<第二章:再び、異邦人ダンジョンに潜れない>【01】

【01】


「とまあ、そういう事で。しばらく冒険は中止。メンバーには休暇を与える」

『蜂蜜♪ 蜂蜜♪ は~ちみつ♪』

 キャンプ地に帰り報告するが、彼女らは聞いちゃいない。

 妻と妹が、褐色のロリエルフを真ん中に手を繋いで歌い踊っている。

「マリアとエアはまだ分かるが、ラナまで」

 褐色ロリのマリアは、時々預かる知り合いの娘だ。

 ここに来た時は、ぶかぶかの野戦服を着ていたが『可愛くない』と妹がコーディネイト。

 下は古着のショートパンツに、上はスポーツブラみたいな胸巻き。それにフード付きのジャケットを羽織る形。獣人の女性のように露出多めである。

 マリアは寒い所育ちだ。レムリアの気候は熱いくらいなので丁度良いらしい。

 ただ、彼女の父親から。

『娘の恰好に対する説明を求める』

 という書類を五十枚ほど送り付けられた。

 面倒なので無視している。

『蜂蜜は、エルフの副交感神経を高める他、セロトニンの分泌を促すようであります』

「麻薬かよ」

 カンテラに偽装したA.Iのミニ・ポットが転がって来る。

 拾い上げると雪風が続ける。

『後この歌は、マキナが作詞作曲した。蜂蜜を称える賛歌であります』

「また変な事を」

 キッチンでは、人間大のポットが“今日も”ホットケーキを焼いている。

 A.Iマキナ・ポット。一緒に異世界に降りた現代世界のA.Iである。

 昨日冒険から帰ると、どこからか手に入れたベーキングパウダーで、こいつはホットケーキを焼いた。それに手に入れた蜂蜜をたっぷり垂らし、エルフまっしぐらの大好評料理となる。

 おかげで、昨日の昼食、夕食、夜食。今朝の朝食と全部ホットケーキだ。

 そして、少し早い今日の昼食もホットケーキのようである。

 栄養のバランスを考えろ。

『みなさーん! 焼けましたよー!』

『ヒャー!』

 マキナが、熱々で厚々な特大ホットケーキを皿に置く。

 バターの塊を上に、それから瓶に入った蜂蜜をどばり。

 ホールケーキのようにカットして行く様を、エルフ三人娘が食い入るように見つめる。

 切り分けて、各自の皿に置かれ、

『いただきます!』

 彼女らは叫びと共にがっつく。

 ナイフを使わず、フォークでぶっ刺しガツガツと。お行儀が悪い食べ方だ。三人とも王族の血筋なんですが。

 親が見たら、何故か僕が怒られそう。

「あ、お兄ちゃんお帰りー」

「ソーヤ、お帰りー」

「あなた、お帰りなさい」

『ソーヤさん、お帰りなさーい。ホットケーキ食べますか?』

 やっと僕に気付く。

「いや、僕は仕事があるから街に戻る。君らは適当に休んでいてくれ」

『はーい』

 と彼女らはホットケーキに意識を戻す。

 なんだろう。僕今、凄くホットケーキに嫉妬している。

 ………………でも、明日もこれだったら全力で止めるぞ。

『ソーヤ隊員。雪風も行くであります。及ばずながら力添えします』

「頼む。後、アガチオンは?」

 雪風をベルトに下げる。

『アガさんは、現在も休眠中であります』

 アガさん?

『霊禍水に漬けていますが、機能回復の見込みは不明であります』

「それは参ったな」

 戦闘の依頼があったら不安だ。

 組合長に一人といった手前。取り消すのも癪だし、何よりも他のメンバーを変な事に巻き込みたくない。

 いや、巻き込んで大事にしたくない。

 特にラナとかラナとか、ラナとかがが。それで依頼が増えたら本末転倒である。

「ま、一人でやりますか」

 自惚れだが、簡単な戦いなら切り抜けられる。

 しかし冒険ではないので、装備は身軽なままで良い。

 野戦服にポンチョという普段着。

 装甲は外してある。腰のベルトには刀を差してある。手慣れたザモングラスの剣は、メンテナンスついでの偽装の為、鍛冶屋に預けた。

 慣れたメガネ型デバイスをかけ、ポケットの小銭とカランビットを確認。

 他に入用な物はないか考え、無しと出た。

 慣れた街だし、頼れる人間も知っている。

 前に、他所の大陸に飛ばされた時と比べたら、何と気の楽な事か。

「じゃ行ってくる」

「お兄ちゃん、いってらっしゃい」

「ソーヤ、お土産買って来いよ~」

「あなた、いってらっしゃい」

『ソーヤさん、お気をつけて』

「うーい」

 軽く手を振り、また街に足を向ける。

 そういえば、ランシールとラーズがいない。ランシールはお城の用だろうが、ラーズはどこだ? 菜園にも見当たらないし。

 と、

「待たぬか、妾も行く」

 テントから出て来た動物が僕のポンチョに飛び付く。爪を立てて昇り肩に座った。

「ミスラニカ様、珍しい」

「不遜じゃぞ」

 頬に頭突きをくらう。

 金目、灰色の長毛の猫。割とモフモフ。

 僕の契約した謎多き神様である。

 変に逆らうと後がうるさいので、そのまま一緒に草原を歩く。

「いつもは眠っている時間ですよね?」

 この神、伊達に猫の姿はしていなく。一日十六時間は眠る。

「あの珍妙な歌が五月蠅く眠れんのじゃ」

「それは、すみませんでした」

 後で注意しよう。

 神から苦情が来たとあっては仕方ない。

「良い。子供の楽しみを奪っては妾の格が落ちる」

「左様で」

 この神、妙に子供に優しい所がある。最初会った時も、子供にお駄賃上げていたし。

 僕の財布からね。

「それはそれとして、雪風」

『何でありますか?』

「リズが、アガチオンに何をしたのか記録しているよな?」

『無論であります』

「解析結果を教えてくれ」

『プライベートの問題である為に、リズ様、もしくはベル様の許可を頂いて来るのであります。そうでないなら、開示はできないのです』

「え、どういう事?」

「ハァ、お主全然じゃな。ラウアリュナに女の扱いを習っているのか?」

「え? え?」

 なんのこっちゃ。

 神はともかく、A.Iが分かって僕が分からん事ってなんだよ。因数分解の応用か?

『ソーヤ隊員のデリカシーは、中学生レベルであります。奥様との営みはどうなっているのでありますか?』

「お主、童貞か?」

「いやいや」

 神とA.Iにセクハラされる。

「さっきから、さっぱり分からない」

『仕方ないのであります。雪風が、オブラートに包んで発言するのです。………女の子の日で………す』

「ん………………生理?」

 それはつまり、あの血は。

『奥様によると、処女の経血は魔力凝縮体として一級品だそうです。保存が利かない上に、衛生的な問題で、経口摂取できないのが問題でありますが』

「なんか生々しい話になったな」

「女とは、そもそも生々しいものじゃ」

「さいですか」

 女神にそれをいわれたら、僕はなんもいえねぇです。

「なあ、雪風。つまりアガチオンは、処女の生き血で………何でああなったんだ?」

『不明であります。魔力は雪風達のセンサーでは計測できない事象ですから。わずかに観測できた情報に、八割の予想を加えると、アガさんの無反動推進機関は重力推進の一種かと。それがリズ様の血でオーバーロウドした、かもしれないのです』

「SFだなぁ」

『SFでありますな』

「エースエフとはなんじゃ?」

「あの、ミスラニカ様。つかぬ事を聞きますが、アガチオンを知っていたりします?」

「う?」

 ミスラニカ様の正体が、僕の想像通りなら知っていてもおかしくはない。

「さあ、どうじゃろ。秘密じゃ秘密。しかし、お主の信仰心と貢物しだいでは話してやるかも知れんぞ」

「貢物って、ミスラニカ様。何か欲しい物でも?」

「たまには街の飯が食いたいぞ」

「じゃお昼は街で。何か希望はありますか?」

「何でも良いぞ」

 ああこれ、いざ店選ぶと反対されるパターンだ。

 女性の生々しさはともかく。面倒な女性との経験はそこそこある。

 まあ、妹が一番面倒な性格していたからな。

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