<第二章:仲間を求めて>【01】


【01】


 気を取り直して、二組目のパーティ。

 頼むから、すんなりいってくれと祈る。 

 訪れたのは老夫婦が営む小さい宿。彼女達の住まいは二階なのだが、今日は下の階でパンを焼いていた。

「どうも」

「あれ、ソーヤさん。どうかしましたか?」

 軽く挨拶すると笑顔で返してくれる。

「実は冒険の誘いに」

「今、手が離せないので座って待っててください」

 いわれた通り、僕は近くのテーブルに着く。

 彼女は、古びたオーブンからパンを取り出して棚に並べていた。

 焼きたてのパンの匂いに気持ちが落ち着く。さっきの勇者達の騒動が洗い流されて行く。

「ガンメリー、お客様にお茶を出して」

「はっ、直ちに」

 奥の部屋から声が返って来る。

 しかし、人は変わるものだな。というか女は変わるものか。

 瑠津子さんは、ちょっと前までは男と見間違う野暮ったい服装だったのだが、今はフリル付き白いブラウスに、下はミニスカート。足は黒いニーソに覆われている。

 シンプルながら、清純さを下味にしたエロスが滲み出る恰好だ。

 栗毛は癖が強くボリューミーなセミロング。小柄でスレンダーな肢体。ラナと同系統なマスコット的可愛らしさ。止めに若妻を連想させるエプロン姿。

 良いお嫁さんになれると思います。

 瑠津子さんの『ご飯にする? お風呂にする? そ・れ・と・も?』という奴を想像してしまった。

「粗茶ですが」

「あ、どうも」

 ガンメリーがお茶を出してくれた。

「おま………」

「吾輩に何か?」

「いやいや、どうした?」

 前に見た時は100㎝くらいの小人だったが、今は170㎝近く。

 鳥のクチバシのような兜は変わらず、前掛け付きの鎧も変わらず、ただサイズが普通の人間と同じ物になっていた。

「瑠津子さん、何かガンメリーが変ですよ!」

「ああ、それ」

 エプロンを畳みながら瑠津子さんがやってくる。

「この恰好見てください」

 彼女は、少し照れながら恰好を見せて来る。

「お似合いです」

 女子高生若妻スタイル。

 なんか、AVタイトルみたいだ。

「酷いんですよ。朝起きたら、服が全部処分されてこういうのしか無くて。しかもショーツなんて………………それは、その」

 どんな下着ですか?

 ちょっと見せてください。いや、見えそう。

「これ、スカート短いですよね」

「はい」

 妹のホットパンツは、もっと短いけどね。

「隙あらば覗いて来るんですよ。ガンメリーが」

「なるほど………」

 頷く。

 まあ、僕も小人ならやるだろうな。実際、子供の姿の時やってたし。

「あまりにもしつこいので、怒って縛り付けたら。気付くと一個体になってました」

「え、はい?」

 ドラクエのスライムか、こいつら。ますます、謎が深まる生き物だ。

「前より紳士的なので良しとしています」

 瑠津子さんは、近くの棚の上にエプロンを置く。

 彼女の身長には高い場所なので、背伸び、両手伸ばし、つま先立ち。その一瞬の隙を見逃さず、ガンメリーは素早く屈みパンツを覗き見る。

「ん?」 

 と瑠津子さんが振り向くと、すぐ体勢を戻し軍隊式の気を付け状態に戻る。

 全然紳士的じゃない。

 動作が素早くなって、ムッツリになっただけだ。

 大丈夫だろうか。貞操とか。

「それで冒険のお誘いとは?」

 瑠津子さんもテーブルに着く。

 僕は忘れていたお茶を一口飲む。トウモロコシの風味がした。

「近々、街に竜が現れるのは知ってますか?」

「はい、もちろん。冬至の竜ですよね。今日も冬越し用のパンを焼いていました」

「では話は早い。僕のパーティは、竜の撃退に参加しようと思っています。是非、瑠津子姫とガンメリーに協力してもらいたい」

「良いですよ」

 返事早っ。

 ありがたい早さだ。

「状況が進んだら、また顔を出します。あの、何か気を付けておく事ありますか?」

「ソーヤさん、不躾な質問ですが。報酬のお話を」

 確かに大事。

 親しき中にも報酬ありだ。

「基本、パーティ数で分割しようと思う。人数で分けてしまうと僕らのパーティが結果的に得をしてしまうから」

「あの、個人的なお願いでも良いですか?」

「内容によりますが」

 面倒でなければ何でもする。

「ソーヤさん! ………………あ、ちょ、ちょっと待ってください。まだ心の準備が」

 深呼吸をする瑠津子さん。僕のお茶を一気飲みした。

 応援のガッツポーズをするガンメリー。こいつの背後に、有名なテニスプレイヤーの幻影が見えた。

 フレイとラザリッサも変なコンビだが、この人らも負けていない。

「竜を撃退できたら! デートしてくださいぃィ!」

「あ、はい」

 それくらいなら。

 丁度、ラナと行きたい店の下見がしたかった。エアかマリア、ランシールでも良いのだが、彼女達だとバレる可能性が高い。

「………………え、ホント?」

「いや、ホントです」

 何故、自分で言い出して聞き返す。

「ソーヤさん。結婚しているのですよね? 奥さん、怒りませんか?」

「大丈夫。秘密にするから問題ない。それに見つかっても怒らないと思う」

 サプライズで連れて行きたい店なのだ。バレては困る。

 でもラナは、そんな事で怒るような器量ではない。デートといっても、ご飯食べたりするくらいだろ。無問題。

「えーと、ソーヤさんの奥さん像がよく分からなくなりました。どういう人なんですか?」

「いってなかったっけ? そこのヒューレスの森出身のエルフだよ。魔法使いだ」

 王族というのは伏せておこう。

 親から縁を切られているし。

「美人さんですか?」

「美人というより、可愛い系かな」

「ぐッ、キャラ被り。スタイルは?」

「ん? まあまあ」

 瑠津子さんはお世辞にも大きいとはいえない。それでラナの胸の事をいうのは失礼だと思う。これも伏せよう。

「お二人の出会いは?」

「僕が死にかけの所を彼女が助けてくれて。九死に一生を得た」

「運命的ッ?!」

 何で死にかけたのかも伏せよう。あれはまあ、頼る者も失う者もない人間の蛮行だ。我ながらやっちまったと思う。守る者がいる今は、絶対できない真似だ。

「それで………やっぱりソーヤさんからプロポーズを?」

「いや、彼女の方から」

「積極的ッ!」

 提案はラナからなので。その後、僕から改めていったが。

 あ………偽装結婚だったな。忘れていた。そう思うと少しモヤっとしたモノが胸に湧く。

 しかし何だろう。この質問責め。

「え?」

 ガンメリーが瑠津子さんに耳打ちする。ごにょごにょ、と聞き取れない言葉。

「ホント?! エルフってそうなの?!」

「姫、吾輩応援する」

「うん!」

 瑠津子さんとガンメリーが片手でハイタッチをする。

 仲が良くて大変結構ですが、そこの鎧姿の不思議生物は、あなたのパンツを覗いていました。

 再確認する。

「では、撃退は参加オーケーという事で?」

「モチのロンです! ギタギタにしてステーキにしてやりましょう! 財布と鞄にしてあげますッッ!」

「吾輩、粉骨砕身で戦う」

「イエーイ!」

「ウェーイ!」

 二人は両手でハイタッチ。釣られて僕も二人とハイタッチ。

 こうして、二組目のパーティはすんなりと勧誘できた。


 僕、この戦いが終わったらデートするんだ。

 ………………フラグがダブってしまった。

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