りてきた氷雪の神。それを空に投げるなど神の理に反します。空に着くころには飛散しますわ」
「では、竜を狩る魔法に何か案は?」
「竜を狩るぅ~? 魔法でそんな事できるなら、世界の竜はとっくに全滅して武器防具の素材ですわ。あの忌々しい鱗。氷も炎も通さなければ、ルミル鋼の武具すら弾く。
ど~してもと、殺す手段を上げるなら、竜殺しの加護を持って来るしかありません。
でもこれって、大量の信奉者と信仰心を持って英雄を持ち上げ、“まず”竜を殺す所から始めなければならない。竜を殺す最優の方法が、竜殺しを成した英雄を用意するなんて、混沌の逆説ですわ。魔法使いが頷ける内容ではありません事よ」
竜を殺したくば、竜を殺せ。
そりゃパラドクスだな。
グラッドヴェイン様よく勝てたな。
「では、ラーズを召喚して投石。大質量の攻撃を」
「投石なんかが空を飛ぶ竜に当たるかしら?」
「風を作り出して動きを封じるのは?」
「竜を叩き落とすほどの嵐を作り出すには、わたくしとラウニャーさんの魔力では全く足りませんわ」
「一番強い炎が効かない。氷も効かない。そもそも、どちらも届かない。魔法で竜を空から落とす方法………………」
「………………」
ラナとフレイが考え込む。
二人共、攻撃魔法の本場、ホーエンス学派の魔法使いである。
加えて『終炎の導き手』という最高峰の称号を持っている。つまり、この二人で良い案が出ないのなら魔法による手段は諦めなければならない。
『………………』
二人共首を捻っている。
いきなり詰んだか?
「吾輩に良い考えがあーる」
すると、ガンメリーが割って入って来た
「炎も氷も竜には効かぬ。では、雷である」
「カミナリ?」
フレイが首を傾げ、
「雷鳴のリュリュシュカですか? かの神から生み出せる魔法は、光と音と衝撃。それで竜が落とせるとは思えません」
ラナの疑問に、ガンメリーが実践して見せる。
「雷の力、つまりは電気である」
鎧の右手に小さい放電球が発生する。
「吾輩のマクスウェル機関を利用して、魔力を電気に変換する。だが、連動第二種永久機関の効率が酷く落ちる為、六機を結合した状態でもソフトボールサイズが限界である」
え、こいつ何いってるの?
永久機関っていったのか?
「エイキューキカンって何ですの?」
フレイにもさっぱりなようだ。
「変わった魔法ですね。いえこれは、マキナと同じなのかしら?」
ラナが指先で放電球に触れる。
「ふわっ!」
バチっと弾かれ、指を引っ込めた。
「ラナ! 大丈夫か?!」
「あ、大丈夫です。ちょっとビリっと来てビックリしました」
無傷のようだ。僕は心臓が止まりそうだった。
ラナも時々、好奇心で危ない事をする。
「お二人の魔力を吾輩に注いでくれれば、大槍サイズの電を形成できる。是非、注いで欲しいのだ。さあ、今、すぐに!」
「………………あなた、何か私。嫌です」
「あら、珍しく気が合いましてね。わたくしも気持ち悪いと思っていた所よ」
いきなり嫌われるガンメリー。
そりゃ瑠津子さんのパンツ覗いているの目撃されているからね。
「あの鎧の方。これから命を預け合う仲間に素顔を見せないのは何故です?」
「あ、それは!」
ラナの疑問を瑠津子さんが飛び出して答える。
「ガンメリーは顔に酷い火傷を負っているので、女性に見られたくないんです」
「これは失礼であった。吾輩うっかりである」
ガンメリーが兜を取る。
中身は、
「この通り、あまり人に見せても喜ばれない顔であーる」
年若い男性の物だった。顔の左半分が火傷の痕で歪んでいる。それでいても、はにかんだ笑顔が好印象の青年である。
嘘だろ。おい。
前に見た首なしガンメリーは何だったの?
「これは失礼を、私の邪推でした」
ラナが頭を下げて詫びる。
エルフとは思えない低姿勢。彼女の良い所だ。
「という事で、吾輩に魔力を注いで欲しいのである!」
何故か、兜を着けると好色に見える。
「それは嫌です」
「嫌ですわ」
やっぱり拒否られた。
「はいはい!」
瑠津子さんが手を上げる。
「自分に魔力を集めるのはどうでしょうか? 何か自分は、深層でガンメリーと繋がっているらしくて、魔力や再生点のやり取りができます」
「呪術の類ですわね。あまり褒められた手段では、ないですわよ」
「いやぁ、自分はそのくらいしか冒険の役に立てなくて」
照れながら瑠津子さんが髪を掻く。
「そこまでいうなら、私は構いません。他に手段はありませんし」
「ラウニャンさんがそういうなら、わたくしも了承しますわ。デンキという魔法にも興味がありますし」
魔法使い組は、話が纏まったようだ。
「早速、試して見ましょう。移動しますよ。北に行った所に標的を用意してあります」
北には凧を上げて、竜の標的を作って置いた。
ラナが率先して魔法使い達を移動させる。
さて、
「じゃ、僕ら前衛と索敵の仕事ですが」
「ああん? そんなもんお前。落ちてきた竜を適当にボコるだけだ」
バーフル様の豪快な作戦。
いやいや、作戦とはいえないだろ。
「諦めろソーヤ。この人はこういう男だ。変な連携や指令を出すより、適当に任せた方が強い。念の為、俺が傍で手綱を握る」
「いうようになったな、女の尻追っかけていた餓鬼のくせに」
「やれやれ、決着付けた話を持ち出さないでくださいよ」
バーフル様は、親父さんに任せよう。
僕じゃ御せない人だ。
ラザリッサは………………あ、いない。フレイに付いて行ったようだ。あの人は、フレイを守る事しか頭にない忠義者だ。最終的に、僕の指示には従わないだろう。
フレイの乗り気でない結婚に反対していないのは、冒険という危険な仕事を止めてもらいたい気持ちの表れであろうか。
後は、
「リズは、おおーい。リズ!」
完全に眠りの世界に入っているリズを叩き起こす。
「なにッ?」
不機嫌そうに起きる。
「お前は、魔法使い組を竜の炎から防げ。出来るな?」
「はいはい」
面倒くさそうに返事をする。バーフル様の尻尾を抱き枕に、再び眠りに落ちた。
いつも通りだが、いつも以上に不安になる。
「お兄ちゃんワタシは?」
「エアは、竜の落下地点を予測して親父さんに伝える。何が起こるか分からないから、不測の事態に備えてくれ」
「了解っ」
素直な妹がいつも以上に頼りになる。
「ソーヤ、妾は」
「マリアはお留守番だ」
当たり前だ。
「ええー、そろそろ妾も冒険に連れて行くべきだろ?」
「危ないからな。逃げる前に丸焦げになるかもしれないからな」
「ええー」
「ええー、じゃない。野菜を山盛り食べさせるぞ」
お前に何かあったらトーチに合わせる顔がない。
「他には………親父さん、他の冒険者の動向ですが」
「安心しろ。獲物を横取りされるような事はないさ。グラッドヴェイン様と同じ理論で、竜の撃退に上級冒険者は参加しない。中級以下の冒険者が参加対象だ」
「それはある意味」
漁夫の利の作戦が潰れる。
さて固まった。
竜は知れば知るほど、倒すのが無理くさい生物。この即席パーティで何とかなるのだろうか? いや何とかするのだ。やるのだ。人間、配られたカードで勝負するしかない。
僕の仕事は、皆が棒立ちにならないように命令を出す事。支持は得られなくても指示は出す。無謀でも無茶でも、声を張って人に動けという。
それがリーダーの仕事だ。
そして、ぶっつけ本番しかない。冒険者らしい無謀な戦いが待っている。
すると、
遠雷が響く。
遠く離れた場所から天に上る雷が見えた。
はたしてこれは、竜を落とせるのか?
まずそれが問題だ。
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