<第二章:仲間を求めて>


<第二章:仲間を求めて>


 シュナの不参加で、いきなりケチが付いたが気を取り直し仲間探しに。

 改装中の街を歩き回る。

 よく見なくても、僕のように仲間探しをしている冒険者は多い。

 竜の撃退。

 高難易度なのは確かだが、それでも功績や名声、報酬を望む者は多いようだ。

 そうなると、彼女はどうなのだ? 人格はさて置き凄腕の魔法使いだ。僕のように考える者も多いはず。

「はーい! 最後尾はこちらでーす! ここは、勇者フレイ・ディス・ギャストルフォ様をお誘いする列です! 最後尾はこちらでーす! 列を乱さないッ! 横入りもしない! そこッ! 切り裂くぞゴラァァ!」

 多いようだ。

 行列が出来ていた。

 馬小屋から伸びた人の列は路地まで続く。

「ただ今の待ち時間、一つ鐘でーす! 勧誘はパーティのリーダーのみとなっています! リーダーの方のみとなっていますッッ! 繰り返しいいますがッ! リーダーの方のみです!」

 こういう事はしつこくいった方が良い。それでも聞かない奴はいるが。

 腕時計を確認。

 現在時刻は、午前9時50分。大体12時に鐘が鳴るから、約二時間待ちという事か。

「あの、並びます」

「はーい! 最後尾になりますねー! 列を乱さないでくださいねー!」

 声の大きい獣人の娘だ。背中に大きな翼がある。耳はエルフより尖り細い。手の爪は鋭く撫でられたら顔がズタズタにされそうだ。

 日本人らしく列に並んでしばし待つ。

 何故か、先頭の列から男性の泣き声や女性の嗚咽が聞こえる。それと、やたら響く明朗な女性の声。

 これ、勧誘の列なんだよな? 疑問に思うが、10分、20分と待つ内に暇の方が大きくなる。

 今の所、帰って行く冒険者全てが、何かしらの精神的ダメージを負っている。

 それと、

「なあ、お前。何で並んでるの?」

「いや、列が出来ていたからつい。一応、リーダーだし」

「フレイって誰だ?」

「さあ? 街中で魔法ぶっ放す奴じゃね」

「ああ、アレかぁ。胸が大きいって噂の」

「そうそう。大きいらしいな」

 異世界でも、適当に行列に並ぶ人間がいるようだ。

 列が動き彼女達が見えてくる。

 赤いドレスでグラマーな、金髪縦ロールの魔法使い。エネルギッシュで愛嬌のある天然ボケの人なのだが、何故か今日は伏せがちの目線と態度。心なしか持つ杖も萎れている。

 勇者フレイ・ディス・ギャストルフォ。ラナと並ぶ凄腕の魔法使いだ。

 いつものメイドさんも傍に。

 大柄の爬虫類系の獣人。蛇の目に頬には鱗、スカートから覗く太い尻尾。長い黒髪はツインテールである。

 後もう一人、知らない顔がいた。

 恰幅の良い年配の女性だ。フレイと似た赤いドレス姿。魔法使いを表す大きな杖も携えている。

 更に列が進み、先頭の冒険者と年配の女性とのやり取りが見えた。

「はい、あんた。到達階層は?」

「十九層だけど」

「何年かかってだい?」

「二年だ」

「はい、結構。あんた才能ないよ。帰って畑でも耕しな」

「なっ!」

「はい! 次!」

「え、えと、二十五層です」

「何年で?」

「五年です」

「はぁ~無駄な人生歩んでいるね。それだけの時間があれば普通の女は、子供作って家庭築いてるんだよ。まあ、もう戻れない年齢みたいだけど色々諦めるんだね」

「ひぃ!」

 酷いな。

 踏破階層が冒険者の全てではないのに。

 ここに、それで立ち止まってる人間がいるのに。

「ああもう、面倒だわ。ちょっとー! ルルム!」

 女性が大声で獣人を呼ぶ。

 すちゃっと呼び寄せられる鳥獣人。

「はい! 叔母様!」

「勧誘条件を付け足しな。踏破階層三十階層。いいね、三十階層以上!」

「了解っス!」

 獣人は元の位置に戻り大声で叫ぶ。

「お誘い条件は、パーティのリーダー! それと三十階層以上踏破した冒険者でーす!」

 それを聞くと、

「何だ、バカらし」

「いこいこ」

「中級以上なら、こんな所で呼び寄せするなよ」

「飯行こうぜー!」

『おー!』

 仲良く皆去って行った。

 それもそうだ。ここらの一画は、新米から儲かっていない初級冒険者達の根城。中級以上の冒険者は、卒業した場所だ。

「はい、次!」

 気付くと僕しか残っていない。

 視線を足元に向けたフレイは、僕の事に気付かない。

 ラザリッサに軽く手を振って挨拶する。彼女はペコリとお辞儀。

「で、到達階層は?」

 ふてぶてしいオバさんだ。

「三十階層底部。まあ、三十四階層って事になるな」

 僕もふてぶてしく返す。

 礼には礼を。非礼には非礼だ。

「へぇ何年でだい?」

「132日だ」

「は?」

「132日だって。耳が悪いからそんなに声がデカいのか?」

「証文はあるかい?」

 階層踏破の証文は、担当にいえば発行してもらえる。うちのパーティは、降りるのが速いので発行した事はなかった。

「ないよ。担当に聞けば分かる事だろ」

「担当の名前は?」

「エヴェッタさんだ。銀髪で一本角の素敵な女性だ」

「ああ、レムリアには飼われたホーンズがいると聞いた事あるわね。あんた名前は?」

「ソーヤ………」

 少し迷って、ちょっと前に手に入れた貴族の位を付けた。

「ソーヤ・ウルス・ラ・ティルト」

「ラティルト………………エリュシオン上級貴族の名前だね。あんた何者だい?」

「貴族の放蕩三男だ。兄が優秀だから人生を好きなように謳歌している」

 さりげなく指輪の印璽を見せる。

 実際、本物だから騙すには十分だろう。

「あんたの他に、仲間は?」

「エルフ射手と魔法使い。老獪の冒険者に、エリュシオン系統の女騎士」

 少年剣士は今回はお休み。

 あ! やばい。リズに声かけるの忘れた。拗ねてなければよいが。

「で、資産は幾らだい?」

「は?」

 流石に、この質問はない。

 お見合いや婚活でも酷い質問だぞ。

「あのなぁ」

 腹が立つ前に呆れてしまう。

 どうしてくれようか。これ。

「叔母様、こちらの魔剣をご覧ください」

 背が軽くなったと思ったら、またラザリッサがアガチオンを盗んでいた。

「希少な赤輝石の剣身。未知の技術で刃にした技術。これ一振りで金貨3000枚の価値があります。ああ、やっぱり素敵!」

 アガチオンに頬ずりしながら、うっとりと語る。これがなければ良い人なのだが。完璧な人間とは中々いないものだ。

「へぇ、あんたがそこまで見込むとは。逸品だね」

 オバさんが感心する。

 ハァハァするラザリッサ、何故かアガチオンが嫌がっている気がしたので返却を求める。

「ラザリッサ、剣返して」

「もうちょっと、もうちょっとだけ! ちょっとだけですから! ………………はっ、そ、ソーヤ様、腰のそれは何でしょうか?」

 やっべ見つかった。

「見せてください! 見せてください! ほんのちょっと! ほんのちょっとで良いのです!」

「分かった! 分かったから! 腰に抱き着くな!」

 勘違いされる!

 渋々、刀を抜いて見せる。手渡さない見せるだけ。最近やっと、多少、それなりに、微妙に、使いこなせるようになったのだ。

 変な癖を付けられたら困る。

「………恐ろしい」

 また、うっとりすると思ったら違う反応だった。

「何これ、何で剣の形をしているの? それが美しいなんて気持ち悪い。おぞましい」

 ドン引きされた。

 悪酔いしたみたいに口元を押さえ、彼女は下がる。

「ラザリッサ、剣返せ」

「ちぃ」

 どさくさに紛れ、アガチオンを自分の荷物に収めようとした。油断も隙も無い。

「あら、これも良い剣だわ。偽装してあるけど中央の鍛え上げね」

 更に背が軽くなったと思ったら、ザモングラスの剣をオバさんにパクられた。

 こいつら全員、スリのスキルでも持っているのか? 勇者の前職は盗賊ですか? そもそも盗賊って、職業じゃなくて犯罪者の種類だけどね。

「というか、あんたら知り合いかい?」

 僕は返事をする前に、二つの剣を奪い返す。

 全くとんでもない勇者御一行だ。

「ソーヤ様の奥様と、お嬢様は、ホーエンスのご学友です」

「へぇ、中々のもんじゃないかい。フレイ………………フレイ! 聞いてるのかい!」

「あ、すみません。どうでも良いので夢の中で現実逃避していました」

 この人も相変わらずだな。

 フレイは、オバさんにキンキンと怒鳴られる。

「あんたがいつまでたっても結婚相手を決めないから、仕方なく呼び込みしてやってんだよ! シャキッとしないかい!」

「は?」

 確かに、竜の撃退とは一言もいっていない。

 いやいや、結婚の勧誘なら先にいえよ。詐欺だぞ。………って、女もいたけど?

「良い歳して、男も作らずフラフラ、フラフラ! あんたくらいの歳には、あたしゃ三人目を腹に抱えて冒険していたものさ!」

 胎教に悪そうだ。

 フレイが憔悴した顔で手を上げる。

「あのぉ叔母様。わたくし自分の伴侶は自分で決めますし、そこいらの凡骨を持って来られても」

 事実だが失礼な。

「お嬢様。ソーヤ様です、よく見てください」

「そ………………ソーセージさん?」

 微妙に合ってるが故に腹が立つ。

 というか、根本的な疑問がある。

「僕は結婚しているのだが、さっきラザリッサから“奥方”という言葉が出たけど」

「あぁん? そんなもん奪い取ればよいだけの事。略奪こそ女の本懐だよ」

 このオバさんも勇者の血筋なんだよな?

 いいのか? 勇者が略奪とかいって。

「うーん、ソーセージさんと結婚。自動的にシュナ様も付いて来る」

「来ない来ない」

 何いってんだこの人。

「資産も中々、冒険者としても有望。家柄も良い。優良物件だよ。フレイ、これに決めておきな。嫌なら例の商家の六男だよ」

 ラザリッサがこっそり僕に耳打ちする。

(実は縁談がありまして、ギャストルフォ本家にとって非常に良い条件なのです。金銭的に。叔母様は無理矢理にでも、お嬢様をその縁談に、と)

(じゃ受ければ良いじゃないか。僕は竜の撃退の協力要請に来ただけだ)

(では、今だけ上手く合わせてください。後でごまかします。最悪、逃げます。適当に合わせるだけで、お嬢様を好き勝手に出来ますよ?)

 うーん。

 後々面倒にならなければ良いが、仕方ない。フレイは戦力になる。

「フレイ、話があって今日は来た」

「え、はい?」

 ガミガミいわれているフレイが僕の方を向く。

「もうすぐ竜が来る―――――」

 と、

「ああ、そういや、この国ももうすぐ冬至だねぇ」

 僕の話を遮り、オバさんが感慨深く何か思い出に浸る。

「あたしゃ冬ってのは――――」

「ソーセージさん、竜がどうしました!?」

 フレイが話を遮り僕に詰め寄る。たぶん、話長いんだろうな。このオバさん。

「フレイ、こんな事は君にしか頼めない。一緒に、竜と戦ってくれないか?」

「え………………竜と?」

 流石のフレイも即答はしない。

 ラザリッサも傍に寄って来て三人で悪巧み。オバさんは何か、独り言で夢の世界にいる。

(お嬢様、ここはソーヤ様と一旦結婚して急場を凌ぎましょう)

(ええ、でもわたくしソーセージさんに、全く、これとして、欠片も、毛先のほどすら、男性としての魅力を感じませんわ)

(それはお嬢様が、年下の少年しか愛せない倒錯者なだけです。ソーヤ様は普通に魅力的な男性ですよ。普通に)

(普通は余計だ)

(どうします? お嬢様。あの陸揚げされた魚人より酷い顔の男と、付き合いますか? 結婚しますか? 子供を産みたいですか?)

(ムリ! 絶対ムリですわ!)

(じゃ、ソーヤ様にこの場は任せてください。合わせてくださいまし)

「わかりましたわ」

 フレイの弱々しい返事。

「ん、ん」

 僕は軽く咳払いをする。

「フレイ、一緒に竜と戦ってくれ」

「………はい」

 フレイは渋々頷く。

「竜を撃退した暁には………………には」

 ああ、いいたくないなぁ。

 仕方ないかぁ。

「結婚しよう」

「はい、ヨロコンデー」

 フレイの棒読み返事。

 ラザリッサが、すかさず拍手。

 こんなんだが、一応オバさんはごまかせた。

 フレイとラザリッサの協力を得られた。


 僕、この戦いが終わったら結婚するのかぁ。

 ………………駄目だ。死亡フラグにしか思えない。

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